48 トロフィー室




「先程の騒ぎは何ですか?!図書室をあんなにめちゃくちゃにして!!」

マクゴナガル先生は部屋に入るなり振り返り、私を大きな声で怒鳴りつけた。その口角はわなわなと怒りで震えている。その勢いに萎縮しながら小さな声で「あの……」と言うと、マクゴナガル先生は「何ですか?」と私をキッと睨み付けた。

「マ、マルシベールが、彼が、先に杖を出して私を攻撃しようとしたんです。だから私、咄嗟に……」
「現場を目撃していた大多数の生徒が、貴女が先に仕掛けたように見えたと言っていましたよ!」
「そんな!違います!」

確かに、あそこは図書室の端の方だったし、マルシベールは周りに背を向けている状態だったから、傍から見たら私が一方的に攻撃を仕掛けたように見えたのかもしれない。もしかして、嵌められてしまったのだろうか?

「……まぁ、私も貴女が理由もなく攻撃をするような生徒だとは思っていません。しかし図書室をめちゃくちゃにしたのは事実ですから、グリフィンドールから10点減点します。それから明日から1週間の罰則を与えます」
「そ、そんな……先生、マルシベールは?」
「彼の処罰は寮監のスラグホーン先生がお決めになります。貴女の気にする事ではありません。……それにしても一体どうしてしまったんですか?ミス・ミョウジ。貴女は大人しくて問題を起こすような生徒では無かったはずでしょう――」
「……はい、すみません」

私はマクゴナガル先生の呆れたような視線にすっかり縮こまった。


マクゴナガル先生の部屋から出ると、廊下でピーブスが大声で「ナマエのバカがやらかした!!!図書室で大暴れしてグリフィンドールから10点減点だ!!!」と言いふらしているところだった。「うるさい!」とピーブスを怒鳴りつければ、ケタケタ笑いながらすいーっと壁の中に消えて行った。あいつ、また別なところで言いふらすに違いない。周りの子達に指を差され、真っ赤になりながらグリフィンドールの談話室に戻った。

談話室に戻ると、すぐさまリリーやマーニー達が駆け寄って来た。

「ナマエ!一体何があったの?」
「あなたが図書室で大暴れしたってもっぱらの噂だけど」
「私はあなたが図書室の本棚を次々吹き飛ばしていったって聞いたわ」

何やら話に尾ひれどころではなく手足まで付いて広まってしまっているようだ。皆私に何があったのか聞きたがった。しかしリリーの手前スネイプとの事は言い出せるわけもなく、「マルシベールに呪文をかけられそうになったので、応戦したら呪文が跳ね返ってしまった」事だけを話した。リリーは最初訝しんでいる様子だったが、マルシベールと聞いてそんな疑いも何処かへ飛んでしまったらしい。鼻息荒く、「あいつ、許せない!」と憤慨していた。



次の日の夕食後、私は罰則を受ける為にトロフィー室のある4階へ向かっていた。
私の図書室の話は歪曲した形でだいぶ広まってしまったようで、今や私は「力を示したくて暴れた目立ちたがり屋」のレッテルを貼られていた。そしてさらに腹立たしいのが、マルシベールが被害者であるかのように語られている事だった。事実、マルシベールは今回の件に関してお咎めなしだったのだ。

苛々しながらトロフィー室に入れば、もっと苛々させる男がいた。
――シリウス・ブラックだ。
私達はお互いに顔を合わせると、「うぇ」と殆ど同時に呻き声をあげた。
最近ブラックはずっとよそよそしかったので、こうして顔を突き合わせるのは久しぶりに感じた。私はブラックから少し離れたところに座り込んで、近くにあった盾を適当にひっ掴んだ。


「お前、最近有名人みたいじゃねーか」
「ありがたいことに、そうみたいだね」
「お前があんなに目立ちたがり屋の暴れん坊だったとは、知らなかったなァ――あ、暴れん坊は前からか」
「その話、ぜんっっぶデタラメだから!」

私は怒りにませてこれでもかという強さで盾を磨きつけた。T・M・リドルと書かれたその盾は、私が磨いたところだけ不自然にピカピカになった。
つい最近までのよそよそしかったブラックはどこへ行ってしまったのやら。あれは私の願望が見せた幻覚のブラックだったのかもしれない。

「あなたは何をやらかして罰則を受けてるの?」
「ちょっとした呪文をジェームズと一緒にオーブリーってやつにかけたら頭が2倍に膨らんじまってさ。あれは笑えたな」
「あなた達スネイプ以外にもそんないじめみたいな事してるわけ?」
「いじめなんて、人聞きが悪いな」

呆れて言葉も出ない。ブラックは悪びれる様子も無く、トロフィーを雑に磨いてる。そんな適当なやり方では、フィルチにやり直しを言い渡されるに決まっている。

「ポッターはどこ行ったの?」
「あー、フィルチが俺と一緒にしたら大切なトロフィールームが爆破されるとか言って別の罰則を受けてるよ。フィルチの監視付きでな」

私は4年生の頃にこの2人と一緒に受けた罰則を思い返して、それが賢明だと思った。
その後はただひたすらに、黙々とトロフィーを磨いた。途中、ダンブルドアのトロフィーや盾が何個も出てきて、改めて校長先生は凄い魔法使いだったんだなぁと実感せずにはいられなかった。

どのくらい経っただろうか、30個は既に磨き上げたと思う。何個目かも分からない盾に手を伸ばした時、小さな声が微かに聞こえた。不審に思って辺りを見渡すと、ブラックがどこから取り出したのか、携帯本くらいの大きさの鏡に向かって何やら話しかけていた。

「何してるの?」

好奇心を抑えきれず、四つん這いになりながらブラックににじり寄ると、鏡の中の人物が「やあ!」とご機嫌にこちらに向かって挨拶をした。

「ポッター!」
「どう?罰則デート楽しんでる?」

私はヘラヘラ笑うポッターにあからさまに苦い顔を向けた。きっと隣のブラックも同じような顔をしているのに違いない。

「おい、止めろよ……フィルチはどこ行った?」
「さあ。誰かが廊下でクソ爆弾を爆発させたとかで大張り切りで出て行ったけど」
「ふーん。で、終わりそう?」
「終わりなんか見えるもんか。僕が真面目におまる掃除なんかすると思う?」
「でもやらないとあなた帰れないんじゃない?」

私が口を挟むと、「いくつか丁寧にやって、あとは適当でいいんだよこんな物は」とポッターは呆れたように返した。その後もブラックとポッターは良くもまぁそんなに話すことがあるなという勢いで話し続け、ブラックに至ってはトロフィー磨きすら私に全て押し付けてお喋りに夢中になっていた為、最終的に私がその鏡をブラックから取り上げた。

「おいバカナマエ、返せよ!」
「先生にこの鏡の存在をバラされたくなければ、今すぐそこに残ってるトロフィーと盾を磨きなさいよ、バカブラック」
「はぁ?20個近くあるじゃねーか」
「私はその倍磨いてるんですけど?」

鏡を覗き込めば、ポッターが憐れむような表情で此方を見ていた。
それから鏡の中のポッターが大きな声で「じゃーな、パッドフット!」と言うと、ブラックが「ああ、じゃーなプロングス!」と返し、たちまち鏡はただの鏡に戻った。

「パッドフット?プロングス?何それ」
「俺達の新しいあだ名だよ。イカしてるだろ」
「変なあだ名」

睨み付けるブラックに、私はただの鏡になったそれを突き返した。
その後、ブラックは私に監視されながら雑に20個程のトロフィーやら盾を磨き上げた。ブラックはふぁーと大きな欠伸をしながら腕を伸ばすと、その場にゴロンと寝転んだ。

「俺はこんなに真面目にトロフィー磨きしたのは初めてだ」
「誇らしく言う事じゃないでしょ」

本当にこいつら2人はどうしようもない奴らだ。呆れた顔でブラックを見下ろした。憎たらしいが、相変わらず端正な顔である。サラサラな黒い髪が、額にはらりとかかっている。その顔を見ていたら、不意にまた1年生のあの日の事を思い出した。あの時はあんなに大嫌いで存在自体ずっと避けていたと言うのに、今ではこんなに軽口が叩けるようになっている事に自分自身でも驚きだ。

「おいバカ、そこに立ったらパンツが見えるぞ」

床に寝転んだブラックが、ニヤッと笑って言った。
ああやっぱり私はこいつが大嫌いだ。







「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -