24 駆け引き




リリーはそれから何かと私とリーマスにお節介をやくようになった。私が彼をリーマスと呼んでいるのは、彼もファーストネームで呼んで欲しいと言ってくれたからである。それからリリーも私とリーマスをくっつけようと躍起になっているうちに自然と彼と仲良くなり、彼女達もまたお互いにファーストネームで呼び合う仲になっていた。
しかし、これを少々面白く思わない人がいた。そう、ジェームズ・ポッターだ。
彼は私達が楽しそうに話しているのを度々遠くから恨めしそうに見ていた。(リリーはその度に恐怖に震えていた)


「許可証をまだ提出していない三年生は私が預かりますので持って来て下さい。それ以外の生徒は各々出発しなさい。呉々もハメを外しすぎないように」

マクゴナガル先生の大きな声に人混みがぞろぞろと動き出し、私達もそれに流されるように歩き出した。一斉にホグワーツの外に出ようとする人達に揉まれて、私達は随分と後ろの方になってしまった。
出口の近くで「ミスター・ブラック!何をするつもりか知りませんが杖をしまいなさい。何でしたらホグズミードへ行っている間、私が預かっておきましょうか?」とマクゴナガル先生に注意されるブラックを見て、近くにいた女の子達がクスクスと笑っている。

「いやね、ブラックったら。先生に本当に杖を没収されたらいいのに」
「ほんとにね」

苦虫を潰したような顔でリリーが肩を竦めた。それから「そう言えばナマエ、財布はちゃんと持った?」と母親さながら忘れ物チェックをする。いつもの光景だ。
私は「もちろん忘れてないよ!」とカバンに手を突っ込んだ、がーー……ない。ちゃんといれたはずの財布がない。思わずそのまま固まってしまった私を見て、リリーは「もしかして忘れたの?!」と大声を出した。その声に周りがざわざわとこちらに振り向く。

「入れたはずなんだけど……もしかしたら部屋に忘れたのかも……」
「まったくナマエったら!マクゴナガル先生に伝えておくから、早く取ってらっしゃい!」

呆れ顔のリリーに「ごめんね……すぐ追い付くから先行っててね……」と言うと、私はすぐさま玄関ホールに走り出した。
最悪だ、本当に自分が情けない。私は玄関ホールの階段を二段飛ばしで駆け上がった。それから階段のちょうど一番上の段を上りきった時、下のホールの方から「おーい!待って!」と声がした。聞き覚えのあるその声に嫌な予感がしながら下を覗き込めば、ジェームズ・ポッターが満面の笑みを浮かべてこちらへ向かってくる。私は恐怖で思わずヒィッと声にならない悲鳴をあげていた。
そんな私を知る由もなく、ポッターはその長い足でぐんぐんと玄関ホールの階段を上り、最後の段すらも上りきってしまった。

「……何故あなたがここに」
「君が玄関ホールへ走っていくのが見えてね。僕ちょうど君と話したかったから追いかけてきたのさ。」

そうさらりと言うポッターに私はリリーのように震え上がる。今一番面倒臭い奴と二人きりになってしまうなんて本当に今日は最悪だ。

「最近君達とリーマス、随分仲が良いよね?」

ほらきた、やっぱりその話か。私は「そうかな?普通じゃない?」と階段を二段飛ばしで上りながらポッターの顔も見ずに答えた。早歩きと階段二段飛ばしで必死にポッターを離そうとしても、彼はすぐに追い付いてしまう。

「だって君達ファーストネームで呼び合ってるじゃないか!もしかして仲が良くなったのって、君達が最近こそこそと図書室で勉強しているのと何か関係あるのかい?」

「え?」と思わずポッターを振り向いた。瞬間、踏み出した右足が空を切る。しまった、と思った時には既に遅く、私の右足は虚しく騙し階段にはまってしまった。

「どう?関係あるの?」

身動きの取れない私を、ポッターは有無も言わさない表情で手を差し伸べて見下げる。その手を取るか取らないか迷いながら「それは関係ないけど……」と呟けば、彼は「そう、僕の思い違いか」と私の手を無理矢理掴んでぐいっと引き上げてくれた。

「僕は今、君をこのままここに放置してピーブズを呼んできたって良かったんだ。つまり何が言いたいか分かるよね?」

もはや脅迫とも取れる物言いに、私は思いきり嫌な顔を向ける。ポッターは相変わらず笑顔だ。私はスカートの埃を払い、再度階段を上りながら「何が狙いなの?」と眉根を寄せて尋ねた。

「君にお願いしたいことがあるんだ、実はあの罰則の日にも君に言おうと思っていたんだけど」

ああ、スプラウト先生のあの罰則の日か。そう言えば何か私に言おうとしていたような気がする。その後のゴタゴタですっかり忘れてしまっていたけど。

「君も既に知っていると思うけど、僕、エバンズのことが好きなんだ」

また思わずポッターの方を振り向いてしまった。確かに彼がリリーを好きなことは、ダンブルドア校長が凄い人だとこのホグワーツの生徒全員が知っているのと同じくらいに皆が言われなくても知っていることだったが、改めて言われたのはこれが初めてだった。

「……僕、今日彼女とデートがしたいんだ。ナマエ、君協力してくれないか?」

ポッターが柄にもなく真剣な顔で言うものだから、思わず私は「……うん、分かった、じゃあ今日だけ特別に協力する」と答えてしまっていた。


ーーーーー


「とは言っても、私もリリーも、この間のあなたとブラックの発言をまだ許していないんだからね」

太った婦人の肖像画の前までたどり着き、ポッターに向かってそう言えば「うん、だから僕は今度こそ挽回したい。レディ、馬の蹄」と太った婦人に向かって言った。太った婦人は「喧嘩するのは良してね」と言いながらバタンと開き、肖像画の裏の談話室へ続く穴が現れた。

「挽回じゃなくて謝るのが先なんじゃないの?」
「誰に謝れって言うんだ?」

談話室へ続く穴をよじ登るポッターのお尻に向かってそう言うと、ポッターの声が穴に反響して聞こえてくる。私はポッターのお尻を思いきり引っ叩いた。

「酷いじゃないか。本当に乱暴だなぁ君は」

お尻をさすりながらそう言うポッターに、「そんな調子じゃ私が協力したって上手くいかないでしょうね!」と吐き捨てて、私は寝室に走り出した。ポッターのやつ、少しは改心でもしたのかと思ったけど何にも変わっていやしないじゃないか。協力すると言った数分前の自分に戻れるものなら戻りたい。
寝室に入って自分のベッドに向かえば、財布はすぐに見つかった。布団の上に置きっぱなしだったのだ。私はそれをひっつかんで、談話室までまた駆け足で戻った。







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