46 無神経な男




目の腫れは、月曜日にはすっかり治まっていた。
ホグズミード行きも終わり、また日常の勉強に明け暮れる日々が始まってしまった。唯一の楽しみと言えば、10月31日のハロウィンのご馳走くらいだ。

あの日以来、私はリーマスとなんだか気まずくなってしまっていた。正確には、私が一方的に気まずいと思って避けている、なのだが。勉学の方が忙しくてリーマスの事を考える暇が無いと言う事は、私にとって不幸中の幸いだった。
もう一つの変化と言えば、面白い事にブラックがとてもよそよそしくなった事だ。これに関しては嬉しい変化と言える。絡まれる度に無視をしなければいけないのは中々にストレスの溜まる事だったので、とても清々していた。




水曜日、占い学に向かう為大広間から北塔に向かっている途中でタペストリーの裏からひょっこり現れたポッターと出会した。ポッターも突然の遭遇に大層驚いた様子だったが、すぐさまわざとらしい笑顔を貼り付けて私の後を着いて来た。

「着いてこないでよ」
「僕は君に着いて行ってるわけじゃないよ。ただ北塔に向かってるだけさ」
「なんで北塔なんかに――」
「何故って、僕の次の選択授業はマグル学だ」

自分の耳を疑った。何の授業を取ってるだって?思わずポッターを振り返ったが、彼は相変わらず上機嫌に鼻歌なんか歌って私を軽々追い越していった。

「あなた、マグル学なんて受けてるの?どうして――」
「シリウスが受けるって言うからさ。でも案外楽しいものだよ?この間なんて"電化製品"について習ったよ」

ポッターは私が電化製品について知らないとでも言う様に、"テレビ"について長々と説明を始めた。(彼曰く、「テレビ番組と言うのは非常に興味深いマグルの娯楽だ」)

「ポッター、忘れているようだから言っておくけど、私はマグル生まれだよ」
「ああ、そうだったそうだった」

愉快そうに笑うポッターを呆れた顔で見つめた。わざとなのか、それとも本当に忘れていたのかその表情からは分からなかった。

「その相棒はどうしたの」
「さあ、先にピーターと北塔にでも行ってるんじゃない?僕は昼休み中クィディッチの今後の練習の話し合いをしてたから」
「そう言えば、もうすぐクィディッチが始まるね」
「ああ、今年は絶対に優勝するよ」

去年は惜しくも優勝杯はスリザリンの手に渡ってしまったので、今年はグリフィンドールの代表選手達の熱の入りようも一味違う様だ。私なんか勉強だけでいっぱいいっぱいだと言うのに、その上クィディッチの練習だなんて。こればかりは感心せずにはいられない。


階段を何段も上り、北塔に続く廊下に出た。占い学の教室まであと少しだ。廊下を歩きながら、ポッターがふと思い出したように「そう言えば」と口を開いた。

「君、リーマスと何かあったのかい?」

ギクリとして私は思わず立ち止まっていた。ポッターは急に立ち止まった私を振り返って、私と向かい合うようにして目の前に立った。私より遥かに背の高い彼は、意図せずして私を見下す形で見ている。彼はハシバミ色の瞳を、ぱちくりと呑気に瞬きした。

「何かあったとして、それがあなたに何か関係ある?」
「関係大アリだね。リーマスと君まで仲が悪くなってしまったら、僕がもーっとエバンズに話しかけるチャンスが無くなるじゃないか!」
「だとしたら万々歳ね」

私がそう言い放つと、ポッターは「冷たいなぁ」と何が面白いのかケタケタと笑った。

「まぁ仮に君が失恋したのだとして――まぁまぁ最後まで聞きなよ、"仮に"って言ってるじゃないか――"仮に"失恋したのだとしても、別に君に非があったからとかじゃないから気にする事ないよ」

予想外にもポッターは励ますような口振りでそう言った。なんだかやけに優しい口調なのが気味悪くて、何か企んでいるような気がしてならない。

「リーマスは例え絶世の美女から求愛されたとしても断るさ」
「そりゃあ、リーマスは見た目で人を判断するような人じゃないもの」
「……僕はそういう事言ってるんじゃないよ、ほんと君はニブチンだなぁ」

ポッターは呆れたようにため息をついた。私はポッターの言わんとしている事がさっぱり分からず、頭にハテナがいっぱいだった。

「はぁ、だから――リーマスは誰とも付き合わないって事さ」
「……なんで?」
「……さあ。でもリーマス本人がそう言ってるんだからそうなんだろう。だから君も落ち込まない事だね」

ポッターが嘘をついているようには見えなかった。
そしてリーマスが誰とも付き合わないと言っているからと言って、私の悲しさが無くなる訳でも無い。
私が黙りこくってしまったので、ポッターはまたしてもため息をつくと、廊下を歩き出した。それからポッターはマグル学の教室へ続く階段の前でもう一度私に振り返った。

「まぁ、君がリーマスとくっつこうが、なんだったらシリウスとくっついたって僕からしたらどっちでも良いんだ。エバンズと近付くチャンスが巡ってくるならね」

私は手に持っていた夢日記をポッター目掛けて思い切り投げ付けた。しかし流石クィディッチの選手と言うべきか、「よっ!」という声と共に軽々と避けられ、夢日記は虚しくばさりと廊下に落ちた。どうもポッターにはデリカシーという物が欠落してしまっているらしい。

「夢日記ねぇ……因みに聞くけどここ最近夢に何回リーマスが出てきたんだい?」

私からの2回目の本の襲撃を受ける前に、ポッターはそそくさとマグル学の教室へと逃げて行った。






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