32 仕返し




前もまともに見ずに階段を駆け上り、廊下を走った。あまりに無我夢中で走った為、途中ゴーストの体を通り抜けてしまった。(後ろで文句を言うゴーストの声が聞こえた。)

それから談話室に駆け込んだその時、衝撃と共に何か大きな物に行手を阻まれ、後ろに少しよろけてしまった。「うわっ!」と声をあげるそれを見上げると、なんと目を丸くしたブラックだった。

「おいバカナマエ、前見て歩けよ!」

苦い顔をしながらそう怒鳴りつけたブラックは、私の顔を見てギョッとした表情を浮かべた。私の顔に何か付いているのだろうか?不思議に思っているとブラックは「お前、血……」と言葉を漏らした。

「血?!」

驚いて額を触る。僅かにヌルっとした感触があり、それに触れた手を見ると、少量の血が手に付着していた。転んだ時に何処かにぶつけて額が切れてしまったのだろう。恥ずかしさで無我夢中でここまで来たので、痛みなど感じる暇もなかった。

「いやはや、いくら君が暴力女だと言ったって、出血レベルの喧嘩をするだなんて……」
「……ちがっ!」

ブラックの後ろから覗き込む様にポッターがそう茶化すものだから反論しようとすると、後手でバタンと談話室の扉が閉まる音が聞こえた。そしてすぐにリリーが「ナマエ大丈夫?さっきのエイブリー達……」と言いながら談話室に入ってきた。しかし私を取り囲んでいるポッター達の姿を確認すると、言いかけた言葉をすぐに引っ込めた。

「……エイブリー達?お前それエイブリーにやられたのかよ?」
「いや、この血は……」
「血?!ナマエ、あなた血が出てるの?」

リリーは私の顔を覗き込むと、その綺麗な顔を歪めた。リリーにそんな表情をさせてしまう程に私は酷い状態なのだろうか。一方ブラックとポッターは「今すぐ仕返ししてやる」と何やら意気込んで今にも談話室から飛び出そうとしていた為、私は思わず「待って!」と叫んだ。

「……これは転んだ時に頭をぶつけただけなの。だから仕返ししようとしてるなら恥ずかしいから辞めて!」
私が俯きながらそう訴えれば、すかさずブラックが「俺達はこのままやられっぱなしの方が恥ずかしいんだよ!」と噛み付いた。

「あなた達は理由をつけてスリザリンに喧嘩を売りたいだけでしょ!迷惑だって言ってるの!」
「なんだよその言い方!」

私とブラックの間に激しい火花が散った。大声で言い合いをしていた為、今や談話室にいた全員が私達に注目をしていた。こんなに注目を集めるのはこれで何回目だろうか?こいつに関わるといつも碌なことがない。
暫く睨み合っていたが、隣でポッターがはぁ、と溜息をつくと
「それじゃあ来週のスリザリンとのクィディッチの試合でけちょんけちょんにしてやるっていうのはどう?」
と間に入って提案した。


「ポッターにしてはいい提案ね!それなら平和的だわ。ね?」
「そうだね。」

リリーに褒められたポッターは満面の笑みだ。得意気にしているのが少し鼻に付くが、今回ばかりはポッターの平和的提案に感心した。ポッターの提案が無ければきっと一生ブラックと睨み合いをしていたに違いない。当のブラックは、ポッターのその提案に面白くなさそうな表情を浮かべていた。

「ポッター、次の試合絶対勝ってよね」

私がそう言うと、ポッターは「勿論!そして君は早く額の血を止めてよね」とにんまりと笑った。



◇◇◇



休暇前最後の土曜日の試合当日。朝からスリザリンとグリフィンドールの生徒達は一触即発な雰囲気だった。すれ違う度にお互いを睨み合い、今にも喧嘩を始めてしまいそうな空気である。

大広場で朝食を済ませ、リリーやマーニー達とクィディッチの試合会場へ向かう途中すれ違ったマルシベールが「穢れた血!」と私達を罵ったのが聞こえた。

「気にしなくていいわ。あんな奴等」

マーニーが隣で憤慨しているのに頷きながら、私達は適当に空いている席に腰を下ろす。会場は既に沢山の生徒で溢れかえっていた。選手の入場を今か今かと待ちわびるように、腰を浮かして会場を覗き込む生徒もいる。スリザリンの席からは既にスリザリンコールが沸き起こり、盛り上がっているようだった。
左の方の教職員が座る席を見ると、マクゴナガル先生が落ち着かなさそうにキョロキョロとしているのが見える。
ふとその近く、グリフィンドールとスリザリンの丁度境目あたりの席に、ブラックに良く似た男の子が座っている事に気が付いた。
しかしながら、その男の子は顔の造形こそブラックに良く似ているのだが、ブラックが"陽"ならその子は"陰"、そんな雰囲気を纏っていた。


「あの子、ブラックに似てる……」
「ああ、あの子は……」
「俺の弟だ」

リリーが言いかけた言葉を遮る様に、ブラックが後ろの席にどかっと腰を下ろしながら答えた。
ああ、確か弟がいると誰かに聞いたことがあったような無かったような……。何せずっとブラックという存在を遮断してきた為、彼について何一つ知らなかったのだ。

「俺みたいな優秀な兄を持てて、弟も誇らしいだろうよ」

ブラックは自虐気味にそう言った。

その時ふと、1年生の組分けの時の事を思い出した。そう言えばブラックがグリフィンドールに組分けされた時、大広間が騒ついていたような記憶がある。その時は何故なのか分からなかったが、今思えば彼の血筋が代々スリザリンの家系だからなのだろう。
家でさぞ居心地の悪い思いをしているに違いない。私は初めてブラックに対して憐れみのような感情を抱いた。

そんな感傷を打ち破るようにけたたましくホイッスルが鳴り、選手が入場してきた。それによって会場のボルテージは最高潮になり、辺りは歓声に包まれる。それからスリザリンチームとグリフィンドールチームが互いに挨拶を交わし、2回目のホイッスルが鳴り響くと、選手が一斉に地面を蹴り上げ空に飛び立った。




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