23 気になる彼




リリーに腕を引かれながらも、私は先程のルーピンのことで頭がいっぱいだった。急に名前で呼ぶなんて。もう一度ルーピンの「ナマエ」と呼ぶあのシーンを思い出して頬が紅潮するのを感じた。

「ナマエ聞いてる?」

寝室のリリーのベッドに二人で腰掛けながらリリーに顔を覗き込まれ、ハッと我に返る。「ごめん、聞いてなかった……」と言うと「いいの、どうせあのバカポッターの話だから」とリリーは肩を竦めた。

「そんなことよりナマエ、ルーピンと何か話していたみたいなのに無理矢理連れて来ちゃってごめんなさい」
「え!あ、いいの、あれは、うん」

突然リリーの口から飛び出したルーピンという名前に、再度顔が熱くなるのを感じながら私は思わず後ろ髪を触った。リリーはそんな私のリアクションに一瞬驚いた顔をした後、すぐに意地悪な顔で「あら?」と私の顔を覗き込んだ。

「もしかして、私本当にお邪魔しちゃったみたいね、ごめんなさいね」
「ち、違うんだってば!」

なんだかすごく恥ずかしくなって俯きながら髪を手で撫で付ければ、「ナマエってほんと分かりやすいわ。恥ずかしいとすぐ髪の毛撫で付けるんだから」とリリーが笑う。私はその言葉を聞いて瞬時に髪の毛から手を下ろした。

「今日は私のベッドで眠らない?ナマエ、寝かせないから覚悟しておいてね!」

無邪気に笑うリリーに私はやれやれと肩を竦め、シャワーを浴びるために二人で準備を始めたのだった。



次の日、私はリリーの「起きて!朝ご飯食べられなくなるわ!」という声で渋々目を開けた。昨日は本当にリリーに根掘り葉掘り質問攻めにあい、寝るのが遅くなってしまったのだ。当のリリーは寝るのが遅かろうが朝から元気である。リリーに手伝ってもらいながら起きる支度をした私は、大広間へ向かった。

「階段が長いよ〜りり〜」
「今更何言ってるのよ当たり前じゃない!」
「何でグリフィンドールの寮はよりにもよって8階にあるの〜」

リリーに手を引かれてロービーまで果てしなく続く階段を嫌々文句を垂れながら降りていると、不意に後ろから「ふふ」と笑い声が聞こえた。驚いて振り向けば、なんとルーピンとペティグリューだった。

「あら!ルーピン、ペティグリューおはよう!あのおバカさん二人は?」
「エバンズおはよう。二人は昨日騒ぎすぎてまだ寝てるよ」

リリーのわざとらしく感じる高くした声とルーピンの落ち着いた声を聞きながら、私は不自然に目を泳がせる。行き場の失った私の視線はペティグリューの少しサイズ感の合わないローブの裾に留まった。これから大きくなることを考えて買われたのであろうそれは僅かに階段に擦れている。

「……ナマエ、おはよう?」

それから急に声をかけられ、「は、はい!おはようございます!」と形式ばった挨拶をしながら思わず顔を振り上げれば、優しいそうなブラウンの瞳と視線がかち合った。にっこりと微笑むルーピンを他所に、再度恥ずかしさが込み上げた私は咄嗟に視線を落として髪を撫で付ける。リリーはそれを見て隣にいる私を軽く肘で小突いた。

「それじゃあ一緒に大広間に行きましょう!」

リリーの提案を受けて、奇妙な組み合わせの四人で大広間へと向かうこととなった。
リリーとルーピン、それからペティグリューが楽しそうに次のホグズミード行きの話をしている中、変にルーピンを意識して会話に入れない私はあと何階分階段を降れば大広間に着くのだろうかと悶々と考えていた。

「私はマシュマロ味かしら!ナマエは?」

突然振られた会話に「へ?」とリリーを振り向けば、彼女は「何か言いなさい」と言わんばかりの表情で私を見ている。恐らく百味ビーンズの好きなフレーバーの話をしているのだろう彼女達に、私は小さく「チェリー味」と答えた。別に特別チェリー味が好きなわけでは無かったが、咄嗟に頭に浮かんだのがそれだった。
そして「そうそう、ナマエはチェリー味が好きなのよね!」と話を盛り上げようとするリリーに軽く頷いた頃には、ちょうど大広間へ続くロビーの階段を降りきっていた。

「じゃあ僕達ジェームズ達の分の席も取っておかなきゃいけないから……」
「そうね!じゃあまた!」

ペティグリューにそう告げられた私達は、二人に手を振って少し離れた席に移動する。それから席に着いた途端隣に座ったリリーが周りを気にしながら「なんでちゃんと喋らないの?!」と捲し立てた。

「だって何話せばいいか急にわからなくなっちゃったんだもん」
「だからってあんな風に目を逸らしたりしたらきっと嫌われてるって思うわよ!」

リリーに軽く怒られてしまった私は俯きながら目の前にあるパンを手に取った。確かにリリーの言う通りだ。私は少し意識しすぎてしまっていた。でも今までどうやって自然に振舞っていたのか不思議なくらい、今の私はぎこちない動きしかできない。

「本当に奥手ね!こういう時ばっかりはナマエがポッターみたいに積極的だったらいいのにって思うわ」
「……それじゃあ嫌われちゃうでしょ?」
「……確かにそうね」と目を合わせた私達は、堪えきれずに吹き出していた。






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