38 新学期




大広間は先程の騒ぎを引きずり、ガヤガヤと騒がしかった。先生方もほとんどがピーブスの後片付けにまわり、数名しか着席していない様子だ。


「ミョウジ、またひとりぼっちかい?」

ハッフルパフとグリフィンドールのテーブルの間を通って座る場所を探していると、既に着席していたポッターが私に振り返って殴り付けたくなるようなニヤニヤ顔でそう言った。ポッターにこうして絡まれるのは今日これで何度目だろうか?なんだか今日はやたらと私に突っかかってきているように感じた。

「リリーが後から来るもん」
「リリー、リリー、リリー、お前口にリリー・エバンズが貼りついてるのか?」

ポッターの向かい側に座ったブラックが腹の立つ表情で冷やかした。それを聞いたぺティグリューは、わざとらしいくらいに大袈裟に笑っている。

「心配して下さらなくても、リリー以外にもちゃんと友達はいますので」
「へぇ、そりゃ初耳だ!」

対抗してわざとらしく丁寧に言えば、ポッターは更にわざとらしく驚いてみせた。それを見てあとの2人はどっと笑った。胃の底が、またあの頃の様にキリキリ痛んだ。

「ナマエ、早く座りましょう」

何かが込み上げてくるのを感じた時、突然背後から肩をポンと叩かれ振り向くと、リリーが厳しい表情で私を見ていた。あまりにも眉根を寄せているので、リリーの眉毛が一本に繋がってしまうのではないかと心配した。

後ろで茶化すように「監督生の言う事はしっかり聞かないとなぁ!」とブラックが囃し立てたが、リリーはそんな彼等に一瞥もくれることなく、私の肩に手を添えたままその場所から思い切り離れた席まで歩いて私と一緒に着席した。
先程まで玄関ホールで後片付けをしていた先生方も、ひと仕事を終えた表情でゾロゾロと大広間に戻ってきていた。それからダンブルドアが合図をすると、騒がしかった大広間が一気に静まり返った。

「あいつらはナマエの反応を面白がって意地悪言うのよ」
「それは分かってるんだけどさ……」

ダンブルドアが新学期の挨拶と演説をしている間、リリーが囁いた。確かに彼女の言う通りで、あいつらは完全に私の反応を面白がっておちょくっている。リリーの様に無視をすることがあいつらに対する対応で一番適切なのだろう。しかし、頭で分かっていても口が勝手に動いてしまっているのだ。それこそ勇敢たるグリフィンドール生らしいと言えば聞こえが良いが、まぁ所謂ただの負けず嫌いだ。

「ナマエ、もうあいつらに何言われようと反応しちゃダメよ。何かされたら私が絶対に――」

――リリーがそう言いかけたが、目の前に豪華な料理が現れたことに気を取られた私を見て、呆れ顔でその先の言葉を引っ込めた。
私が骨付き肉を頬張りながら「リリーは監督生の仕事もあって忙しいんだし私の事は気にしなくて大丈夫だよ!」と伝えると、リリーは少し寂しそうな顔で「そうね……」と呟いて目の前のローストポテトにフォークを突き刺した。



◇◇◇



月曜日の朝、マクゴナガル先生から渡された時間割を見て私は思わず「ゔぇ」と潰されたカエルの様な呻き声を上げた。

「どうしたの?」

頭上スレスレを横切ったワシミミズクを避けるように頭を低くしながら、リリーが尋ねた。

「今日の時間割、私の苦手な教科ばっかり……」

月曜日の時間割の欄には、『魔法史』『変身術』『魔法薬学』と、私が苦手とする教科が見事に連なっている。唯一まともに受けられそうな授業は、選択科目の『占い学』だけだった。
何故私が選択科目で『占い学』を選んだかと言うと紛れもなく「難しくなさそうだから」、この一言に尽きる。つまりはそういう事だ。

「毎週月曜日に怯えながら1年を過ごさなきゃいけないなんて……」

私は絶望的な気持ちになり、新学期早々に頭を抱えた。勿論、火曜日に待ち構えている『呪文学』も『闇の魔術に対する防衛術』もそれ程得意ではないが、この3点セットに比べれば幾らかマシだった。

「それにリリーったら占い学辞めちゃうしさ……」

トーストにバターを塗りたくりながら恨みがましくそう言うと、リリーは肩を竦めながら「あら、ごめんなさい」とおどけた顔をした。
リリーは去年まで私と同じ『占い学』と『魔法生物飼育学』の他に『古代ルーン文字』も修学していたのだが、今年からO.W.L.試験への負担も考えて『占い学』を辞めてしまったのだ。でもまぁ試験勉強の他に監督生の仕事まで更に増えてしまった彼女にとって、それは結果として正しい判断だったと今となっては思うが。

トーストをかじりながらこれから始まる魔法史について考えていた。きっと絶対寝てしまうと思う。しかし、私は今年ある目標を決めていた。
それは、『絶対にリリーに頼らない事』だ。
毎年毎年魔法史に関してはリリーのレポートを全て写させてもらっていたが、もう今年は絶対に自分の力で頑張ろうと決めていた。
トーストの最後のひと口を頬張り、残っていたオレンジジュースを流し込むと、私はその場所からすくっと立ち上がった。

「あれ?もう行くの?」
「うん。魔法史の授業で寝ちゃわない為に、もう一回談話室で寝てくる!」

リリーはそれを聞いて呆れた顔をしている。
私は「それじゃ!」とリリーに別れを告げると、大広間を飛び出した。




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