19 クィディッチシーズン
10月も後半にさしかかり、クィディッチシーズンに突入した。各寮のクィディッチチームに所属する生徒は日々練習に明け暮れ活気づいている。それはグリフィンドールも例外ではなかった。
「今年は絶対に優勝するぞ!」
少し離れた席で、ポッターがそう周りに呼び掛けている。全くあんなこと大威張りで言っちゃって、本当にやつは見栄っ張りで目立ちたがりだ。スリザリンの生徒なんかはもう、ポッターを睨み付けたり彼を見ながらニヤニヤと何やら小声で話をしたりしている。呆れた様にリリーに目配せすれば、彼女も肩を竦めて昼食のニンジンにフォークを突き刺した。
「ポッターうるさいね」
「……この時期になるとあいつら本当に手がつけられないわ」
そう言いながらリリーは彼女の髪と同じくらいに真っ赤なニンジンを口に運ぶ。
リリーの言う通り、このクィディッチシーズンは本当に手がつけられないほどに厄介な行事だった。何故ならばポッターとブラックがここぞとばかりにスリザリンに喧嘩を売るからである。このクィディッチとやらのせいで、各寮の生徒は常にピリピリしていた。
「リリーってクィディッチ嫌いなんだっけ?」
「嫌いじゃないわ。でもこの雰囲気に耐えられないの、特にポッターとブラックのね」
そう言いながらリリーはわざとらしくポッターを睨み付けている。ポッターはと言うと、何やら得意気に演説をかましていたが、リリーの視線に気が付くと大急ぎで頭をぐしゃぐしゃと掻いて此方に手を振った。
「何よあの髪型。ねぇナマエ、ポッターまだこっち見てる?」
俯いてそう小声で言うリリーに「うん見てるよ」と少し笑って答えれば、彼女は不機嫌な表情で今度は私を睨み付ける。リリーはポッターのことになると私にまで厳しくなるから困ったものだ。そんな彼女の機嫌を取り戻すように「ポッターっていっつも髪の毛ぐしゃぐしゃだよね。凄くダサい」と急いで付け足すと彼女はそんな私を見て吹き出し、「そうよね」とクスクスと笑いながら顔を上げた。
「ナマエはクィディッチ好き?来週はグリフィンドールとハッフルパフの試合だけど……」
「うーん……見に行かないかな」
その試合の日は、図書室に行くつもりだった。スネイプに無理矢理一緒に勉強するという約束をこじつけたからだ。私の予想外の「行かない」の返答にリリーは驚いた顔をしたが、それ以上に驚いたのは、 「はぁ?!」と言う声と共に肩を何者かに力強く掴まれたことだった。
なんだか瞬時に嫌な予感を察して振り向けば、私の嫌な予感は見事に的中、なんとたまたま通りかかったブラックだった。
「見に行かないって何だよ!自分の寮のチームだろ?!」
怒鳴りながら肩を勢い良く揺らすブラックに、私は思わず呆気に取られる。リリーはというと、顔を真っ赤にしながらブラックに「止めなさいよ!」とつかみかかっていた。騒ぎに気が付いた周りは立ち上がってよく見ようとしたり冷やかしたりと興味津々に私達を眺めていて、私は思わず顔が赤くなる。
「あなたには関係ないでしょ!」
「関係あるに決まってるだろ!グリフィンドールを応援する気がないならどっか他の寮にでもいけよ!」
「ちょっとあなた言いすぎよ!」
怒ったリリーが平手打ちをかまそうとした瞬間、「シリウス!」とポッターの声が響いた。ポッターは立ち上がって此方を見ている。今や大広間は事の集結を見守るかのように静まり返っていた。こんな大勢の人間に注目されるなんてことは人生で一度あるかないかだろう。
ブラックはポッターの何か言いたげな表情を見ると、舌打ちしながら私から手を離した。その時、ちらりと職員テーブルを見た私は立ち上がっていたマクゴナガル先生をダンブルドア校長が穏やかな表情でほだしているのが一瞬だけ見えた。
ブラックが離れていくのを横目に私は手で顔を覆って崩れるように座り込む。恥ずかしさと怒りでどうにかなってしまいそうだった。
何で私がブラックにあんなにキレられなくてはならないのだろう?
「あいつ最近イライラしてて変なのよ。クィディッチのせいもあるんだろうけど……ただの八つ当たりよ、あんなの気にしなくて大丈夫だわ」
そんなリリーの必死な励ましに、一向に顔を上げられずにいた私はただ頷くことしか出来なかった。