50 スラグホーン先生のお誘い




リリーとスネイプは、昼休みの間に明らかに口論した様子だった。と言う事はつまり、仲直りには失敗してしまったと言う事だ。

「もう、ナマエは私とセブの事を気にしなくて良いわ。そんな事より、あなたはリーマスと仲直りするべきじゃない?」
「……それは」

ごもっともすぎて、私は何も言い返せなかった。
リリーは、ポッターを憎らしいと思う気持ちと、スネイプを助けてくれたという感謝する気持ちの間で複雑にせめぎ合っているのだろう。その後の授業も、珍しく彼女はうわの空だった。


しかし良い事もあった。土曜日に行われたクィディッチのスリザリンとの試合に、グリフィンドールは無事に勝利を収めたのだ。ポッターを筆頭に、他のクィディッチ選手達は談話室で担がれて、例のごとくお祭り騒ぎだった。
私は談話室の影の方にいる顔色のすこぶる悪いリーマスを見た。話しかけるなら、騒がしい今がチャンスなのでは無いだろうか?私はバタービールの瓶を手に取ると、自然な流れでリーマスの隣に移動した。

「リーマス、体調大丈夫?」
「やぁ、ナマエ。体調は大丈夫だよ」

リーマスは一瞬驚いた顔で私を見て、それから手にしていたバタービールを勢い良く飲むと「……それに」と続けた。

「僕今とっても幸せだ」
「スリザリンに勝てて?」
「それもあるけど……それ以上に、ジェームズ達と友達になれて」

リーマスは目を細めてポッターを見た。ポッターは周りの「グリフィンドール!グリフィンドール!」というコールに合わせて、ふざけながら逞しいポーズを決めている。それを見た女の子から黄色い歓声が上がった。

「僕、ナマエに嫌われてしまったのかと思ったよ」
「嫌いになるなんてそんな……」

その後に続く「むしろ好きです」の言葉を私はバタービールと一緒に飲み込んだ。もうこの気持ちは伝えない、彼とは友達でいよう、そう決めたんだから――

「リーマス、これからも仲良くしてね」
「勿論。僕、君やリリーと友達になれたことも、本当に良かったなって思ってるよ」

リーマスはにっこりと微笑んだ。
やっぱりまだ辛いけど、リーマスと気まずいままなのはもっと辛い。私は色んな感情を流し込むように、また更にバタービールを飲み込んだ。




◇◇◇



12月に入り、すっかり寒さが深まった。
宿題も相変わらず大量だし、リリーやリーマスに至っては監督生の仕事量も増えて忙しそうにしていた。(しかし2人は私の目にはそれらの事を全く意に介していないように見えた。)

クリスマス休暇も間近に近付いたある日、魔法薬学の教室を出ようとしたリリーを、スラグホーン先生が呼び止めた。

「リリー!ちょっと良いかな?」
「はい、先生」

きっとまた、スラグ・クラブのお誘いだろう。私がリリーに「じゃあ先に行ってるね」と声をかけた時、リリーを見つめていたスラグホーン先生と目が合った。その瞬間、スラグホーン先生がまるで生まれて初めて私の存在に気が付いたかのように、目を真ん丸にして今度は私を見つめ返した。

「ほほう、君は図書室の暴れん坊さん!」
「あー、あの……はい……」
「チッチッチッ、君の名前は知っているよ。今や君は有名人だからね……ミス・ミョウジだ、そうだろう?」

スラグホーン先生が期待を込めた目で私を見返した。スラグホーン先生にまで私の変な噂が回っているなんて……。色々と訂正したい気持ちを抑えて、私が「はい、そうです」と答えると、スラグホーン先生は満足そうに微笑んだ。

「丁度良かった。ならば君も話を聞いていくと良いだろう!実は休暇前にクリスマスパーティーを開こうと思っていてね。リリー、君は勿論来てくれるだろう?」
「ええ、先生喜んで」
「それから……」

スラグホーン先生はくるりと私に向き直った。でっぷりとした顔の肉に埋もれた2つの小さな瞳が、私を真っ直ぐに捉えている。

「君にも是非来て欲しいんだが、どうかね?」
「……あの、私……」
言いかけたところでリリーが肘で私を小突いたので、突発的に「あ、はい、勿論行きます」と返答してしまった。スラグホーン先生はその答えを聞いてすこぶる嬉しそうに「では招待状を後で送るから、もう行って良いよ」と口髭を揺らして笑った。



「私を招待するなんてどういうつもりなの、あの先生は」
「あなたの図書室での暴れっぷりが相当先生の記憶に焼き付いたのかもね」

リリーを睨み付けると、リリーは「冗談よ」とおちゃらけたように笑った。
それからずっと私達の話題の中心は専らクリスマスパーティーについてだった。こんな経験初めての事だ。リリーも、クリスマスパーティーに参加するのは初めてだと言っていた。問題は誰を誘うか、だ。

「私達、2人で行かない?」
「ダメよナマエ。折角のクリスマスパーティーなんだから……それは最終手段にしましょう」

私の申し出を、リリーはにべもなく断った。
リリーは相手に困らないだろうから良いよ。リリーの事を気になっている男の子を私はポッター以外にも知っている……でも問題は私の方だ。一体、誰を誘えば良いって言うの?
私はクリスマスパーティーに1人寂しく出席する惨めな自分を想像した――それは不思議なくらい自然と想像が出来た。私はきたるクリスマスパーティーに向けて、既に怯えきっていたのだった。







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