05 暴力女




私はいつもより早く目が覚めた。昨日のことで落ち着けず、あまり眠れなかったからである。
支度をしてリリーと共に朝食を取りに大広間に向かっている間も、シリウス・ブラックと出会さないように常に警戒して歩いていた。

大広間はまだ人がまばらで、各寮に数人ずつしか座っていない。
私は早く朝食を食べて寮に戻りたくて、グリフィンドールの席に着くなりすぐさまサンドイッチに手を伸ばし口に押し込んだ。リリーはあんぐりと口を開けて私を見つめていたが、そんなことはおかまいなしだ。

「ナマエ、急いでいるのは分かるけれど、そんなに口に詰め込んだら窒息しちゃうわよ!」
「ふぁいふぉーふ」
「何て言ったのか分からないわ」

呆れるリリーを他所に無理矢理サンドイッチを飲み込むと、「ごめんリリー、先に行くね!」と一言残し大広間を早足で飛び出した。

一気に8階分の階段を掛け上がりグリフィンドール塔の入り口の前に辿り着くと、荒い息を整える為に深く息を吸い込む。幸運なことにここに来るまでの間にやつらに出会すことはなかった。きっとやつらは寝起きが悪いはずだから、授業の始まるギリギリまで寝室に籠っていれば暫く会わなくてすむだろう。大分呼吸が落ち着いたところで太った婦人に合言葉を言おうと口を開きかけたが、私は息を呑み込んだ。突然絵画が勢いよく前に開いたのだ。
それから談話室から出てきた人物を見て、更に目玉と心臓が飛び出そうになるくらいに驚いた。なんと、あれほどまでに細心の注意を払って会わないように警戒していた、あの四人組が出てきたのだ。
どうやら今日に限って皆さん早起きだったらしい。自分のこれ程の運の悪さを心底恨んだ。


「これはこれは、暴力女さんじゃないか!おはよう!今日は一段と素敵な朝だなぁ。」

そうあの時と同じようにニヤニヤしながら挨拶するポッターの隣には、恐ろしく不機嫌な顔をしたブラックが私を睨み付けていた。
彼が不機嫌なのは低血圧だからではなく、きっと、紛れもなく、絶対に、私のせいなのだろう。

「そうだシリウス、昨日の怪我の調子はどうだい?まだ痛むのか?」

「ああ。本当に最悪だよ。」

ポッターがニヤニヤしながらわざとらしく話かけると、それ以上のニヤニヤ顔でブラックが答えた。私はドキリとして下を向いたが、彼等は依然として続ける。

「ブスは性格までブスだからなぁ、救いようがねぇよ」

「ははは、本当にその通りだ。」

頭の中で「気にしちゃ駄目だ」と必死に考えても、その悪口雑言や笑い声はどんどん私の中に侵入し、蝕み、痛み付けて行く。
昔を思い出し堪えきれなくなり涙が込み上げた時、不意に「ジェームズ、シリウス、早く行こう。」と言う静かな声がした。

「折角早起きしたんだから。それに僕もうお腹が空いたよ。ほら早く行こう。」

「やれやれ、全くリーマスは……」

滲む視界の中僅かに視線を上げれば、ポッターが呆れた顔をして階段を下りて行くのが見えた。それに続くようにブラックは「覚えてろよ」と言わんばかりの顔で最後にもう一度私を睨み付け、ぺティグリューを引き連れて階段を下りる。
最後に残ったルーピンは申し訳なさそうに会釈をしたが、私が会釈を返す間もなくジェームズの「リーマス!」と言う呼び声に走って行ってしまった。
突然のことでいつの間にか涙はひっこんでいて、小さくなって行くルーピンの背中を見つめながら僅かに目元に残った涙を袖口で強く擦る。それからごちゃごちゃした色んな感情が渦巻いた胸を落ち着かせるように深呼吸をして顔を上げ、私は太った婦人の絵画をゆっくりとよじ登った。




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