34 夜の徘徊




4月、5月と季節は流れ、気付けば学年末試験まで2週間を切っていた。
因みに4月に行われたレイブンクローとのクィディッチ試合は惜しくも最後の最後で逆転されてしまい負けてしまった。それにより、今年のクィディッチ優勝杯はスリザリンの手へと渡ったのである。
この時期のポッター達の荒れようと言ったら、目も当てられなかった。一時はほんの僅かながらリリーの信用を取り戻していたポッターだったが、この一連の問題行動でまた彼への評価は地へ落ちてしまったようだった。


一方私は、相変わらず悪夢に悩まされていた。
テスト期間が終わればこの悪夢から解放されるのだろうけど、寝不足と言うのは学生にとっては死活問題だ。
そして度々夜中に目覚めては談話室に足を運ぶのだが、ここ数か月その生活を繰り返しているうちに気付いたことがある。それは以前目撃した時と同じように、ポッター達が度々ベッドを抜け出して校内を歩き回っているらしいということだ。
しかしながら不思議なのは、間違いなく彼等はベッドから抜け出しているはずなのだが、気付いた時には姿がぱっと消えてしまうことだった。その為、中々尻尾が掴めずにいた。

今日も今日とてビンズ先生の魔法史を永遠と聞かされる悪夢を見て、私は目が覚めた。
枕元にある小さな古い懐中時計で時間を確認すると、夜中の1時過ぎだ。私は眠い目をこすりながらいつもの如く談話室へ向かった。
音を立てないようにしながら談話室に近付くと、ヒソヒソと人が話す声が聞こえてくる。今日は彼らが先に抜け出したらしい。しめた、と私は小走りでパタパタと談話室へ駆け込んだ。

しかしどうだろう。談話室には人影もない。おかしい、さっきまで絶対に話し声がしていたのに。
私は小さな声で、「えっと、誰かいますか?」と声をかけた。
話し声の正体が誰なのかは分かっていたが、こうも姿が見えないとなるともしかしたら寝不足が続いた私の幻聴の可能性も無くは無い。
そんな私の呼びかけに、暫く辺りはシンと静まり返っていたが、どこからともなくそれを打ち消すような吹き出し笑いが聞こえてきた。その後すぐ、「おい足踏むなよ!」やら「いてっ!」やらと小声が聞えたかと思えば、どこからともなく雪崩のように見慣れた4人が飛び出してきた。
突然何もないところから現れた4人の姿に目を白黒させている私を余所に、「ジェームズ、お前が吹き出すからバレたじゃねーか!」とブラックがふてくされている。

「ごめんごめん、だって彼女の間抜け面が可笑しくて」
「……なっ!」

大声を出そうとしたところをリーマスが慌てて「しーっ!」と口に指を当てるジェスチャーで制止をした。

「お前、こんな時間になにしてんだよ」
「それはこっちの台詞なんですけど」
「俺達は、なあ?」

ブラックはそう言いながら3人の顔を見渡す。
……なーにが、なあ?だ。どうせ抜け出して悪いことをしているに決まってる。
「あなた達しょっちゅう抜け出してるよね?私何回か目撃してるんだから」と目を細めるように睨み付けると、4人は目を丸くしてお互いの顔を見合わせた。

「まさか目撃者がいたとはね」
「抜け出してるのが見つかったらどうするつもり?減点されるわよ」
「俺達はそんなヘマしねーよ」
「自分達を過信しすぎじゃない?」
「過信じゃなくて、僕達は”物理的に”絶対見つからないのさ」

「これがあるからね」そう言うと、ポッターは何やら古びた布のような物を私に見せた。それを見たブラックは「おい!」と制止するように声をかける。

「いいんだよ、もう。見られちゃってるし」

ポッターはヘラヘラ笑いながらおもむろにその古びた布を被った。

……そして、消えた。
さっきまでそこにいたはずのポッターが、忽然と姿を消したのだ。

私が驚いて声を上げようとすると、どこからともなく空中ににょきっとポッターの首と腕が現れて、私の口を覆うように抑えた。

「だから、しーっ!」

ポッターの顔と腕だけが不自然に空中に浮いている。その姿に、私はまたしても叫びだしたい衝動に駆られた。目の前で起きている事に理解が及ばず、目眩がしそうだ。

「驚いたかい?これ透明になれるマントなんだ。これがあればフィルチにも見回りしている先生にも見つからないってワケ」
「まぁ、ミセスノリスには見つかるけどな」

ポッターが私の口を覆った手をぱっと離し、マントを外した。すると透けていた身体が目の前に現れた。何度見ても不思議だし、不気味である。
呆気に取られている私を見て、ポッターがまた笑い出した。

「……で、君はなんで何度も僕達を目撃するくらいベッドを抜け出してるって言うんだい?」

そう問うポッターの瞳は好奇に満ちている。マントの事を教えてくれたのは、きっと私が起きている理由を聞きたいからなのだろう。
私は観念したように、最近見ている悪夢の話をした。

「勉強のしすぎで悪夢を見るだなんて!」

案の定、リーマスを除いた3人は腹を抱えて声を抑えるように笑い出した。だから言いたくなかったのに。一方リーマスは、「大丈夫かい?」と私の体調を心配してくれている。相変わらず優しい人だ。

「君がそんなにデリケートだったとはね。シリウスを殴るくらいだから、てっきりもっと図太い神経をしているのかと」
「誰のせいで……!」

そう言いかけて言い淀む。言ったところで、ブラックが1年生の時のあの日の出来事を覚えているはずがないのだ。

「俺は女に殴られたのも杖を取られたのもお前が初めてだよ」

ふいにブラックが私に向かってそう言った。思えば今までこの話題は彼の地雷だったはずなのだが、彼は彼なりに時間経過と供に過去の私とのいざこざを受容する事にしたようだ。

「シリウスもこうして君を認めてるワケだしさ、自信持ちなよ!」
「俺はそんなつもりで言ったんじゃねーよ!」

ポッターの発言にブラックが慌てて訂正を入れた。勿論ブラックがそんなつもりであの発言をしたわけでは無いという事は私自身も良く分かっている。しかしながらブラックに少しだけ元気づけられている自分がいた。きっと本人にとっては不本意な事なのだろうけど。

なんとなく気持ちが晴れやかになっているのを感じ、私はぐーっと伸びをした。今日はこの後、ぐっすり眠れる気がする。
私は「ありがとう、おやすみ!」と笑顔で4人に告げると、軽い足取りで寝室に戻ったのだった。




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