49 最後の罰則




長かった罰則も、最終日を迎えた。
罰則のせいで宿題をする時間が削られてしまった事は、中々の痛手だった。私はリリーやマーニー達に手伝ってもらいながら、なんとか宿題の山を終わらせていたのだ。


「……それで、何でまたあなた達と一緒なわけ?今度は何をやらかしたの?」
「スリザリンのナントカってやつにちょっとした悪戯をね……」
「……また?」
「おいおい勘違いしないでよ。今回は正当な理由があるんだから。同じクィディッチチームのジェイコブにあいつは不意打ちで呪いをかけようとしていたから、僕達仕返ししたんだ」
「そしたら運悪くスリザリンの監督生に見つかっちまったってワケ」

ブラックは歯噛みをしながら悔しそうに鍋を磨いた。
最後の罰則は厨房で魔法を使わずに行う鍋磨きだった。私は厨房に入ったのは初めてだ。周りでは、屋敷しもべ妖精が忙しなく動き回っている。
折角1日目のトロフィー磨き以来彼等と一緒に罰則を受けないで済んでいたと言うのに、彼等は性懲りも無くまた悪さしたらしい。今週末にクィディッチのスリザリン戦を控えている為、グリフィンドールとスリザリンの間ではいざこざが頻発していた。

「この罰則のいい所はつまみ食い出来ることだ」

ポッターがどこから持って来たのか、マフィンにかじりつきながら呑気にそう言った。大分時間が経っているというのに、ポッターは中々罰則に取り掛かろうとしない。私はポッターに向かって手袋と金たわしを投げつけた。

「食べてないでさっさとあなたも手伝ってよ!じゃなきゃいつまで経っても終わらないでしょ!」
「はいはい、そんなに怒らないでくれよ」
「おい、暴れん坊が暴れ出す前に早く終わらせちまおーぜ」
「厨房をめちゃくちゃにされては困るからね」
「だからあれは全部デタラメだってば!」

そう言ってブラックを睨み付ければ、ポッターは目を真ん丸にして「えー!」と声を上げた。

「僕、君がマルシベールにやり返したって聞いたんだけど、違かったの?それで君の事、すっかり見直したってのに」
「バカナマエも遂に"こっち側"に来たかーってな」
「……不名誉な賞賛どうも」

嫌味を込めてそう言うと、2人を無視して鍋底の焦げを力いっぱい擦る。おかげでこびり付いていた焦げはすっかり落ちた。

その後は、時々ペチャクチャと良からぬ悪戯の計画を立てている2人に注意をしながらも懸命に鍋を磨き続け、最後の1個を磨き終えた頃にはすっかり時計の針はてっぺんを回りきっていた。


「君と一緒だったから思ったよりも早く終わって良かったよ。今日はクィディッチの練習もあったからクタクタだ……こんな日に罰則なんて酷すぎる」
「それに、今夜は"満月"だ」
「罰則の日に"満月"なのが何か関係ある?」

ポッターとブラックは目を合わせると、不自然に宙を見ながら「別に〜」と言った。明らかに怪しい態度である。ブラックに至っては急に階段脇の絵画に興味が湧いたのか、私の疑いの眼差しから逃れるように階段を上りながらまじまじと絵画を見つめ始めた。
そうしているうちにいつの間にか私達はグリフィンドール寮の前に着いていた。寝ぼけ眼の太った婦人に「イッティ・ビッティ」と合言葉を伝えると、婦人は「はいはい、今開けますよ」とブツブツ言いながら前に倒れた。

「宿題の山にクィディッチの練習に更に罰則なんて、スリザリンの奴ら僕をヘトヘトにして試合の前に殺す作戦だ」
「そもそも罰則を受けないように態度を改めれば良いんじゃない?」
「君に言われたかないね」
「私のは"正当防衛"だからあなた達とは訳が違うの」

この2人の日頃の悪戯と、あの日の私の一度きりの行動を同等に思われるなんて心外だ。
談話室に入ると、ソファでうたた寝していたらしいぺティグリューが弾かれたように飛び起きた。

「プロングス、パッドフット!待ってたよ」
「"待ってた"?あなた達また何か……」
「あーうるせぇな、いちいち首を突っ込むんじゃねぇよ」
「まるでどっかの誰かさんみたいだね」

どっかの誰かさんって誰よ、と突っ込もうとしたその時、ブラックがニヤニヤしながら思い出したように「そう言えば」と口を開いた。

「そのどっかの誰かさんがコソコソ嗅ぎ回って鬱陶しかったから、俺、暴れ柳の止めた方を教えてやったよ」
「――何だって?」

得意気なブラックと対照的に、ポッターの顔はみるみるうちに青ざめていった。ぺティグリューもその話を聞いて目を見開いている。この2人は、一体誰の、何の話をしているのだろう……ポッターはぺティグリューが持っていたらしいマントを引っつかむと、目にも止まらぬ早さで談話室を飛び出して行った。

「――な、なんだったの?今のは」
「……お前には関係ないことだよ。いいからさっさと寝ろ」

私とブラックとぺティグリューの間には、言いようのない不穏な空気が流れていた。私は何だか納得のいかないまま、寝室に向かったのだった。



◇◇◇



次の日、スネイプとポッターの間に何かあったらしいと言うのを監督生であるリリーづてに聞いた。それはちょっとした騒ぎになっていた。しかもなんと、にわかには信じ難いのだが、ポッターがスネイプを助けたと、私は確かに聞いたのだ。

「昨日、暴れ柳がどうとかそう言えばブラック達が言ってた」
「暴れ柳の下に、トンネルがあるみたいなの……そこで何かあったみたいなんだけど」
「……スネイプ、何も無くて良かったね」
「……うん」

私は魔法薬学の教室へ移動しながら、リリーと小声で話していた。暴れ柳の下にトンネルがあった事自体、私にとっては驚きだ。リリーは何か思う事があったらしく、顔を顰めて暫く押し黙ると、決心したように「よし」と突然声を出した。

「私、この後セブルスときちんと話すわ」
「仲直り、出来るといいね」

リリーは私に向き直って微笑んだ。
私達はいつの間にか魔法薬学の教室に辿り着いていた。







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