39 腹が立つ奴ら




『魔法史』の授業で、私は生まれて初めて最後までビンズ先生の話を聞くことが出来た。先生の話を聞きながらとったメモは、最後の数行は眠気と戦った結果ミミズの這ったような字が並んでいたが、今まで全く話を聞いていなかった自分と比べれば大分成長したと思う。
授業の最後にビンズ先生が羊皮紙50センチ分の宿題を出した。

『変身術』では、マクゴナガル先生がまず最初にO.W.L.試験がいかに大切かを私達に言って聞かせた。その話を聞くだけでも、私はストレスで朝食べたトーストを吐き出しそうになった。
それから今までと比べ物にならない程に恐ろしく難しい消失呪文を習った。消失呪文に比べたら、前学期で苦労した取り替え呪文何てものは随分かわいいものだとさえ思える。
配られたカタツムリを消すのに何度も失敗し、私のカタツムリは最終的に殻だけが消えてナメクジのような姿になった。
マクゴナガル先生は次の変身術の授業までにこれを出来るようにすること、と私達に言い渡した。


午前中の授業だけで私の神経はすっかりすり減り、お昼休みに食べた物の味すら何も感じ取れない程になっていた。

スリザリンと合同の『魔法薬学』においても、例に漏れずO.W.L.試験の大切さが語られた。普段呑気なスラグホーン先生までもがああ言うという事は、それだけ相当大切なのだろう。
挙句の果てに、魔法薬学において最高級レベルに面倒臭いのではないかと思われる安らぎの水薬を作らさせられた。
鍋を掻き回す工程の途中、ポッターとブラックがスネイプの鍋に隙を見て何やら関係のない薬品を投げ込むのを目撃してしまったおかげで自分が今何回掻き回したのか分からなくなってしまった上に、火の温度調節が上手くいかず、結果出来上がったのはトロールのゲロのような塊だった。
勿論スラグホーン先生は私達に宿題をたっぷり出した。



その日の夜の談話室には、グリフィンドールの5年生の阿鼻叫喚の声が響き渡っていた。

「ナマエ、占い学はどうだったの?」
「あー、あれは大丈夫。夢日記を毎日つけることになったけど、楽勝だよ楽勝!」
「"悪夢"に関してはお前の得意分野だもんなぁ」

通りかかったブラックが私達の会話を盗み聞きして馬鹿にするようにそう言った。隣のリリーは小声で「ナマエ、我慢よ、我慢」と囁いている。私はブラックを一瞬見た後、また教科書に視線を戻してレポートの書き取りを再開した。隣で同じようにレポートを書いていたマーニー達がクスクス笑ったので、ブラックは舌打ちをするとさっさとどこかに行ってしまった。

「あいつに構ってる暇なんてないんだから」
「うん。そもそも私、あいつに構う前に宿題に殺されそう」
「私も」

憤慨するリリーの横で、私とマーニーははぁ、と深くため息をついた。リリーはさっさと魔法薬学の宿題を終わらせ、ルーン文字の宿題に取りかかっている。開かれた教科書には何やら暗号の様な文字がびっしりと書き詰めてあり、私はその教科書を盗み見ながら心の底からルーン文字を選択しなくて良かったと思った。

「そう言えばホグズミード行きが10月に決まったね」
「そうそう、アリシャは洋服決めたの?」
「決めたわよ!届くのが楽しみだわ」

アリシャが熱に浮かされた様にうっとりとした顔をした。そこから更に雑談大会となり、羊皮紙が半分しか埋まらぬままあっという間に寝る時間になっていた。


「私は見回りがあるから、皆先に寝ててね!」

リリーはリーマスと連れ立って談話室を出た。私は来たる明日の授業に怯えながら、眠りについた。





◇◇◇



火曜日の最後の授業はレイブンクローと合同の『闇の魔術に対する防衛術』だった。最初の15分はまたしても「O.W.L.試験が如何に大切か」を長々と語り、何人かの溜め息が聞こえた。新学期2日目にして既に耳たこである。
男女2人1組になって、防衛呪文と反対呪文の復習をすることになった。最初は武装解除呪文からだ。バーク先生の「始め!」の声で皆が一斉に練習を始めた。

「ナマエ、落ち着いてゆっくり、やってごらん」
「……う、うん」

私とペアを組んでくれたリーマスが、そう言いながら笑顔で「どうぞ」と促す。私は杖を構え、リーマスに向かって「エクスペリアームス!」と唱えた。
するとどうだろう、リーマス――ではなく、私の杖がポロッと私の手から離れて足元に落ちた。
「あ、あれ?」と焦りながら急いで杖を拾えば、リーマスは「大丈夫、もう一回やってみよう」と微笑んだ。
しかしその後も何故だか私の武装解除呪文は成功しない。何度やっても杖が私の手からこぼれ落ちてしまうのだ。私はもうほとんど半べそをかいていた。いつまでもリーマスに付き合ってもらう訳にもいかないので、これで最後にしようと思い「エクスペリ……」と唱えたところで、リーマスが私の後ろの方を睨み付けながら「ジェームズ!シリウス!」と怒りのこもった声をあげた。
何が起きたのか分からず後ろを振り向けば、私の後ろの列にいたポッターとブラックが私に向かってニヤニヤしながら杖を構えている。2人とペアを組んでいたレイブンクローの女の子――特にブラックと組んでいた栗毛の女の子は、さも私が楽しい時間を奪ったかの様に私を恨みがましい目で睨み付けていた。

「ごめんナマエ、ジェームズとシリウスがずっと君の邪魔をしてたみたいなんだ」

私は腹が立つやらいつまでも気が付かなかった自分の間抜けさが情けないやらで顔が真っ赤になっていくのを感じた。リーマスが2人を止めてくれた後は、私の武装解除呪文はすんなり成功した。


「ほんっっっっっっとうに腹が立つわ」

階段を下りながら、リリーが語気を荒げた。壁に飾られた絵画の中の犬が、リリーの声に驚いて激しく鳴き始めた。

「でもその後の呪文は全部成功したよ」
「当たり前よ!ナマエは自信さえあればあとは大丈夫って――」

途中の騙し階段を飛び越え、リリーは私に振り返って「言ったでしょ!」と続ける。

「ありがとう。でももう大丈夫だよリリー。無視出来たし。それにそんな怒ったら血管が切れちゃう」

その言葉にリリーはムッとした顔を向けたが、その後すぐに笑い出した。




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