29 僕は大丈夫




レイブンクローとハッフルパフの試合当日、大広間は朝から例のごとく熱気に満ち溢れていた。特にハッフルパフは前回のグリフィンドールとの試合で負けてしまった為今回は負けられない試合だ。やる気がまるで違う。
リリーと共に朝食を済ませ談話室に戻ろうとした時、大広間にポッター達が入ってくるのが見えた。
一番後ろを歩くリーマスを見れば、彼は髪の毛もボサボサでとても顔色が悪い様子だ。それから此方に気付いた彼は、遠慮がちに小さく手を振った。

「リーマス具合悪そうだね。昨日の天文学の授業にも出なかったし……」
「そうね……」

大広間から出てロビーを歩きながらリリーにそう言うと、彼女はなんだか思いつめたような表情を浮かべている。リーマスは病気がちで頻繁に医務室に通いつめていると以前から聞いてはいたが、もしかしたらそんなに良く無いのだろうか?階段を上りながら尚も浮かない顔をしているリリーに「今度医務室に行ってみようよ」と言うと、リリーは顔を上げて「そうしましょう」と無理に笑顔を作った。




◇◇◇



「ナマエは自信がないのが現れてしまっているのよ」

人影も疎らな談話室で、私の目の前にあるのは取り替え呪文に失敗した小さな花の植木鉢。リリーが用意した金魚鉢とその植木鉢を取り替え呪文で上手く取り替えようとしたのだが、何故か近くにあったインクボトルに取り替え呪文がかかってしまい、インクボトルに収まりきらない植木の土で机の上は酷い有様になっていた。
机の上の土を溜め息をつきながら掻き集める。リリーの言葉で「ミス・ミョウジはもっと自信を持ってはっきりと呪文を唱えなさい」と先日マクゴナガル先生にも言われたことを思い出し、リリーとマクゴナガル先生の言葉が交互に頭の中で反響しながらぐるぐると回っていた。
私は昔から、あの忘れもしない一年生の頃から、自信というものがすっかり無くなってしまっているのだ。折れてしまった小さなプライドを取り戻すのは難しい。四年生になった今も尚、こうして簡単な取り替え呪文すら失敗してしまっているのがいい例である。ふとブラックの顔が頭に浮かび、思わず眉根を寄せていた。

「いい?ゆっくり、丁寧に呪文を唱えれば大丈夫よ!ナマエならきっと出来るわ!」

リリーの言葉に頷き、ブラックの顔を頭から振り払った。私なら出来る、私なら出来ると何度も自己暗示をかけて杖を振る。するとぱっとインクボトルと植木鉢が入れ替わり、元ある姿に戻った。「やったじゃない!」と喜ぶリリーに笑みを向ける。リリーに励まされると、本当になんだか私は出来ると思えるのだから不思議だ。もう一回だけやってみようと杖を振ろうとした時、バタンと談話室の扉が閉まる音がした。其方に振り向くと、相変わらずやつれた顔のリーマスがヨロヨロと談話室に入ってくる所だ。

「リーマス大丈夫?」

見るからに体調の悪そうな彼にそう声をかければ、彼は無理矢理笑顔を浮かべて「大丈夫だよ」と弱々しく言う。
また、だ。さっきのリリーと一緒だ。無理矢理笑って何でもないような振りをしている。私はそんなに頼りないのだろうか?

「何かあったら何でも言ってね、私も力になりたいから……」
「僕、前にナマエに同じようなこと言った様な気がする」

確かに、リーマスと初めて話したあの日に彼に同じ様なことを言ってもらえて感激したのを覚えている。ふふ、と笑う彼につられて私も笑うと、リーマスは「心配してくれてありがとう、でも僕は本当に大丈夫」と困った顔で言った。その一言で何となく一線を引かれた様な気がして、心臓が重くなるのを感じた。心が痛い。私が何か言おうと口を開きかけた時、リリーが「そう言えば」とそれを遮った。

「ポッター達はどうしたの?」
「ああ、次のクィディッチの対抗試合の為にジェームズが練習をしているんだ。皆それを見に行っているよ」
「そうなのね」

リリーがポッター達のことを気にするなんて私が学年で一番の成績を取るのと同じくらいくらい有り得ないことだ。明らかに話題を変える為に話を遮ったということは私ですら分かった。
それきり黙り込むリリーをちらりと見れば、またしても俯いて苦い顔をしていた。リーマスといいリリーといい、何かあったのだろうか?何故何も言ってくれないのだろう。

「じゃあ僕寝室に戻るから」

青白い顔に不自然なくらいににっこりと微笑みを貼り付け、リーマスは寝室に戻って行った。







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