51 パーティーのパートナー




「スラグホーン先生のクリスマスパーティに招待されたって本当?」

談話室で何人かの女の子が、リリーに羨ましそうに聞いてきた。

「誰に聞いたの?」
「他に招待されたって子が、自慢していたの」
「そうだったの。ええそうよ、私と、あとナマエも招待されたの」
「えーっ!いいなぁ!」

こんなに羨ましがられるのは生まれて初めての事かもしれない。それが何だか無性にむず痒く居心地が悪くなってリリーに視線を送ると、リリーは「じゃあ私達宿題をするから」とその場を切り抜けてくれた。
そのまま端のテーブルで既に宿題を広げ始めていたマーニー達の輪に入ると、予想してはいたが、話題はやっぱりスラグホーン先生のクリスマスパーティーの事だった。

「2人ともクリスマスパーティーに招待されたの?その話題で持ちきりよ」
「……うん」
「凄いわ!だって有名人とか来るんでしょう?」
「ねぇ、誰と行く予定なのよ!」

3人はやや興奮したように私達に質問した。
誰と行くかなんて、まだ考えてもいない。それはリリーも同じのようで、「まだ決めてないわ」と返事をした。

「やだ、リリー。あなたポッターがいるじゃない」
「冗談はやめてよ!誰があんなやつと……」
「僕が、何だい?」

いつの間にか背後にいたポッターが、輝くような笑顔を浮かべていた。リリーの顔がたちまち真っ赤に染まった。
ポッターは私達の話題に心底関心があるようだ。話に入りたくてうずうずしているように見えた。

「……あなたには関係無いことだわ。あっちに行って」
「僕、君達がスラグホーンのクリスマスパーティーに誘われたって聞こえたんだけど」

ちゃっかり全部聞いているじゃないか。
リリーは何か言い返そうとしたが、ぐっと飲み込んで宿題に向き直り、古代ルーン文字の教科書をかじりつくように読み始めた。無視することに決めたらしい。その表情は何か葛藤しているようにも見えた。

「スラグホーンのクリスマスパーティー?エバンズはまだしも、バカナマエが?何かの間違いだろう」

ブラックが馬鹿にするような声色でそう言った。
そんなの言われなくても、自分でもそう思ってる。きっと誘われたのは何かの間違いだ。
私もリリーと同じように無視を決め込んで魔法薬学のレポートに取り掛かり始めたが、ブラックは追い討ちをかけるように私の背中に向かって「一緒に行く相手が見つかるといいな!俺は見つからないに1ガリオンかけたっていいぜ」と投げかけた。

「まぁ、少なくともあなたと行く事は絶対にないでしょうね。ご心配どうもありがとう」

振り返らずにそう言うと、後ろからシリウスの唸るような声が聞こえた。
ポッターはその後も暫くリリーに話しかけてもらいたそうにしていたが、リリーがルーン文字の翻訳に夢中になっているのを見て、やっとブラック達と一緒に寝室に消えた。

「あなた達、顔合わせる度に角突き合ってばっかりね」

マーニーが、やれやれと呆れたようにそう言った。





◇◇◇



クリスマスパーティーがあと1週間というところまで迫っているというのに、私は未だに行く相手を決められずにいた。いよいよこれは1人でパーティーに行って惨めな思いをするという未来が現実味を帯びてきた。
一方リリーは、同じ古代ルーン文字の授業をとっているレイブンクローのマーティンだとかいう男の子と一緒に行く事を決めてしまったらしい。

魔法薬学の授業を終えて、占い学のある北塔へ1人で向かっていた。地下室から北塔のてっぺんにある占い学の教室まで向かうのはひと苦労である。
魔法薬学の教室を出る前に私とリリーはスラグホーン先生に招待状を受け取るのに呼び止められてしまった為、唯一同じ占い学を取っていたアリシャやキャシーは先に占い学の教室へ向かってしまっていた。
ただでさえ教室間が遠いというのに、スラグホーン先生の世間話に付き合わさせられたせいで時間がギリギリだった。私は少しでも時間を短縮しようと、横道にあるタペストリーを潜って廊下に出た。ここは近道なのだが、何だか不気味なので私は滅多に通らない廊下だ。しかしここを抜けて階段を登って行った方が断然早い。
さっさとこんな廊下抜けてしまおうと軽く廊下を走ると、廊下にあった甲冑の一つからスーッとピーブスが飛び出して来た。

「おやまぁ、目立ちたがりで暴れん坊のナマエちゃん!」
「ピーブス、今急いでるからあっちに行って」
「そーんな急いでどこ行くんだい?」

ピーブスは私の頭上をクルクルと回りながら着いて来た。急いでいるのに最悪だ。私は更に足を早めた。

――突然、バシャっという激しい音に合わせて背中に冷たい衝撃が走り、私は「ひっ!」と声を上げて飛び上がった。後ろを振り向くと、ピーブスがどこから持って来たのか、水風船の様な物を手にしてニタニタと笑っている。それからまたピーブスは大きく振りかぶって私目掛けて水風船を投げた。
水風船は見事に私の頭に命中した。途端に私は頭のてっぺんからつま先まで、すっかり水浸しになった。それだけでも許せないというのに、なんとその水風船にはカラーインクが仕込まれていたようで、私の全身は今や真っ赤に染まっていた。

「目立ちたがり屋がもっと目立てるようにしてやった!」

ピーブスは大きな声でギャハハと下品に笑うと、呆然と立ち尽くす私の前からパッと消えてしまった。

ピーブスの奴、どうしてくれるんだ。
私は腸が煮えたくる思いで地面を踏み鳴らしながら、占い学の教室へ向かった。もう授業に間に合わせようとか、そんな気すら起きなかった。もうチャイムも鳴ってしまったし、遅刻確定だ。でも次の占い学のフロスト先生は優しいから、きっと遅刻した所で私を咎めたりしないだろう。それだけが救いだ。

私は北塔に辿り着くと、梯子を上って教室へ入った。私が教室に入った瞬間、全員が驚いてわっと声を上げるのが聞こえた。そりゃ、遅刻したうえに全身赤インクまみれだったら誰だって驚くだろう。
フロスト先生は冷静な声で「ピーブスの仕業ですね?」と言うと、杖を振った。たちまち私の体のインクは落ちた。(しかしまだ身体は濡れたままだった。)

「ミス・ミョウジ、今日はペアを組んで水晶玉の授業です。そこに余ってる彼とペアを組んでちょうだい」

私は小さいテーブルで窮屈そうに膝をくっつけ合ってる3人組のうちの1人の男の子とペアを組むことになった。彼の事を何となく見た事があった気もしたが、あまり覚えていない。どこかで会ったのだろうか?
空いているテーブルに移動する時にチラッとアリシャとキャシーを見ると、2人は困ったような笑顔を浮かべて小さく手を振った。


「凄い登場の仕方だったね」
「ええ、本当に最高の気分」

濡れた髪の毛を撫で付けながらそう言うと、向かい合うようにして座った彼がははは、と笑った。

「僕、ハッフルパフのモーリス・ハントって言うんだ。君はナマエ・ミョウジだろう?知ってるよ」

ああそう、君も図書室事件を知っているのね。私はもうこの話にはうんざりしていた。
私は「うん。よろしく」と気のない声で答えると、目の前に置かれた水晶玉を見つめた。この何にも見えないただの玉を見てるだけで授業が終わるのだ。これ以上楽な事は無い。
暫くぼんやりと水晶玉を見つめていたが、ふと彼が何か私に言いたそうにもじもじしている事に気が付いた。

「どうしたの?」
「あー、あのさ、聞いたんだけど、君スラグホーン先生のクリスマスパーティーに招待されてるんだろう?」
「うん、そうだけど……」

モーリス・ハントは目を輝かせた。

「良いなぁ!僕ホリヘッド・ハーピーズの大ファンなんだけど、そこの選手が先生の教え子でそのパーティーに来るって聞いたんだ!ほらグウェノグ・ジョーンズって言うんだけどさ……」
「へぇ!そんな凄い人が来るんだ、私あんまりクィディッチは詳しくないから……」

クィディッチの話をしながら、モーリス・ハントをどこで見たのかやっと思い出した。彼、ハッフルパフのクィディッチ選手だ。ポジションはどこだったか覚えていないけど。彼は興奮したように更に話を続けた。最早、水晶玉など彼の目には映っていない。

「ナマエ、君もしグウェノグ・ジョーンズに会ったら、サインを貰ってきてくれないかな……君さえ良ければだけど……」

彼は気遣わしげにこちらを見た。
これはもしかして、彼を誘うチャンスなのではないだろうか?クリスマスパーティーに下心も無く完全に友人として、気負わずに行ける最高の相手が今目の前にいるではないか……

「良かったらパーティーに一緒に行く?勿論友人として、だけど」
「……え、良いのかい?君、誰か行く相手とか……」
「ちょうど探してたの。どうかな?」
「も、勿論!わー、僕もパーティーに行けるなんて夢みたいだ!」

モーリス・ハントは歓喜に満ちた表情でそう言った。私も一人で惨めな思いをせずに済みそうで、ほっとしていた。授業が終わったら、リリーに報告しないと。

はっと、傍らにフロスト先生が立っていることに気が付いた。そう言えば、今は授業中だった。
先生は「随分盛り上がっていたようだけど、あなた方の占い結果を教えて下さいますか?」と静かに言った。私とモーリスは苦笑いを浮かべて目を合わせた。







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