第2話 クロと犬。






「やだナマエ、それ全部食べるつもりなの?」

目の前に座っているラベンダーが顔をしかめながらそう言った。
私は今、森で寂しく待っているであろうクロの為に彼が食べられそうな物を必死に皿にかき集めているところだ。クロと言うのは最近出会った犬のことで、真っ黒だからそう名付けた。

「タッパーに入れて寮に持ち帰るのよ。」
「寮に?食べきれるの?」
「…多分。」

「寝室が臭くなるし汚いわ」と依然顔をしかめているラベンダーに負けじと私も眉間に皺を寄せる。悪かったな汚ならしくて。
私はそんなラベンダーを無視して勢い良く立ち上がり、騒がしい大広間から抜け出した。
暗くなった校庭の芝生を踏みしめながら森へと急ぐ。ここのところ悪天候が続き、今日もバケツをひっくり返したような雨が降り続いていた。制服のフードを顔を覆うようにして被り、雨風に打たれながらもクロの元へ一歩ずつ、吹き飛ばされぬように前進する。
途中でハグリットの小屋に視線を移し灯りを確認したが、大広間で食事をしているのであろうハグリットの小屋に灯りはついていなかった。

森の際に到着すると少し大きな声で「クロ」と名前を呼ぶ。途端に何処に隠れていたのか、「ワン」という吠え声と共に大きな犬が森から飛び出し私に飛び付いた。
森は木々が生い茂っている為か、あまり雨に当たらない。

「待たせてごめんね、はい。」

そう言って食事を広げると、嬉しそうに尻尾を振りながら一心不乱に食べ始めた。その姿に思わず頬が緩む。ああ、なんてかわいいんだろうか。

「美味しい?」
「ワン!」

「なら良かった」と頭を撫でれば、クロはより激しく尻尾を振る。私達はここ最近ですっかり仲良しになっていた。
やはり私が最初に予想した通りクロは何かしらの魔力を持っていたようで、私の言葉を理解しているようだった。そこで私はクロを自分の話相手として、暇さえあれば彼に会いに来ていたのだ。
とは言っても昼間は中々会いに来れないので、こうして夕食の後のちょっとした時間だけにだが。

「昼間も会いに来れたらいいんだけどなぁ…。」

ふと、クロが何やら見つめていることに気が付いた。視線を辿ると、どうやらクィディッチ競技場を見つめていたようだ。そういえば明日は第一回のクィディッチ試合があったな…――――

「クロ、あなたってやっぱり賢いわね!」

そうだ、明日だ。明日ならみんなクィディッチの試合を見に行っていなくなる。人目を気にせずにクロに会いに来れるのだ。私は嬉しくなって、びしょ濡れなのも気にせずにクロに抱きついた。




次の日、朝の大広間はクィディッチ一色に染まっていた。普段よりも空気が興奮して高まっているのが伝わってくる。私は席に座るといつものようにタッパーを取り出し、クロの為に食べ物をかき集めた。(向こう側に座っていたラベンダーがそのことに気が付いて顔をしかめながらパーバティに何やらこそこそと耳打ちをしていたが気にしない。)

「ナマエ、あなた一体何をしてるの?」

不意に声をかけられて顔を上げると、ハーマイオニーが困惑した顔をして目の前の席に座っていた。その隣にはいつも一緒のロンが座っている。彼はまるで臭い玉を顔面に浴びせられたとでもいうような表情で私を見ていた。

「えーっと…クィディッチを観戦しながら食べようかと思って。」
「あのさナマエ、君今日の天気なんだか知ってる?」

私はわざとらしく大広間の天井を見上げ、それからロンに顔を向けて「雨だね。」と言った。まぁ、雨だということは分かりきっていたことなのだが。ロンはやれやれとかぼちゃジュースに手を伸ばした。

「濡れちゃうわよ?」
「…そうだね。」
「…はぁ、全く。ちょっとナマエそれよこしなさい、食べ物に効くかは分からないけれどやってみる価値はあるわ…。」

そう言うハーマイオニーに渋々タッパーを渡す。一体何をする気なのだろうか?…すると彼女は何やら杖でタッパーをコツコツ叩き、「インパービアス」と唱えた。

「これで防水できたと思うわ。」

彼女からタッパーを受け取り、呪文のかけられたタッパーを観察するように隅々まで見た。しかし何ら変わりがないように思える。ロンもそう思ったようで、「その呪文本当に効いてるのか?」と言ってハーマイオニーの機嫌を損ねていた。(「少なくともロン、あなたの呪文より効果はあるわ!」)

「ハーマイオニーありがとう。」

私は二人の口論から逃れるようにそうお礼を言うと、タッパーを片手に大広間を後にした。
玄関ホールを歩き大きな樫の扉の前で立ち止まる。それから手に抱えたタッパーを見つめた。本当に雨を弾くのだろうか。そこまで考えた時、ふとハーマイオニーが先程唱えた呪文を使いたくなった。

「なんだっけ、イ、イン…ああそうだ、インパービアス。」

ハーマイオニーがしたように、コツコツと杖でマントを叩く。それから一歩外に足を踏み出したが、すぐに城の中に引き返した。

全く呪文が効いていない!

いや、正確には「私の呪文が」効いていなかった。ハーマイオニーが防水したタッパーはばっちり水を弾いている。当の私はというと、呪文を唱えるのに叩いた一ヶ所だけが不自然に水を弾き、他は雨でびしょ濡れだった。ハーマイオニーの優秀さを改めて思い知り、感心しながら私は諦めて一旦傘を取りに談話室へ戻った。




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