53 予想外なプレゼント




あの話を聞いた後にすぐクリスマス休暇に入ったのはラッキーだと思った。クリスマス休暇に入ってしまえば、1人で冷静になれる時間がたっぷり作れる。リリーやリーマス達にクリスマスカードを書きながらずっとその事について考えた。
しかしやっぱり何度考えても、あれはリーマスの勘違いだ。だってブラックの今までの言動を思い返しても、「ブス」だとか「バカ」だとか言われた記憶はあっても、好かれていると思うような記憶はこれっぽっちもないのだ。リーマスが何をもってああ言ったのかは知らないが、私の感覚ではそれしか答えが出なかった。

もうリーマスに言われたことは忘れよう。この先届くであろうクリスマスプレゼントのことを考えた方が何倍も良いに決まってる。今年は皆にダイアゴン横丁で買った"喋る手帳"を送った。予定を書き込むとその予定日を知らせてくれたり、アドバイスをくれる手帳だ。
皆からは何が届くだろう?皆から届くクリスマスカードとプレゼントが今から楽しみだ。
私はリーマスの言葉やブラックの顔が頭に浮かぶのを打ち消して、クリスマスのことを無理矢理考えながら眠りについた。




朝起きると、ベッドの足元にプレゼントの山が出来ていた。私はベッドから飛び起きて、寝癖も直さずパジャマ姿のままで皆からのプレゼントを開封した。
女の子達からのプレゼントは、皆コスメや髪飾り等といった物だった。――私の"喋る手帳"なんて、これに比べたら味気が無かったかもしれない。やっぱり5年生にもなれば、皆こういう物に興味を持つのだ。かくいう私も、クリスマスパーティーの時にメイクしてもらった時はとても心がときめいた。クリスマス休暇があけたら、早速ありがたく使わせてもらおう。

リーマスからのプレゼントは、透明マントだった。ダービシュ・アンド・バングズで私が興味を持っていたのを覚えていてくれたらしい。フィルチにバレたらきっと没収されてしまうだろうから、使い所はちゃんと考えた方が良いだろう。


ある程度開封した後、まだ包みが残っていたことに気が付いた。誰からだろう?友達のは全部開封したはずだ。
慎重に包みを開けて、クリスマスカードの差出人の名前を見て「えっ」と思わず声を出していた。

――なんと、シリウス・ブラックからだったのだ。
クリスマスに浮かれて忘れかけていたあの日の出来事とリーマスの言葉が、この名前を見た瞬間に記憶の奥から引っ張り出された。
あんな出来事があった後に、何だって言うのだろう?
訝しげにクリスマスカードを手に取ると、そこには殴り書きのような字で
"この間は酷いことを言って悪かった。メリークリスマス"
とだけ書かれていた。
包みの中には更に丸い何かが入っていて、それを取り出してみれば、その"丸い何か"はスノードームだった。
丸いガラスの中を雪がヒラヒラと舞っていて、その中をソリに乗ったサンタクロースが「Merry Christmas!」と陽気に言いながら飛び交っている。とても綺麗でかわいらしかった。


まさかブラックがプレゼントをよこすなんて……
私は部屋から飛び出してすぐさまリリーに電話をかけた。優しい声のリリーのママが電話に出た後、すぐにリリーに変わった。

「リリー、メリークリスマス!素敵なリップグロスありがとう!」
「ナマエ、メリークリスマス!喜んでくれて嬉しいわ。今度付けたら見せてね!そしてナマエもプレゼントありがとう。早速予定を書いちゃった!――O.W.L試験に向けて勉強しろって、少しうるさいけどね」
「あの手帳、そんなことまで言ってくるんだ」

リリーのおどけたような声に、私はふふっと思わず笑った。それから私達は暫く他の子からもらったプレゼントについて話した。

「ねぇ、そう言えばびっくりすることがあったんだけど、リリーなんだと思う?」
「え?うーん、何か懸賞が当たったとか?」
「そうだったらいいんだけどね……あのね――ブラックからクリスマスプレゼントが届いたの」
「えーっ?!ブラックから?!」

リリーがあまりにも大きな声を出すので、私は受話器を耳から離した。リリーは興奮冷めやらぬ様子で「何が入ってたの?もしかして、鼻食いつきティーカップじゃないでしょうね?」と続けた。

「それがね、スノードームだったよ。しかも"ごめんね"っていうクリスマスカード付き」
「ブラックがそんなことするなんて信じられないわ……一体どういう風の吹き回し?」
「ほんとにね。私、嵐が来ると思う」
リリーは「間違いないわね」と電話越しに笑った。

リリーの言うように、鼻食いつきティーカップを送られて来た方が、幾分マシだったかもしれない。こんな素敵な物をプレゼントされて、今更どうリアクションすればいいのか分からない。でもとりあえずお礼は言うべきだろう。なんとなくモヤモヤした気持ちを抱えたまま、リリーに別れを告げて私は部屋に戻った。



◇◇◇



クリスマス休暇の最終日にホグワーツ特急へ乗り込むと、汽車がホグワーツに近付くに連れて窓の外の雲行きが怪しくなり始めた。そしてついには土砂降りになり、私はリリーと思わず顔を合わせた。電話でリリーと話していた通りになったのだ。

「誰かさんのせいで大雨ね」
「え?誰かさんのせいって誰?」

コンパートメントで向かいに座っていたマーニーがキョトンとした顔で訊ねる物だから、私とリリーは堪えきれなくなって吹き出した。マーニーはそんな私達を訝しげに見ながら、「何がそんなに可笑しいのよ?」と口を尖らせて拗ねてみせた。

それから暫く談笑していると、汽車はゆっくりと速度を落としてやがて止まった。ホグズミード駅に着いたのだ。
人波に押されながらホームを出ると、見慣れた道を馬車に揺られ、見慣れた階段を何段も上り、やっと談話室に戻った。
談話室はクリスマス休暇を満喫した生徒で溢れかえっている。暖炉前の一際大きな人の輪の中心に、ポッター達と――それからブラックがいた。此方を見ていたブラックと目が合い、私は驚いて思わず目を逸らした。

「リリー、部屋に早く行こう」
「そうね、なんだか今日は沢山移動して疲れたわ」

リリーの腕をひいて部屋に戻ると、なんだか急激に恥ずかしくなって顔が火照ってくるのを感じた。

「ナマエ、どうしたの?なんだか顔が真っ赤だけど――」
「ねぇリリー、考えたんだけど私あいつにクリスマスプレゼントのお礼言うべきかな。だって、あいつは私に謝罪のつもりでプレゼントを送った訳じゃない?だったら――」
「まぁ、確かにそうだけど――うーん……そうね、それじゃあ"あの日の事は水に流してあげる"くらいの言葉でも掛けてあげたら?」

「――それってやっぱり直接言うべき?」と私が髪を撫でつけながら狼狽えたように言うと、リリーは「やだ、ナマエ何でそんなに恥ずかしがってるのよ?」と疑うような視線を私に向ける。
別にリーマスの言ったことを本気にしている訳では無い。それでも急にえらく素直になったブラックに、こちらも今更「はい、仲良くしていきましょうね」等という態度を取るのが妙に気恥しいのだ。

「だって、急に素直な態度を取られると調子が狂うと言うか――それにこれで今までしてきたことがチャラになると思われるのも嫌だし」
「ふふ、じゃあ"今回は"許してあげるって言ってやれば?」
「オッケー……――で、いつ言えばいい?」

「もうナマエったら……」
リリーは呆れた顔でため息をついた。







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