44 引かれた一線




それから私達は何処に行くでもなくただ話しながらブラブラと歩いた。会話の内容は殆どが学年末に行われるO.W.L.試験についてだった。リーマスに苦手科目を聞いたら、「魔法史」と「魔法薬学」と答えたので私は心底ほっとしていた。魔法史に至っては、リーマスですら寝てしまいそうになってしまう時があるらしい。魔法史は授業の中で一番退屈だという事で最終的に私達の意見は合致した。


特にあてもなく話しながら歩いているうちに、私達はいつの間にか『叫びの屋敷』の近くまで来ていた事に気が付いた。呪われているだとか、幽霊が出るだとかの噂が絶えないここら辺じゃ有名な屋敷だ。あまりに恐ろしいので、誰も立ち入らないらしい。
変な噂がある以上極力近付きたくは無かったが、叫びの屋敷へと続く道へ通りがかると、リーマスは突然立ち止まって叫びの屋敷を感慨深げに見つめた。

「……リーマスは怖いと思う?この屋敷……色んな噂があるけど」
「まさか。ナマエは?」
「……不気味だとは思うけど、私も怖くはないかなぁ」

魔法が使えなかったら、勿論怖かった事だろう。しかし今は魔法が使える上に、ホグワーツにはゴーストがうじゃうじゃいる。もう慣れてしまっていた。

「怖い物無しってことか。頼もしいね」
「あはは、そんな事ないよ。……リーマスは?何か怖い物ってあるの?」
「僕は……何だろう」

リーマスの表情が途端に曇った。
会話を広げる為に何となく聞いたつもりだったが、もしかしたら私はとても不躾な事を彼に聞いてしまったのかもしれない。
リーマスは依然顔を曇らせ押し黙ったまま、叫びの屋敷を見つめている。その思いつめた表情と雰囲気に圧され、私は何も声が掛けられなかった。



「……僕は皆が離れて行くのが怖いかな」

リーマスがやっと屋敷から目を離し、私に向かって笑いかけた。しかしその笑顔は、明らかに無理矢理作られたものだった。
……リーマスは何故そんな事を言うのだろう?
友達は沢山いるだろうし、そして何より、私だってリリーだって、何だったらポッターだってブラックだってぺティグリューだって、きっとリーマスの元から離れる事なんてないと思うのに。

リーマスは明らかに何かを隠している。病気持ちな事とは別に、何か言えない事を……それはいくら鈍い私でも、もう既に勘づいていた。でもきっとその隠し事を自分から教えてくれる事はないのだろう。

私は無意識に口を真一文に結んで下唇を強く噛んでいた。リーマスはそれを見てまたしても無理矢理作った様な悲しげな顔で微笑んだ。

「僕、ナマエともずっと友達でいたいな」

その一言で、何となく一線を引かれた気がした。
リーマスと私の間には、見えない壁がある。それはとても分厚くて、そんな簡単には壊せない物だ。こんなに近くにいても、私は彼の心の中には一歩も近付くことは出来ない。

これ以上の関係を望めないと瞬時に悟った私は、やっとの思いで「私もだよ」と返すと、その後はホグワーツに戻るまでずっと黙ってリーマスの後ろを歩いた。あんなに楽しかった一日も、突然遠く昔の出来事みたいに思える。

前を歩くリーマスの背中が、やけに小さく見えた。






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テーマ「人外ファンタジー」
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