30 自信





「リリー、何かあったの?さっきから変だよ」

寝室に戻るリーマスの背中を見送り、それから私はリリーに詰め寄った。リリーは何だか気まずそうに「うーん……」と唸りながら上を見ると、それから肩を竦めて「……うん、ちょっとリーマスのことで気になることがあって」と観念したように呟いた。

「リーマス?……もしかしてやっぱりあんまり良くないの?」
「……私もまだ確かなことは言えないけれど、まぁそんなところかしら」

リリーはなんとなく濁した言い方をした。それから「でもきっとリーマスもそのことで変に心配されるのは嫌だと思うわ、私達はいつも通り接しましょう。ね?」とにっこり微笑んだ。確かにリーマスは心配されるのをとても嫌がる。私は俯きながら「……そうだね」と呟くと、リリーの「じゃあ次は書き取りの勉強をするわよ!」と言う声に従うように羊皮紙を出して勉強を再開した。



それからリーマスは何日間か顔色も悪く具合が悪そうに見えたが、ここ最近はすっかりいつものリーマスに戻っていた。

「おはよう、リーマス。顔色も戻って具合良さそうだね」
「おはようナマエ。ああ、すっかり良くなったよ」
「リーマスはいつも顔色が悪いけどな」

朝食を済ませて寮に戻る時、大広間の入り口付近で朝食をとっている彼を見つけて声を掛ければ、リーマスは眉を下げながら柔らかい顔で微笑んだ。ブラックが途中で茶々を入れて、その場が一瞬笑いに包まれる。

「リリーもおはよう」
「……おはよう、リーマス」

リーマスがリリーを覗き込むように言えば、リリーは少しぎこちないような笑顔で笑った。それはリーマスに対してそうなってしまったのか、はたまたポッターが側にいるからそうなったのかは分からないが。当のポッターはリリーに穴が開くくらいの熱い眼差しを送り続けていたが、リリーはポッターに見向きもせずに「じゃあ後でね」と残すと私の腕をひいて歩き始めた。

その日の呪文学の授業はあまり良い出来とは言えなかった。いつもあまり良い出来では無いが、今日は特にそう感じた。追い払い呪文を習ったのだが、私は机の上のインクボトルを思い切り吹き飛ばしてしまった。フリットウィック先生が慌ててインクを呪文で綺麗にしている間ずっと向かい側でブラック達が爆笑するものだから、腹が立った私は手を滑らせたふりをして練習用のクッションを勢い良くブラック目掛けて吹き飛ばした。


「おいお前、なんだよさっきのは!」

呪文学が終わって教室を出る時、ブラックが勢い良く私の肩を掴んだ。

「……なにって、手が滑っただけだよ。だって私はあなた達が爆笑しちゃうくらい呪文をかけるのが下手なんですから」

嫌味たらしくそう言えば、ブラックは一瞬何か言いたげに口を開いたが、それから眉を顰めながら言葉を飲み込んで私とリリーの間を長い足でズカズカ通り抜けて足早に去って行った。それからその後ろをポッターとペティグリューが追いかけ(ポッターは相変わらずリリーを見つめていた)、さらに後に続くようにリーマスが私達の隣を通る時、リーマスは「僕ひとつだけ分かったことがあるよ」と私ににっこりと微笑みながら言った。

「分かったこと?」

何のことやら見当もつかずリリーをちらりと見れば、彼女もさっぱり分からないと肩を竦める。

「ナマエはシリウスに対しての呪文は百発百中ってことさ!」

リーマスが嬉しそうに笑いながらそう言った。当の私や、隣にいるリリーは顔を見合わせてぽかんとした。

「……多分それは何かの間違いだよ」
「ナマエ忘れたのかい?ほら、あの時だって……」

リーマスが言いかけたあの時と言う言葉に、私より先にリリーが「あの時?」と反応をした。慌てて私が「う、うん、ちょっとゴタゴタがあって……」と濁せば、リリーは「ふーん」と怪しむように私を見る。

「その時、偶然ね、エクスペリアームスが成功したの」
「ブラック相手に?」

「うん、まぁ……」と言えば、リリーは「すごいじゃない!」と目を輝かせて喜んだ。

「やっぱりナマエは自信があれば呪文を成功させることが出来るのよ!」
「自信というかあの時はそうするしかなかったと言うか本当に咄嗟だったから……」

尚も言い訳がましく説明する私に、リリーは私と目を合わせるように私の肩を掴むと、
「いい?ナマエはグリフィンドール生なのよ。私達はどの寮よりも勇敢で信念を貫く寮なの!」
と、雨上がりの雫がついた葉っぱの様なキラキラとした緑の瞳で私を真っ直ぐに見つめた。

「そうだよ。それにあの時のナマエはグリフィンドール寮生に恥じないくらいに勇敢だった。君は自信を持っていい」

リーマスが微笑みながらそう言った。
二人は優しい。リリーは昔から私のこの卑屈でネガティヴ思考に付き合ってくれていたが、今やリーマスもこうして励ましてくれている。もう四年生にもなったのだから、いつまでも甘えていられない。

「リリー、私自信を持つことを今年の目標にする」

談話室に着いて、私はリリーにそう呟いた。リリーは小さな声で「そうね、それに」と言うと、
「自信が持てなければ恋愛も出来ないじゃない?」
とリーマスをちらりと見てクスクスと笑った。







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