08 三人で魔法薬学




“魔法薬学”
そう書かれた時間割を見て思わず「うっ」と声が洩れた。
スリザリンと合同の授業だ。あれからまだ数時間も経っていないというのに、まさかこんなにも早くスネイプに出会すことになろうとは。どこまで私は運に見放されているのだろうか。
隣で「どうしたの?」と顔を覗き込むリリーに「なんでもない!早く行こう」とはんば強引に腕をひき、談話室から歩き出した。

玄関ホールへ続く廊下を中程まで歩いた時、数メートル先を少々俯きながら歩く男の子を見付け心臓がドキリと跳ねるのを感じた。
あのねっとりした黒髪、猫背気味な後ろ姿。間違いない、セブルス・スネイプその人だ。
本日二度目となる私の「うっ」という呻き声に、またもやリリーは不思議そうな顔で私を見つめた。
リリーが彼に気が付いたらまずい。そう思った私は瞬時にその場に立ち止まった。

「どうしたの?ナマエ……」
「忘れ物したかもしれない!!」

私が張り上げた大声に一瞬驚いた顔をしてから「大変だわ、早く取りに行かないと」と進行方向を変えたリリーに、私はしめしめとほくそ笑んだ。このまま彼から遠ざかってしまえばこちらのものだ。それからスネイプのいる方向をちらりと見やった。しかし、これが間違いだったようだ。彼もまた、私の大声に驚きこちらを見ていたのだ。そして目が合った瞬間掌に汗が滲み、私はついに固まってしまった。彼はメデューサか何かなのだろうか。

「ほら、早く戻らないと……あれ?セブじゃない?セブ!」

感動の再会を果たしたかのようにスネイプの元へ駆け出すリリーに私は心の中で神様に悪態をつきながら着いて行った。

「久しぶりね。」
「……ああ。久しぶり。」

そう言ってスネイプは僅かに柔らかい表情を向ける。リリーといる時はいつもこうだ。
久しぶりの会話に花を咲かせている二人を邪魔しないようにと、少しぐるりと周りの景色を見渡すフリをした。壁に掛かった絵画の一つが、「仲間外れにされているのか」と私に冷やかしの声をかけてくるのを無視してもう一度リリー達を見ると、いつの間にか二人の会話は三人で一緒に魔法薬学の勉強をしようという話になっていたようだった。

「……ナマエ、セブも一緒でいいかしら?」
「も、も、もちろん!」
「ありがとう、良かったわ!そう言えば、忘れ物は良かったの?」
「あー、えっと、私の勘違いだったみたい!」

私は慌てて答えた。
大好きな親友の頼みを断る勇気などはなく、それでなくてもどのみち彼と一度ちゃんと会話する機会が私には必要なのだ。そう自分に言い聞かせて「よろしく……」とスネイプを伏し目がちに見ると、彼は眉間に深い皺を刻んだ表情で小さく「ああ。」と呟いた。

本当にこのメンバーで大丈夫なのだろうか。先程彼が露骨に浮かべた嫌な顔を思い浮かべ、小さな不安を抱きながら魔法薬学の教室に向かったがそんな小さな不安は授業が始まってすぐにどこかへ飛んでいってしまった。
リリーが魔法薬学が得意だということ(彼女の場合は何でもそつなくこなすが。)は勿論知っていたが、まさかスネイプまでもが得意だったとは驚きだった。そもそも彼については何も知らなかったのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。基本的に勉強が苦手な私は二人が手早く作業するのに呆気に取られながら、ただ指示された通りに動くので精一杯だった。(主に鍋のかき混ぜ担当である)
そして魔法薬学の授業は今までにないくらいに大成功をおさめた。勿論ほとんどがリリーと、それからスネイプの力なのだが。私達三人はまとめてスラグホーン先生に満面の笑顔付きの誉め言葉と寮の点数を10点ずつもらい、その日の授業は終わったのだった。

「今日の授業は楽しかったわ」
そう言いながら数歩前を歩くリリーとスネイプを見つめて私は急に立ち止まった。先刻見られたことを、口止めしなければ。今しか話すチャンスはきっとないだろう。
リリーが「どうしたのナマエ?」と後ろを振り向き声をかけてきたが、私は咄嗟に「スネイプ、話があるんだけど…」と言った。
「何だ?」
相変わらず冷たい顔で私にそう問うスネイプに一瞬尻込む。しかし負けじと、小さい声ではあるが、「二人で話がしたいんだけど…」と会話を続けた。

「あー、じゃあ私先に行くわね」
「ごめんリリー!本当にごめん」
「いいのよ。また後でね!」

そう言ってこの場から立ち去るリリーの背中を見つめ、二人の間に暫く沈黙が流れる。

「…話って何だ。」
「え?」

突然切り出した言葉に驚いてスネイプを見れば、早く帰りたくてしょうがないという顔で私を睨み付けていた。

「ああごめん、さっきのことなんだけどね、」
「さっき?何のことだ?」

そこまで言いかけた時、スネイプが瞬時に横を向いた。私もつられて横を向けば、なんともまぁ最悪なタイミングで、あの四人が堂々たる態度で立っていたのだった。




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