21 近付く距離




「……それにしたって、大広間でのシリウス・ブラックったら許せないわ」

思い出したようにあげられたリリーの少し語気の荒げ気味の小声に、私とスネイプは羊皮紙から顔を上げて目を見開いた。図書室はクィディッチの試合を見に行く生徒がほとんどな為に私達以外の人影は見えず、リリーの強目の小声は背の高い本棚達に反響して恐ろしいほど良く響き渡る。恐る恐る数メートル先に見えるマダム・ピンスを本棚の隙間から見やれば、案の定苦い顔をしてこちらを睨みつけていた。

「リ、リリー、分かったから、少し声が大きいよ」
「これが小声でいられますか!」

まぁまぁと宥めるが尚も声を荒げるリリーに、マダム・ピンスをもう一度ちらりと見ると遂には椅子から腰を上げて立ち上がろうとしているではないか。これは最終警告だと思った私はスネイプに目線で助けを求めれば、やれやれと言った様子でスネイプは何やら周りに呪文をかけた。

「な、何したの?」
「防音呪文だ」

「へ、へぇ〜」と感心すれば、リリーは「助かったわ、これで思う存分大声が出せるもの」とまったく平然とした顔で宣った。それにしてもやはりスネイプは勉強が出来るらしい。防音呪文なんてまだ習っていないはずだ。(ただ単に私が覚えてないだけかもしれないが)

「本当にあれからブラック達に何もされてないのよね?」

リリーが深い緑の瞳で私の顔を心配気に覗き込んできたので、私も平然を装いながら「な〜んにも」と答える。「そうは思えないんだけど」と不満気な表情のリリーをよそ目にスネイプの表情を盗み見ると、何を考えているのだか良く分からない表情で空を見ている。あくまで他人事でいると決めたようだ。

「でもどうしてあんなにナマエのことを目の敵にするのかしら。確かにコンパートメントでナマエが殴ったとは言えいつまでもそれを引きずるなんてほんと小さい男なのね」
「……あ、うん、そうだね」

私がシリウスの杖を奪い取ってあの後さらに怒りを買ってしまったのをリリーは知らないのだから、確かに彼女から見たらいつまでも殴られたことを引きずる女々しい男なのだろう。微妙に言い淀む私の顔を見てまたしても不審な顔をするリリーがさらに何か言いたげに口を開いた時、外から一際大きいホイッスルの音が鳴り響いているのが聞こえてきた。誰かがスニッチを捕まえたという合図だ。

「……もう試合が終わってしまったみたい。私達もそろそろ戻らないとね」
「うん、どっちが勝ったのかな」
「あらナマエ、一応試合の行方が気になるのね」と茶化すリリーを羊皮紙を丸めながら睨めば「ごめんごめん」と肩をすくめる。それから荷物をまとめ、改めて二人でスネイプに向き直った。

「スネイプ、今日はありがとう。無理を言って付き合わせてごめんね」
「私も勝手に混ざってしまってごめんなさい。また一緒に勉強しましょうね」

リリーに微笑みかけられたスネイプは少し頬を赤らめて嬉しそうだ。結果としてリリーも一緒に勉強することになったのは正解だった。きっとあの騒動の後にスネイプと二人で勉強なんてとてもじゃないが出来なかったと今となっては思う。
「じゃあ戻りましょう」とまとめた荷物を持って歩き出すリリーの後ろを着いて行く途中でもう一度スネイプを振り返り口をパクパクさせながら「ありがとう」と言うと、スネイプは小さく、本当に小さく、頷いた。






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