36 監督生





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ナマエへ

ナマエ聞いて、私監督生に選ばれたの!
どうしても一番に伝えたくて、今旅行先から急いでこの手紙をあなたに書いてるわ。
新学期会えるのを楽しみにしています。

リリーより

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ナマエへ

元気にしてるかい?
僕は今学期から監督生に選ばれたんだ。びっくりだよね。
君とリリーにも先に報告しようと思って。
会えるのを楽しみにしているよ。

リーマス・ルーピン

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新学期が始まる1週間前、ほとんど同じくらいのタイミングでリリーとリーマスから手紙が届いた。どうやら2人が新たに監督生に選ばれたようだ。
勿論、自分が監督生に選ばれるという考えはちっとも浮かばなかったので、嫉妬なんて感情は微塵も湧かない。当然の人選だと思ったし、寧ろ私はこの2人と友達な事が凄く誇らしくなった。
私は急いで2人に返事を書くと、手紙を持って来てくれたフクロウの足にそれぞれ括りつける。2羽のフクロウは得意げにホッホとひと鳴きすると、開け放した窓から大きな翼を広げて飛び立って行った。




◇◇◇




「ナマエ!会いたかったわ!」
「リリー!私も!」

私とリリーの再会のハグも、最早毎年恒例となりつつある。私達はホグワーツ特急に乗り込み、重いトランクを引き上げた。

「リリー、何処に座る?」
「あー、それなんだけどね……、」
「ナマエ、リリー、おはよう」

リリーが何やら言いづらそうに切り出した時、リーマスが私の後方からひょいと顔を覗き込んできた。突然のことに驚いた私は咄嗟に「おおおおおはよう!」と挙動不審に声を張り上げた。それを見たリリーは、顔を隠して忍び笑いをしている。

「リリー、そろそろ行こうよ」

リーマスが笑顔でリリーにそう伝えるのを不思議そうに見ていると、またしてもリリーは「あー……」と気まずそうに声を出した。

「行くって、何処に?」
「……あの、実はねナマエ、監督生は一旦別の車両に集まって、それから見回りに行かなきゃいけないの……それで……」

リリーは喉の奥にヌガーでも張り付いているのかと思う程に歯切れの悪い返事をした。隣のリーマスも何だか申し訳無さそうな顔をしている。どうやら2人に気を遣わせてしまったようだ。

「そうなんだ!あ、気にしないで!大丈夫!私、マーニーを探して一緒にいるから!」

私は笑顔を貼り付けて、努めて明るい声色で伝えた。もしかしたら、2人にはそれが少し不自然に見えたかもしれない。それからリリーはリーマスと目配せをすると「……そう、じゃあまた後でそっちに行くわね!」と手を振って行ってしまった。
リリーと今までずっと一緒にいたから、こうして別行動をするのなんて久しぶりだ。しかし私達ももう5年生になるのだし、これはリリー離れの良い機会なのかもしれない。


「……分かる、分かるよ君の気持ち」

2人の背中を見送りながら物思いに耽っていると、左肩に突然重みがかかる。バッと左を振り返れば、ポッターが私の左肩に肘で寄りかかりながら自分のシャープな顎を撫で付けていた。そのハシバミ色の瞳は、私と同じく2人の背中へ向けられている。

「……ちょっと、重いんですけど」
「おっと!ごめんね。君の肩が丁度良いところにあったものだから」
「……それに私の気持ちが分かるって言ってたけど、多分私と貴方の考えてる事、全く違うと思うよ」

ポッターに寄りかかられた左肩を埃を払うようにわざとらしく叩いた。それに対して、ポッターは「そんなはずないね」と自信満々に答える。相変わらずその自信と根拠は何処からくるのか。

「きっと君今、エバンズとリーマス2人っきりで羨ましいって思ってるだろう」
「ブッブー!残念。それは貴方だけでーす」

全く付き合っていられない。私は2人に嫉妬なんかしていない。ポッターと違って。
私はポッターを無視するように通路を歩き始めた。同室のマーニー達を探す為だ。それでもポッターは懲りずに私の後ろにくっついて歩きながら「あれー?でも2人がいなくて寂しいのには変わりないだろう?僕達と一緒に……って何処に行くんだい?おーい!」とまるで速射砲の様に1人でずっと喋っている。良くもまぁ、息継ぎもしないであんなに言葉が出てくるものだ。私は聞こえないふりで一つ一つコンパートメントの中を確認しながら歩いた。
ポッターはその間ずっと何やら私に話しかけていたが、通路をバタバタと走る1年生がポッターに激突し、忙しなく動かしていた口をやっと止めた。後ろで「危ないじゃないか」と1年生を咎めているうちに、私は隙を見て彼を置いて行った。

それからコンパートメントを何個も通り過ぎ、やっとマーニーを見つけた。

「ハイ!マーニー!」
「あれナマエ!リリーは?」
「今年から監督生だから見回りがあるんだって。ここ空いてる?」
「そうだったのね。空いてるわ!」
「リリーも後から来るんだけど……一緒していいかな?」
「勿論よ!」

マーニーと一緒にコンパートメントにいた同じグリフィンドール寮生のキャシーとアリシャも、笑顔で私を招き入れる。3人は何やら可愛らしい冊子を開きながら膝を突き合わせてお話中だった様子だ。

「3人とも何見てたの?」
「それがね、アリシャが学期末に……ハッフルパフのほら、ノアって子いるじゃない?」
「あの子と付き合うことになったんだって!」
「えっ、うそ!すごい!おめでとう!」

アリシャは恥ずかしそうに肩を竦める。ノアって言ったら、ハッフルパフの優しそうで結構ハンサムな男の子だ。マーニーは「それで今度ホグズミードにデートする時に着ていく服を皆で見ていたのよ」と手に持っていた冊子をヒラヒラと私に見せた。
そこには色んなローブの他に、可愛らしいワンピース等が紹介されている。女の子向けの洋服の通信販売のパンフレットみたいな物だ。3人は私にも意見を求めるように、「これとかかわいくない?」と楽しげに冊子に描かれている洋服を見せた。小花柄の可愛らしいワンピースで、アリシャにとっても似合いそうだ。
その時、突然コンパートメントの扉が開いた。

「おいバカナマエ、ジェームズ見なかった?」

4人で一斉に振り返ると、ブラックが顔を覗かせてそう尋ねた。後ろにはぺティグリューが一緒にいて、私達のいるコンパートメントを一生懸命覗き込もうとしている。

「……あっちで1年生に説教してると思うけど」

先程ポッターを置いて行った方向を指さしてぶっきらぼうに答えると、ブラックは「あっそう」とコンパートメントから顔を引っ込めた。しかし何故かまたすぐに顔だけ此方のコンパートメントに覗かせると、今度は一緒にいた3人を珍しそうに眺めた。

「……何か?」
「お前もついにエバンズに見離されたのかと思って」
「……んな!」

私が勢い良く立ち上がると、ブラックは「おー、おっかねー」とケタケタと笑いながらぺティグリューを従えてポッターのいる方向へ行ってしまった。

「はぁ、本当に鬱陶しい」
「ナマエってシリウスと仲良いわねー!」
「……仲良い?」

そんなまさか。聞き間違えかと思い聞き返せば、「仲良いじゃない。ねぇ?」と3人は顔を見合わせる。
――誰が誰と仲良いだって?
そんなのダンブルドア校長が取り替え呪文を失敗してしまうくらい有り得ない。例え空と海が逆さになったってそれだけは無いと断言出来る。そのくらい有り得ない事だ。

「どこをどう見たらアレが仲良いになるわけ?!あなた達の方がファーストネームで呼んでるだけ私より親しいと思うよ」
「そう言えばあなたとリリーは頑なにファーストネームで呼ばないわよね」


「だって許可していないもの!」

またしても突然コンパートメントの扉が開き、リリーがそう憤慨しながら入ってきた。来た方向から察するに、ポッターに出会したのに違いない。リリーが私の隣にどかっと座った時、胸の監督生バッチがキラリと光って見えた。

「そんなに怒って何かあったの?」
「ポッターよ!あいつ1年生相手に酷い事していて……」

リリーの言葉を聞いて、あの時ぶつかって来た1年生の事だろう思った。彼がどんな酷い事をしたのか、大体想像がつく。

「でも罰則を言い渡してやったわ!いい気味!」

リリーは誇らしげに言った。その時私は、ポッターがリリーに罰則を言い渡された時の表情を思い浮かべた。なんとなく、なんとなくだが、ポッターは少なからずリリーにこんな形でも構われて嬉しかったに違いないと想像した。そのせいで、奴の悪戯に拍車がかからなければいいのだけれど。






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