07 嫌がらせ




その日は一日中地獄の様だった。こんな最悪な一日を、私は今まで送ったことがあるだろうか。記憶を巻き戻してみたが、今日以上に最悪な日は思い当たらなかった。

何せ朝のあの一件の後も彼らは何かと私につっかかり、嫌がらせを続けたのだ。その嫌がらせというのもたちの悪い物ばかりで、特に腹が立ったのは私がトイレから出てきた時に、顔面に思い切り臭い玉を投げ付けられたことだった。お陰で談話室に辿り着くまでの間すれ違った人達はみんな顔をしかめ、こそこそと私の話をしていた。

「なんか臭くない?」
「あ、あの子じゃないかしら?ほらあそこを歩いてる、そう……」
「さっきあの子がトイレから出てくるところ見たわよ」
「じゃあもしかして……」

四方八方から嫌でも耳に飛び込んでくるひそひそ話や忍び笑いに私の腹の底でふつふつと込み上げる怒りを抑えるのがやっとで、冷静さを取り戻すのにひと苦労したくらいである。
異臭を取り巻きながらやっとの思いでグリフィンドール塔に辿り着き、談話室をよじ登り、そしてシャワー室に駆け込んだ。



「絶対に許せないわ」

私がシャワーを浴びて戻ってくると、リリーがどうしたのかと訪ねてきた。正直話す気にはなれなかったが、リリーの気迫に圧されて渋々一連の出来事を話して聞かせるとリリーは語気を荒げてそう言い、憤慨している様子だった。
リリーは人の立場になって考えられるとても優しくて良い子だ。
しかし、こういう時は中々厄介なのである。

「リリーは気にすることないよ、大丈夫だから」
「大丈夫なわけないでしょう!」

予想以上に食い付いて来たリリーに私は少々後退りをした。
しかしそもそもこれは私の問題で私に責任があるのだ。リリーに余計な心配をして欲しくなかった。

「大丈夫、明日には収まるから」
「……何かあったら絶対に言ってね、私達親友なんだから」

私がにっこり笑顔を作ってそう言えば、リリーはなんだか納得のいかない様子で近くにあった椅子に座り込んだ。


しかし、次の日にもそのまた次の日にも彼らの嫌がらせは治まることはなく、寧ろ日に日に悪化しているような気さえした。リリーにはこの間のような心配をかけないように会う前には必ず証拠を残さず処理し、未だに嫌がらせを受けているということを必死に黙り続けていた。
それが逆に好都合だということは分かっていたが、私にはどうすることもできない。



「おいブス」

図書室へ向かう途中、突然後方から降りかかった言葉に私は思わず舌打ちをする。振り返らなくとも分かる、この声はあいつしかいない。シリウス・ブラックだ。私は一刻も早くその場から逃げようと走り出したが、「待てよ」という声と共に腕を掴まれてしまった。

「触らないで」

手を振りほどこうと後ろを振り返れば、ニヤニヤしたブラックが手に臭い玉を持ちながら私をいつものように見下していた。

「離して下さい、だろ?」
「は?」
「そう俺に懇願できるならこの臭い玉は浴びせないでいてやるよ」

口角を上げ偉そうに宣うブラックを思い切り睨み上げる。なんでそんな屈辱的なことを私がしなくてはいけないのか。だいたいなんでこいつはこんなに偉そうなんだ。私の中で色んな怒りが巡り、腸が煮えくり返りそうになりながら、「誰がそんな……」と言いかけたところで、突然ブラックが「あ!」と声をあげた。
ブラックが見つめる先に私も目を向けると、何やら誰かがこちらに向かって歩いて来る。よく目を凝らすとリリーの幼なじみのセブルス・スネイプだった。彼は私達に気が付くと、「しまった」という顔をして引き返そうとしている。しかし時すでに遅し、ブラックは私から手を離し「今回は見逃してやる」と彼を追いかけに行ってしまったのだった。

スネイプとはリリーを通して何度か面識があったのだが、それほど会話をしたことがない。そもそも彼はリリー以外と話す気はないというような態度取っていた。そんな素っ気なく取っ付きにくい彼にまさか(不本意だとしても)救われるなんて。今度会った時にはちゃんと謝らなくてはいけないなと少し罪悪感を感じながらその場を後にして図書室へ向かった。




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