33 悪夢




その日の夜の談話室の盛り上がり様は、ハッフルパフとの試合に勝った時の比では無かった。
そう、スリザリンとの試合に勝ったのだ。
今回の試合は、チェイサーであるポッターが大活躍していた。バンバンと得点を稼ぎ、最後には大幅に点数を引き離して勝利を収めたのだ。談話室ではグリフィンドールコールが鳴り止むことを知らない。次第にそのコールはポッターコールへ変わっていった。
「今回ばかりはポッターの大活躍だったね!」
談話室の後ろの方で、喧騒に負けじと声を張り上げてリリーにそう声をかければ、リリーも大きな声で「そうね!」と返した。
誰が打ち上げたのか、どこからともなく花火が打ち上がり談話室の中を駆け回る。その輝きに見惚れていると、ポッターが談話室の中心から抜け出して私達の元へと駆け寄ってきた。
「宣言通り、スリザリンをけちょんけちょんにしてやったよ!」
「ええ、あなたにしては良くやったわね!」
リリーにそう言われ、ポッターは満面の笑みを浮かべた。あんなに大喧嘩していたのが嘘のように、リリーもすっかりポッターを見直したようだ。
その後もグリフィンドール生のお祭り騒ぎは夜通し続いた。



次の日からホグワーツはイースター休暇に入った。昨日のお祭り騒ぎのせいで、大広間にいるグリフィンドール生の大半が寝不足の表情を浮かべている。私も大きな欠伸をしながら着席しようとすると、近くを通りかかったリーマスに目撃をされていた様で、クスクスと笑われてしまった。最悪だ。私は赤面しながら顔を覆うと、なるべく顔を伏せたままトーストに手を伸ばした。

「ナマエ、そんなに下を向いていたら髪の毛がかぼちゃジュース漬けになるわ」
「今、リーマスに変な顔してるの見られた」
隣に腰掛けたリリーに小声で伝えると、リリーはクスクス笑った。

「はぁ、この休みが終わったら学年末テストが待ってるなんて、憂鬱だよ」
「でもナマエは今年勉強を頑張っていたじゃない。きっと大丈夫よ」

トーストにジャムを塗りたくりながらそうぼやくと、リリーは励ますようにそう笑った。頑張ったと言っても私は教えてもらうばかりで、全てスネイプとリリーのお陰なのだが。私は自信なさ気に何度か頷いた。



◇◇◇



4月になり、あっという間にイースター休暇は終わった。
イースター休暇中は、休みの前にリリーと話し合って決めた苦手分野の範囲を勉強した。勿論授業がない分宿題もしこたま出されたので、正直テスト勉強はあまり捗らなかった。
4月に入ってからは生徒皆がテストに向けて一気に集中する為、談話室もいつもより静かだった。
”あいつら”を除けば、だが。ポッターは4月の後半にレイブンクローとの最後の試合がある為、クィディッチの練習に励んでいる様子だった。ブラックはと言うと、悪戯するのに忙しいらしく勉強なんて到底しているようには見えない。ペティグリューも同じだ。リーマスに関しては、読書しているのをたまに見かけたが、それが勉強かどうかは疑わしいところである。
彼らは特に勉強しなくても大丈夫な人間なのだろう、私とは違って。大いに羨ましい限りである。

夜中、ふと目が覚めた。ここのところ勉強漬けで、悪夢ばかり見るようになっていた。
内容は決まってテスト会場で、問題を解こうと文字を書くが羽ペンが掠れて文字が書けない夢だ。何度も何度もインクに付けるが文字が書けず、気付いたらテストが終わっている夢。それからもう一つ、真っ暗で狭い部屋に机が一つだけあって、気が付くと私がそこに座っている。そして顔を上げると目の前でビンズ先生が機械みたいな単調な声で講義を始める。私はそこから抜け出すこともできず、ただひたすらに小鬼ゴブリンの反乱の背景や反逆者について呪いのように聞かされ続ける夢だ。(私の苦手科目が大いに反映された悪夢である。)
少し心を落ち着かせようと、私はルームメイトを起こさないようにこっそりベッドを抜け出し談話室へ降りた。談話室の暖炉前にあるソファに腰かけようとした時、なにやらひそひそ声が寝室の方から聞こえてくる。ソファに若干隠れるようにして息を殺していると、談話室に見慣れた3つの姿が現れた。ポッター、ブラック、ペティグリューだ。

「今回はどうだ?」
「ぼ、僕、間違えて飲み込んじゃった……。」
「なんだー、じゃあまた一からやり直しかー!」

ブラックが落胆するように階段近くの椅子に座り込んだ。ペティグリューは「ご、ごめん……」と何やら謝っていたが、ポッターが「仕方ないさ」と励ますように言った。
奴ら、また何か良からぬことを企んでいるのだろうか?盗み聞きは悪いと思いつつも、興味が勝って私は尚も息を殺して彼らの会話に聞き耳を立てていた。

「この間は良いところまでいったんだけどね」
「まさか薬瓶を誰かに掘り返されちまうとはな」
「次の隠し場所は僕たちしか知らないからきっと大丈夫だよ」
「ムーニーにはもう少し待ってもらわないとだね」

会話の内容から察するに、何やら研究をしているらしかった。それに、ムーニーというのは確か、奴らが時々呼んでいるリーマスのあだ名だ。リーマスの病気と何か関係があるのだろうか?
そんな事を考えて少し目を離した隙に、彼らはいつの間にか消えていた。え?!と思ったのもつかの間、バタンと談話室の扉の閉まる音だけが誰もいない部屋にやけに大きく響いたのだった。




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