41 どうでもいいこと
「何なのあの子?ナマエ、知り合い?」
「話した事はないけど……先週レイブンクローとの合同授業の時、ブラックとペアを組んでた子だよ。私の後ろの列にいた……でも、何で私に頼んだんだろう?」
"ブラック"というワードに、リリーは片眉をピクリと動かした。
談話室は、宿題をまだ終わらせる事が出来ていない5年生や上級生で溢れかえっている。談話室をくるりと見回したが、肝心のブラックの姿は見えなかった。
「……つまりそれって、わざとよね」
「わざと?」
「彼女、あの時ブラックとポッターがあなたにちょっかいをかけてるのが気に入らなかったんだわ。だからわざとあなたに呼んで来いって言ったのよ」
リリーは腕を組んでイラついたように人差し指を忙しなくトントンしている。
「見せつける為ってこと?でも、私何とも思ってないのに――」
「あの子にはそう見えなかったんじゃない?それに彼女あなたが羨ましいんだわ、理由が何であれ気を引いてるのが――」
「私、嫌がらせされてるのに!」
思わず大きな声を出してしまった為、近くにいた数人が驚いてこっちを見た。私は恥ずかしくなって少し俯いた。
「兎に角、あの子の為にブラックなんて呼びに行かなくていいわ。朝が来るまでずっとあそこに立ってればいいんだわ――」
「……いや、私呼びに行くよ。だって呼びに行かなかったらまるで私があの2人の事気にしてるみたいで嫌だし」
私はリリーに本を渡すと、談話室の奥にある男子寮へ続く階段をイライラしながら上った。不思議な事に、階段を上るごとにそのイライラが大きくなる感覚を覚えた。
どいつもこいつも、私が好きで嫌がらせを受けているとでも思っているのだろうか?そんなに彼に注目されたいなら、是非とも私と変わって欲しい。
ここのところ何を言われても言い返さず無視をするように我慢し続けていた為、私の中でブラック達に対する怒りは既に爆発寸前の所まできていた。
男子寮まで上りきると、私は大きな声で「シリウス・ブラック!!!」と名前を叫んだ。
「……おいおい、なんだよ」
ブラックは探すまでもなく現れた。気だるげな表情で頭をかいている。シャツがカッコつけたように制服のセーターからはみ出していて、そのはみ出したシャツの裾さえ私には憎たらしく感じた。
「……呼んでる」
「は?誰が?」
「パトリシア・グリーン」
ブラックは一瞬考える素振りを見せたが、程なくして「ああ」と思い出した。
「なんでお前がわざわざ呼びに?」
「知らない。彼女に聞いたら?」
私は睨みつけながらそれだけ言うと、駆け足で男子寮の階段を駆け下りた。談話室に戻ると、暖炉の近くのテーブルでリリーやマーニー達が額を寄せあって何やら話をしている。戻って来た私に気が付いたリリーが「ナマエ!」と声を上げた。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない?ほら――」
私が指差す方向に、リリー達は振り返った。男子寮から下りてきたブラックが、涼しい顔をして談話室を扉へ向かって横切っている。その時一瞬、ブラックは此方を見た。
「あのパトリシアって子、ナマエをフクロウ便か何かだと思って――」
リリーが私の代わりに憤慨しているのを見て、私は先程まで爆発していた怒りが自然とおさまっていくのを感じた。リリーがこうして一緒になって怒ったり泣いたりしてくれる時、私は不思議と段々冷静になれるのだ。
「リリー、ありがとう……でも私もう気にしてないから――さぁ!宿題しないと!」
私は気持ちを切り替えるように、羊皮紙と図書室から持ち出した『東洋の解毒剤』の本を開いた。リリーや他の女の子達は何だか納得がいかないという表情を一瞬浮かべたが、すぐさま溜まった宿題を片付ける為にレポートに取り掛かった。