第5話 訪問者と犬。






 薄暗い医務室の天井を見つめながら、クロのことを考えていた。
一時はクロを凶暴な魔法生物なのではと疑ったのだが、どうもそうとは思えない。と言うよりも、そう思いたくはない自分がいた。
 それにほら、ニーズルっていう猫に似た魔法生物がいるって魔法生物学の教科書に書いてあるのを見たことがあるし、きっと犬に似た魔法生物がいたって可笑しくないはずだ。クロは良い子なんだ。絶対に。

 そう思った時、ヒタヒタと何かが近付いてくる音が聞こえてきた。思わず息を潜め神経を尖らせる。こんな時間にここを訪れるなんて、かなり怪しい。…まさか今学校を騒がせている殺人犯…?いや、ありえない。ホグワーツは安全なのだから。そんな恐ろしい考えを頭から振り払い死んだように黙っていると、その足音はある程度近付いた後、急に止んだ。そして次の瞬間、私のベッドの足元に何か体重が僅かにかかったのを感じた。驚いて思わず「ひっ」と声が漏れそうになるのを必死に飲み込む。暗くて良く見えないが、何かが確かに私の足元にいるのだ。
それから手探りで枕元の杖を見つけ出し「ルーモス」と足元を照らせば、暗がりから潰れたような鼻っ面が浮かび上がってきた。
 恐る恐る杖をその鼻っ面に近付け目を凝らす。すると、なんとハーマイオニーの飼い猫のクルックシャンクスではないか。クルックシャンクスは驚いて目を見開いた私をよそに、暢気に「ニャー」と鳴き声をあげている。そんなクルックシャンクスを見て私は思わず吹き出してしまった。なんだかあんなに怖がっていた私が馬鹿みたいだ。

 それにしても何故ここにクルックシャンクスがいるのだろうか?ハリーの見舞い?しかしハリーのベッドは私の向かいだ。それに、クルックシャンクスは確かにしっかりと私を見据えている。でも何故私に?ハーマイオニーが何か私宛に彼へ頼み事でもしたのかな。
 ふと、クルックシャンクスの首輪に何か紙切れが挟まっていることに気が付いた。黒ずんでいて、泥だらけの汚い羊皮紙だ。ハーマイオニーからのメッセージだろうか?そう思いそっとその紙切れへ手を伸ばそうとすれば、クルックシャンクスは「どうぞ」と言わんばかりに首を私へ差し出した。
「ありがとう」と小さく呟き、羊皮紙を抜き取る。クルックシャンクスは私が羊皮紙を受け取ったのを確認すると、ブラシのようなしっぽを左右に振りながらヒタヒタと扉に向かって歩き出していた。

それから杖を近付けてそこに書かれた文字を照らし出す。

「sorry.(すまない)」

そこには、その一言だけが書かれていた。土や雨で汚れた羊皮紙の真ん中に、小さく、震えた文字でただそれだけ。
 私は訳が分からずただその文字を見つめていた。ハーマイオニーが私に謝っている。でも何故?思い当たる節がないのだ。
 その時、またもやベッドが軋む音がした。羊皮紙を照らしていた杖明かりを僅かに掲げる。ハリーだった。彼は向かいのベッドから上半身を起こし、驚いた顔で私を見ている。どうやら私のせいで目が覚めてしまったらしい。

「何してるんだいナマエ?」
「ハリー起こしてごめんなさい、本を読もうかと思って…」

ハリーは「ふーん、そう」と眠そうに言うとまた横になった。私も大慌てで杖の明かりを消し、横になる。私の視界はまたもや薄暗い天井一色になってしまった。先程までの光の残像が真っ暗な空間にチカチカと漂い、何だかそれが気持ち悪くて無理矢理目を瞑った。




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