43 初めてのデート




緊張すると、眠れなくなるのは何故なのだろう。
私はほとんど寝れないまま、ホグズミード行きの土曜日を迎えた。人生初めてのデートだ。緊張せずにいられるわけが無い。
私は髪の毛をブラシで梳かしながら、今年のクリスマスプレゼントには、テスト前だろうとデート前だろうと気にせずぐっすり眠れる強靭なメンタルが欲しいと願った。

私がブラシで髪を梳かし終わった頃、リリーがモゾモゾと布団で動き始めた。準備にたっぷり時間をかける為にかなり早起きしたつもりだったが、リリーも随分と早起きだ。
と言うより、普段から彼女は私より先に起きているので実際は何時に起きているのか私は知らない。きっといつもこのぐらい早く起きているのだろう。
リリーは布団からひょいっと顔を出すと、緑の瞳を輝かせながらニヤニヤ顔で私を見た。

「……なーに?リリー」
「ふふふ、別にー!」

そう言うとリリーは起き上がって腕を天井に向けながら大きく伸びた。パジャマが少しめくれて、リリーのお腹がちょっと見えている。

「なんだか私まで楽しみだわ」

それからベッドから飛び起きて、鼻歌を歌いながらリリーも準備を始めた。




――私達が朝食を食べ終えた頃、リーマスがポッター達と一緒に大広間に現れた。ポッターはいつになくどんよりした顔だ。リーマスと目が合うと、彼はにこっと微笑んだ。

「シリウスもリーマスも、酷い裏切りだ!」

すれ違う時、ポッターが一際大きな声でわざとらしく叫んでいた。リリーに視線を送れば、顔面に臭い玉を投げ付けられたかのような不快感たっぷりの表情を作ったので、私は思わず吹き出して笑った。
大広間を抜けて玄関ホールを横切り、樫の木の扉のちょっと横でリーマスを待った。

「ねぇ、私変じゃないかな?」
「大丈夫よ。いつも通りかわいいわ!」

"いつも通り"ならば、それは全然かわいくないのではないか?そんなネガティブな考えが脳裏を掠めた。
どのくらい待っただろうか、待つ時間が長ければ長い程に色んな考えがグルグルと頭を巡って、ドキドキやら不安やらでそのまま気絶してしまいそうだ。リリーがリーマスが来るまでの間気を紛らわそうと話しかけてくれたが、私はそれにほとんど「うん」やら「へぇ」としか答える事が出来なかった。

「――ごめんナマエ、待たせてしまって」
「大丈夫だよ、私の方が早く来すぎちゃったし……」

リーマスが息を弾ませながら申し訳なさそうにそう言った。リリーはリーマスが来たのを見ると、小さな声で「楽しんでね!」とその場からコソコソといなくなってしまった。

「じゃあ行こうか」

リーマスと2人きりで並んで歩くのは、4年生の時に教科書を隠された時以来だった。心無しか、隣を歩くリーマスは去年よりも身長が伸びた気がする。
フィルチのチェックの列に並んでる間、数メートル先にいたリリーとマーニー達が何度か私達に振り向いて楽しそうにクスクス笑いをしていた。

「ポッターは結局ぺティグリューと2人で回ってるの?」
「多分ね。でもシリウスがすぐ戻って来ると思うから大丈夫だよ。いつもの事さ」

前のグループのチェックが終わって歩き出すのに合わせて、私達もフィルチの前に歩み出た。フィルチは私とリーマスの顔をリストと照らし合わせながら食い入るように見ると、「よし」と食いしばるような声で言った。
ホグズミードまでの道のりを、他愛も無い会話をしながら歩いた。あれだけ緊張していたのに、いざ2人で話し始めると不思議と緊張はどこかに消えていた。



ホグズミードに着くと、私達は特に話し合ったわけでも無かったが、自然とハニーデュークスへ向かっていた。そう言えば、去年リリーをポッターと無理矢理デートさせた時にもハニーデュークスへ皆で行ったけなぁとなんだか懐かしさを感じた。

ハニーデュークスで沢山お菓子を買ったあとは、リーマスが「ダービシュ・アンド・バングズ」に行きたいと言ったので、一緒に着いて行った。
店内には天井から床まで全て珍しい魔法用品で溢れ返る程沢山陳列されている。リーマスを待つ間ブラブラと店内を散策していると、陳列棚の一角で"透明マント"と書かれた商品を見つけた。パッケージには小さく、"効果は1時間"と書かれている。

「それはジェームズが持ってるのとは違うよ」

買い物を終えたリーマスが、覗き込んでそう言った。

「これじゃないの?」
「もしあのマントの効果が1時間しか持たなかったら、僕達今頃とっくに退学になってるよ」
「それ、すごい問題発言じゃない?」

まさかの告白に思わず目を見開いてリーマスを見る。リーマスは笑いながら「勿論、去年までの話だよ」と言ったが、正直、リーマスは監督生だから今は出歩いていないとしても、ポッター達は未だに夜中にベッドを抜け出しているのではないかと私は思っていた。直接目撃をした訳では無いが、なんとなく、直感だ。


ダービシュ・アンド・バングズからハイストリート通りに出ると、リーマスは辺りを見渡しながら「さぁて」と呟いた。ハイストリート通りは行く宛ても無くただたむろする生徒で溢れている。

「ナマエは何処に行きたい?」

リーマスは前を見ないで歩いていた3年生の女の子と衝突するのをすんでのところで避けながら私に聞いた。

「……私、行きたいところとか何も考えて無かった……」
「そっか。じゃあ喫茶店は?マダム・パディフットの……」
「あー、あそこは……確かにとってもかわいらしいから行ってみたいけど、多分行ったら私達、気まずい思いをすると思う……」

苦笑いをしながらそう伝えると、リーマスはぽかんとした表情で「そうなの?」と言った。

「僕シリウスから"女の子は皆そこに行きたがる"って聞いてたから、てっきりナマエも行きたいのかなと思って……」
「ブラックがあそこに行くの?!」

私は自分の耳を疑った。ブラックが――あんなピンクでフリフリの女の子らしい店に――
私はブラックがあのピンクでむんむんな店内に大人しくお座りしているところを想像して堪らず笑い出した。
しかもリーマスの口振りから察するに、訪れたのは一度や二度ではないらしい。

「あそこはカップルだらけなんだよ。それに"女の子は皆"って……マダム・パディフットもきっと"また違う女の子と来てる"って思ってるよ」
「ははは、まぁ彼は来る者拒まず去るもの追わず、だから……」
「へぇ、運命の相手が沢山いて羨ましい限りですこと」

今日もきっと今頃、どっかの女の子とあの喫茶店にでも行ってるのだろう。今日のデート相手はさしずめあのパトリシアとかいうイヤな女の子といったところか。
嫌味を込めて言うと、リーマスは空を見ながら「いや、ひょっとすると――」と呟いた。

「……ひょっとすると?」
「……ひょっとすると、彼は待ってるのかもしれない。運命の人がやって来るのをさ」
「……それって普通逆じゃない?」

「お姫様じゃないんだから」と突っ込めば、リーマスは「それも確かにそうだね」と朗らかに笑った。






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