54 トロール級のバカ




次の日の朝、大広間でハッフルパフの席を見回した。そう言えばクリスマスパーティーでモーリスを置いて帰ってしまった事を、まだ彼に直接謝っていなかったのだ。
幸いにもモーリスはハッフルパフの男の子数人と楽しそうに朝食をとっているところだった。

「モーリス、おはよう」
「ああ、ナマエ!おはよう」

私がモーリスに声をかけると、周りの男の子が冷やかすように「ヒュー」と口笛を吹いた。全く、男子って言うのはどうしてこう揃いも揃って幼稚なのだろう。
モーリスは笑いながら冷やかしを制止し、「あの日、大丈夫だった?君の友人から君は具合が悪くて先に帰ったって聞いたから」と心配そうに私を見つめた。

「ええ、大丈夫。……あの、私あの日の事をちゃんと謝りたくて。置いて行ってしまってごめんね」
「いや、いいんだ。それに僕、ちゃんとサインももらえたし」

モーリスは満足気にそう言って笑った。
パートナーを置いてさっさと帰ってしまうなんて、普通だったら怒られても当然なのに、彼が良い人で良かったと心底思う。きっともう今後関わることも無いのだろうけど。

「それなら良かった。あー、えっと、そ、それだけだから、じゃあね」
「うん、じゃあね」

ハッフルパフ生が私達のやり取りを興味津々で見つめるのに耐えられなくなり、私はそそくさとグリフィンドールのテーブルに戻ってリリーが空けておいてくれた席に着席した。

「モーリスにクリスマスパーティーでのこと謝って来た」
「皆すごいあなた達のことを見てたわ。まるであなた達に何かあるのを期待してるみたいに」
「なんにも無いのに。それにもう関わることも無いし」
「あら、ナマエったら冷たいのね」

私の反応を面白がるようにそう言うリリーを私は目を細めて睨み付けた。

「リリーの方こそ、あのレイブンクローのナントカって男の子とはどうなったの?」
「マーティンよ。彼はただの友達ですもの」
「へぇ、それを聞いたらポッターも喜ぶだろうなぁ」

今度はリリーが目を細めながら私を睨んだ。しかしすぐに可笑しくなって、2人で吹き出した。

「あとはブラックにお礼を言わないと……」

そのことを考えた途端になんだか急激に気が重くなり、手に取ったサンドイッチも味がしなかった。そんな私の姿を見て、リリーは「まぁ、そんなにお礼を言うのが嫌なの?」と言いながら呆れ顔でオレンジジュースを飲み込んだ。

「リリーだって、もしポッターにお礼を言わなきゃいけない状況になったら素直に言える?」
「私は勿論言えるわよ」

リリーはピシャリと言った。やけに自信満々にそう言っているが、リリーだってその状況になったら素直に言えないに決まっている。
私はリリーに非難するような表情を浮かべると、そのままぐるりとグリフィンドールのテーブルを見回した。
こんなにソワソワするくらいなら、もうさっさとお礼を言ってスッキリしてしまいたかった。こんな状態では授業にも集中出来そうにもない。
しかし分かりきっていたが、彼等はいつも時間ギリギリに朝食を取っているので案の定姿は見当たらなかった。

「私、談話室に戻ってさっさとブラックにお礼言って来るよ」
「あら、もう行くの?」

「うん、また後でね!」とリリーに声をかけると、私はグリフィンドールの談話室へ急いで戻った。


階段を駆け上り、息を整えながらゆっくり廊下を右折すると、ちょうどバタンと音を立てて太った婦人の絵画が開いてポッター達が出てくるところだった。

「……えーっと、おはよう」

突然私が挨拶してきたことにポッターとブラックは面食らった顔をしている。リーマスとぺティグリューは笑顔で「おはよう」と返した。

「あー、ブラック、クリスマスプレゼントありがとう。……その、えーっと、"この間のこと"は許してあげる」

私が目を泳がせながらそう言うと、ブラックは「は?」と言って何故かポッターと顔を合わせた。それから私に向き直って、「えっと、それだけ?」と狼狽えたように言った。

「それだけって?」
「えー、その、感想とか無いのかよ」
「あ、うん、すごく綺麗だったよ」

「素敵だった」とか「嬉しかった」という感想は飲み込んだ。言うのが何故かこっぱずかしく感じたからだ。しかしブラックは何故だか見る見るうちに不機嫌な表情になっていった。

「……お前って本当にかわいくねーのな!」
「……なっ!なにそれ?」

思わず眉根を寄せてブラックを睨み付けた。せっかくプレゼントのお礼をわざわざ言いに来たのに!
隣のポッターは「あーもう」と頭を抱えた。

「"許してあげる"だぁ?勘違いするなよ、俺だって自分からすすんでお前にプレゼントを送ったわけじゃねーからな!ジェームズに"プレゼントを送れば女は機嫌が良くなるから送ってみれば"って言われたから送っただけだ!」
「あーら、そういうことだったのね!それなら残念ながら逆効果だったみたいね!!!」

私達の大声が廊下にぐわんぐわんと大反響していた。通りかかったグリフィンドール生は"またか"というような呆れた表情で私達を見ていたし、リーマスやぺティグリュー、ポッターまでもが深い溜め息をついていた。

「本当にお前は可愛げがなくてブスだ!!」
「あんたはトロール級のバカ!!!」
「あーもうシリウスもミョウジももう止めなよ、早く朝食を食べに行こう」

私もブラックも鼻息でお互いを吹き飛ばしてしまいそうなくらいに憤慨していたが、ポッターがブラックの腕を引っ張ってその場から引き離した。
私は彼等がいなくなった後も暫く根を張ったようにその場から動かなかったが、リリーの「何してるの?ナマエ」という心配そうな声でやっと我に返った。

「私、もう二度とブラックと口を利かない!!」
「やだ、お礼を言いに行ったのかと思ったら……この短時間で何があったって言うのよ?」

リリーは今日何度目か分からない呆れ顔で私を見つめた。




その日の夜、見回りの為にリリーを呼びに来たリーマスが私に何か言いたげにしていることに気が付いてはいたが、私はそれすら頑なに無視をしていた。

「リーマス、今ナマエに何を言っても無駄よ」
「そうよ、何を言われてもあんな大マヌケで!アンポンタンで!トロール級の大馬鹿野郎!死んでも仲良くなんてするもんですか!

宿題の一文字一文字をこれでもかと怒りを込めて書き殴ったせいで、羊皮紙が少し破れた。そんな私を横目に、リリーが「ほらね」と肩を竦めている。

「ははは、そうみたいだね」とリーマスは眉尻を下げて困ったように笑うと、「じゃあとりあえず今日は説得するのを諦めるよ。リリー、見回りに行こう」とリリーと2人で談話室を出て行った。








「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -