25 一生のお願い





「やぁ、忘れ物は見つかったかい?」

談話室に戻ると、ポッターがソファに腰掛けて呑気にそう言いながら私を見上げた。

「あったよ、早く戻らないと」
「まぁそう焦らず。で、協力はしてくれるんだよね?」

相も変わらず呑気に言う彼に「協力はするけど、どうなるかは知らないよ」と言えば、「よし!そうと決まれば善は急げだ!僕に着いて来て!」と私の手を無理矢理掴んで早歩きで歩き始めた。

「ちょっと、ちょっと待ってよ、どこ行くつもりなの?」

呆気に取られながら腕を引かれて必死に着いて来たはいいが、四階の鎧の立ち並ぶ不気味な廊下へ向かい出した時、私は流石に声をあげた。
一方ポッターは「しーっ!静かに」と言うとブツブツと「まぁ多分マントが無くても大丈夫だろう」などと呟いている。何を考えているのやらさっぱりだ。暫く歩くと、ポッターは廊下の中程にある隻眼の魔女の象の前で急に立ち止まった。それから私の手を引いて象の後ろに回り込んだ。

「何をするつもりなの?」
「もちろん今からホグズミードに行くのさ!ミョウジ、フィルチがいないか見張っておいて」

そう言うとポッターは象を叩き、「ディセンディウム、降下」と小さく囁いた。するとどうだろう、象のコブが割れて細い割れ目が現れたではないか。驚いてる私をよそに、ポッターは「よし、君が先に行きなよ。大丈夫、安全だから!」と私を隙間に押し込んだ。押し込まれた私はあっという間に滑り台のような物を滑り降り、地面にお尻から勢いよく着地した。辺りは真っ暗だ。杖を取り出して「ルーモス」と唱えると、また上から滑り降りてくる音が聞こえてきて、私はすぐさまその場から少し離れた。

「どうだい?素敵だろ?」

ポッターは華麗に着地をして笑顔でそう言った。「少しだけ狭いけどね」

「ここ、どこなの?」

曲がりくねった道をつまづきそうになりながら進み、そう尋ねれば「言っただろう、ホグズミード村に行くって!ここはもう一つの道さ!」と前方をぐんぐん歩くポッターは後ろを振り向いて答えた。

「なんでこんな道知ってるの?」
「僕を誰だと思ってるんだい?」

答えになってないような返答をするポッターに、はぁと溜め息をつく。つまりは教えないってことだ。
随分長いこと歩いて、曲がりくねった道が坂道になった。それから石段になって暫くしてまた前方のポッターが立ち止まった。

「君鈍臭そうだから先に言っておくけど、もしお店の人に見つかったら"私間違えて迷い込んでしまいました"って言ってね。君こういう嘘は得意でしょ?」
「ちょっと!それどういう……」と言いかけたところでポッターに制止された。ポッターは何やら頭上の観音開きの扉を僅かに開けて外を確認すると、「よし、大丈夫だ」と扉を開けて外に出て行ってしまった。私も後に続くようにゆっくり外に顔を出して周りを確認する。何やら倉庫のようだ。

「人が来る前に、ほら行くよ」

とポッターにまたもや引き上げられて、私は外に出た。ポッターの後に続いて木の階段を慎重に登り、ドアを出ると、そこはハニーデュークスのカウンターだった。

「とりあえずパッドフット達を探さないと。多分ゾンコだと思うけど」
そう言って人でごった返す店内を縫うように歩き出すポッターに必死で着いて行く。
「待ってよ!」と必死に追いかける私をよそにポッターはぐんぐんと歩き、あっという間にゾンコのお店の前に辿り着いていた。

「遅かったじゃねーか。クソ爆弾と臭い玉大量に補充しておいたぜ」

私はその声に思わず背筋をピシッと正した。ポッターの陰から覗き込めば、想像した通りブラックがゾンコグッズを大量に抱え込んで仁王立ちしていた。

「悪いね!このお馬鹿さんがあまりにも鈍臭いから抜け道を通って来たんだけどちょっと遅れてしまったよ」

ポッターのその言葉に「はぁ?」とブラックはやっと私の存在に気が付いた。私の脈拍はどんどん上昇している。

「何でこいつがいるんだよ。もしかしてジェームズ、お前こいつと一緒に抜け道通って来たのか?」
「うん。ダメだった?」

ポッターはあっけらかんと答えた。それに対し「ダメに決まってるだろ、あそこは俺達だけの秘密の抜け道なんだから!」と勢いよく吠えるブラックに私は思わずポッターの後ろに隠れるように後退りをした。ポッターはこうやってすぐブラックの地雷を爽やかな顔で踏むものだから恐ろしい。

「まぁまぁ、いいじゃないか。今回だけさ。よし、ミョウジ。次はエバンズを探そう!どこら辺にいるか分かるかい?」
そう宣うポッターに、その場にいる誰もが状況を飲み込めずにポカンと放心しているように見えた。

「うん、多分スクリベンシャフトで新しい羽根ペンを買うって言ってたからそこら辺にいると思うけど……」
「そうか、よし行こう皆!」

そう言ってまた歩き出すポッターに、ブラックは「ちょっと待てよ!どういうことか説明しろよ!」とまた吠えた。

「何でエバンズのところに行かなきゃいけないんだよ」
「何故って、それは今日僕がこれからエバンズとデートするからさ!」

一瞬その場の時間が止まったように思えた。ブラックやペティグリュー、リーマスが本日二度目のポカン顔を浮かべている。

「……お、お前やっとデートに漕ぎ着けたのか?」
「そう、このミョウジの協力によってね!そんな友の記念すべき日に、君達ももちろん協力してくれるだろう?」

そんなポッターの言葉に、ブラックは未だに信じられないという表情で立ちすくんでいる。しかしそれから彼は黙ってポッターまで近付くと、二人は熱い抱擁を交わした。そんな二人に今度は私がポカンとする番だった。
と言うよりまず、正確にはポッターはまだリリーとデートの約束はしていないはずなのだが、そんな水を差すようなことを言える雰囲気ではなかった。

スクリベンシャフト羽根ペン専門店へ向かう途中の道で、彼女の目立つ赤毛を私はすぐに見つけることが出来た。彼女は同室のマーニー達と楽しげに歩いている。
「リリー!」と大きな声で名前を呼べば、リリーは嬉しそうな表情で私の方へ振り向き、その後私と一緒にいる人物の顔を見てすぐ様顔色がサッと変わった。

「ナマエ、どうしたの?何でこいつらと一緒なの?」
「それにはふかーいワケがあって……」

同室の子達と別れて私の後ろにいるポッターを睨みつけながら近付いて来るリリーにそう伝えて私もちらりとポッターを振り返れば、ポッターは相変わらず貼り付けたような笑顔を浮かべながら頷いて合図をした。

「……リリー、私の一生のお願い聞いてくれる?」
「あらナマエ、この間も一生のお願いって言ってレポート写させてあげたわよ。あなたの一生って何回あるわけ?」

ああ、しまった、私はリリーに何回も一生のお願いを使っているんだった。今度は私を睨むリリーに私はまたポッターに振り返る。彼はまたしてもうんと頷くだけだ。

「一生のお願いはこれで最後にするから!もうリリーに宿題写してなんて言わない!お願いします!」
食い下がって必死にお願いする私にリリーは「そこまで言うなら……」と少し狼狽えながら答えた。

「いいの?ありがとうリリー!……お願いって言うのはね、その、すごく言い辛いんだけど……」

リリーは先を促すように頷く。私は意を決して小さな声で一気に「ポッターがあなたとデートがしたいんだって」と言った。すぐさまリリーは「何ですって?!」と叫び声にも似た声をあげた。私の想像通りの反応だ。

「いくらあなたのお願いでもそれだけは聞けないわ!」

ほら、やっぱりダメじゃないか。ちらりとポッターを見れば今度は顎で合図をした。続行の合図だ。私はポッターに恨めしげな視線を送った後、振り向いてリリーの手を取った。

「リリー、今日だけ彼にチャンスをあげて欲しい。お願い、ダメ?」

これでダメだったらポッターには諦めてもらおう。そう思って最後の駄目押しをすると、リリーは暫く眉根を寄せて地面を見つめ、何か考えているようだった。それからハァとわざとらしいくらい大きな溜め息をすると、「分かったわ、ナマエがそこまで言うなら今日だけ」と嫌そうに言った。驚いて思わずポッターを振り向けば、彼も同じように目を真ん丸に見開いて、今にも踊り出しそうなくらいの表情を浮かべている。

「リリー、本当にいいの?」
「あなたからお願いしてきたのになに言ってるのよ!ところであなたこそいいの?ナマエ、私とハニーデュークスに行くって今日散々言ってたけど行けなくなっちゃうわよ」
リリーは悪い顔を浮かべて私に言った。
た、確かに。

「心配しないでエバンズ、ミョウジはリーマス達とホグズミード村を回るから。ね、ミョウジ?」

そう飄々と宣うポッターに「えっ?」と振り返れば、ポッターは私にウィンクをした。おいおい、そんなの初耳だ。それに対して今度はブラックが「おい、冗談じゃねーよ!」と食いついた。

「この後三本の箒に行くのにこいつなんか連れて行くかよ!」
「う、うん、そうだね、三人で行った方がいいと私も思う!私は大丈夫、同室のマーニー達と回るから!」

私だってこんな歩く時限爆弾みたいな男と一緒に回りたかない。一生懸命手を振って断れば、次は今まで後ろで黙っていたリーマスが「ちょっと待ってよシリウス」と口を挟んできた。

「別にいいじゃないか、ナマエも一緒だって。それに僕もハニーデュークスに行きたいと思っていたし、その後に三本の箒に行ったって時間は全然あるだろう?」

リーマスは「ね?」と私に向かって微笑んだ。一方ブラックは信じられないという表情である。

「じゃあ決まりだね!さてエバンズ、行こうか!」

リリーは肩に触れるポッターの手を心底嫌そうにしながら、私の方に振り向いた。私は口パクで「ごめんね」と呟いた。
ハニーデュークスでお詫びにリリーにいっぱいお菓子を買っておこう。







「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -