第7話 メモと犬。






「ほーら、クロ。ホグズミードで沢山お菓子を買って来たよ!」

私はクロの目の前にホグズミードで買ってきたお菓子や夕食を広げた。その時一段と寒い風が吹き、身震いしながらマフラーに顔を埋める。朝からちらつき始めていた雪も夕方にはすっかりと降り積もり、辺り一面銀世界だ。
クロは夕食にありつくよりも先に、私の体の臭いをしきりに嗅いでは気にしていた。

「ごめんね、臭い?談話室でね、クソ爆弾を爆発させた子がいたの……」

談話室から抜け出そうとした時、丁度ロンのお兄さんのフレッドとジョージが大量のクソ爆弾を談話室で爆発させたのだ。間一髪談話室から飛び出したつもりでいたが、どうやら臭いは纏わり付いてしまった様だ。クロはひとしきり私の臭いを嗅いでフンッと鼻を鳴らすと、キドニーパイを器用に持ち上げ、パクリと一口で飲み込んだ。

「クロ、私明日からクリスマス休暇なの。一応多めに食べ物は持って来たけど……少しの間だから我慢してね」

クロの頭を撫でると、クロは気持ち良さそうに目を細めた。明日から暫く会えなくなるので、クロがとても心配だった。私が家に帰ってる間に誰かに見つかって捕まったら?お腹が空いて死んでしまったらどうしよう。そんな不安が頭をよぎる。私はクロを引き寄せると、そのままぎゅーっと抱きしめた。クロの身体は雪のせいか濡れていて、驚くほど冷たかった。


談話室に戻ると、もう殆どの人が寝室に戻っている様だった。私も寝室に戻って明日の支度をしなくては、と談話室を横切った時、足元を何かフワフワした物が横切った。驚いて下を見れば、ハーマイオニーの飼い猫――クルックシャンクスだった。彼は潰れた顔を更にしわくちゃにしてくわぁと欠伸をすると、黄色くてまん丸な目で私を見つめ返した。

「クルックシャンクス、やっと見付けたわ」

ハーマイオニーが寝室に続く階段から降りて来た。もうシャワーまで済ませたらしい彼女は、すっかりパジャマ姿だ。ハーマイオニーはクルックシャンクスを抱きかかえると、鼻っ面を真っ赤にしている私を見て顔を顰めた。

「やだ、ナマエ鼻水が出てるわ。あなた寝室にも姿が無いと思っていたけど、一体どこ行ってたの?」
「ちょっと外に……」
「こんな状況なのに?吸魂鬼ディメンターだって歩き回ってるのよ……自殺行為だわ」

ハーマイオニーは私をそう非難した。確かに彼女の言う通りである。私は小さく「ごめん」と謝ると、寝室に戻ろうと一度足を踏み出したが、ふとクルックシャンクスの持って来た手紙の事を思い出してハーマイオニーを振り返った。

「そう言えば私が医務室にいる間、手紙をくれたよね?」
「手紙?何の事?」
「手紙と言うか、メモ書きみたいな物だけど……クルックシャンクスが私に届けてくれたの。"ごめんね"って書いてあるメモだよ!」
「そんな物、書いてないわ」

ハーマイオニーは困惑した表情でそう言った。あのメモはハーマイオニーの物じゃなかった……。
私は寝室のベッドに戻ると、大事にしまい込んでいたボロボロの羊皮紙のメモを取り出した。ハーマイオニーじゃなかったら、誰がこれを書いたと言うのだろう?全く見当もつかない。羊皮紙から視線を上げると、斜め向かいのベッドに座って何やら気遣わしげな表情で私を見つめていたハーマイオニーと目が合った。それから彼女は慌てて目を逸らすと、ベッドに潜り込んでしまった。
謎を残したまま、私はクリスマス休暇を迎えた。



クリスマス休暇はあっという間に終わった。しかしずっとクロの事が気がかりで、私にとってはとてつもなく長い期間に思えた。それからクリスマス休暇中にハーマイオニーから手紙が届いた。内容は「今はこういう事態だし、あなたが受け取った不審なメモは、マクゴナガル先生にご報告するべきだと思うの」と言うものだった。


「ハーマイオニーったら神経過敏だよ」

大広間へ向かって階段を降りている途中、後ろにいたロンがハリーに向かって苛立ったようにそう言った。どうやら三人はクリスマス休暇中に何やら喧嘩をしたらしく、口を利いていないようだった。どうせまた、お互いのペットの事で揉めでもしたのだろう。
大広間に入ってグリフィンドールのテーブルに座ろうとした時、ハーマイオニーが口を真一文字に結んで私の所へやって来た。

「ナマエ、クリスマス休暇中に出した手紙の事、考えてくれた?」
「うん。別に良いよ。でもあれは本当にただのメモだと思うな、誰かの悪戯で、シリウス・ブラックとは何も関係無いよきっと――」
「また君は理由を付けて何か取り上げようとしてるのか?しかも今度は、ナマエだ!」

斜め前に座って話を盗み聞きしていたロンがハーマイオニーに向かって揶揄するように言った。ハーマイオニーはキッとロンを睨み付けると、髪の毛をフワフワと揺らしながら憤慨する様に大広間を出て行ってしまった。私はその背中に向かって「後で渡すね!」と大きな声で叫んだ。






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