17 秘密の勉強会
罰則の件以来、私とポッター、それからブラックの仲は以前より険悪なものになっていた。同時にリリーまでもが一緒になって彼らを無視するものだから、ポッターは私達とすれ違う度に少し傷付いたような表情を浮かべることが多々あった。しかし、だからと言って前のように無神経に話しかけてくることはない。彼にも一応プライドというものがあるのだろう。
「あ、ナマエ、私またスラグホーン先生に呼ばれちゃって……」
「あのナメクジクラブ?」
「ナメクジって呼ばないの!」
「でもナメクジでしょ?」
私がそう言えば、リリーはクスクスと笑いながら「もうナマエったら。じゃあ行ってくるわ!」と行ってしまった。
リリーがいなくなった今、私は暇人だ。特にすることもなかったので、たまには自主的に勉強でもして少しでもリリーに迷惑をかけないようにするかと図書室に向かうことにした。
図書室で苦手な教科(主に呪文学や変身術、闇の魔術に対する防衛術……というよりほとんど)の本を積み上げ、持ち上げる。ここで移動呪文が使えればかっこいいのだが、なんせほとんどスクイブのような私だ。呪文を唱えたところで図書室をめちゃめちゃにして司書のマダム・ピンスに殺されかねない。なので変にかっこつけるのはやめた。
積み上がった本のせいでほとんど前方が確認出来ず、よろよろしながら歩き出す。時々すれ違う人に睨み付けられながらも、やっとの思いで窓際の席に辿り着いた。
ドサリと乱雑に机に本を置き、顔を上げる。すると、なんとまぁ驚いたことに。私の背中合わせの後ろの席に、セブルス・スネイプが座っているではないか。
久しぶりの再開に、私は思わず目を輝かせていた。
そんな私を知ってか知らずか、私に気が付いたスネイプは小さく舌打ちをし、脂ぎった髪がふわりと揺れたかと思うと次の瞬間に彼は勢いよく椅子から立ち上がった。
「……何だ?」
「あ、ごめんね。せっかくだからお話しよう……」
「無理だ」
「……かと思って。」
咄嗟に掴んでしまった私の手を振り払い、眉間に皺を寄せながら即答する。それからまた立ち去ろうとする彼の前に、私は通せんぼするように立った。彼が右へ行こうとするならば右へ、左へ行こうとするならば左へ。そんな私をスネイプはより一層眉間に皺を寄せて睨み付ける。
……私はめげないぞ。
「……何のつもりだ。」
「べ、勉強教えて欲しいなぁ。私魔法薬学苦手なんだけど今日はリリーいないしなぁ。教えて欲しいなぁ、得意な人いないかなぁ。」
「……」
「……や、闇の魔術に対する防衛術でもいいかなぁ。あれも凄い苦手だし、どこかに得意な人いないかなぁ、凄く教えて欲しいなぁ。」
「……そこに座れ。」
半分すがるようにスネイプにしがみついていた私を鬱陶しそうに一瞥すると、スネイプは小さな声で呟いた。さすがリリーの幼なじみなだけあって根はいい人らしい。彼を悪者扱いしたのは誰だったっけ?ああ、PとBだったわ。
「ありがとうミスター・スネイプ、あなたならそう言ってくれると信じていたわ。」
「……いいからさっさと教科書を開け。」
「はい先生!」
それからまず手始めに魔法薬学を教えてもらったのだが、彼の教え方はとても分かりやすかったため正直驚いた。たまに私の頭の悪さに苛々して暴言を吐くことがあったが、それ以外はリリーと同じくらい丁寧に教えてくれたのだ。そして何より教えている彼自身が楽しそうだった。
私達は時間が経つのも忘れ、夢中になって勉強をした。
「あらら、もうこんな時間だ。リリー多分帰って来てる!」
窓から見える外の景色は既に夕日で真っ赤に染まっている。私は急いで羽ペンとインクをしまうと、本を積み上げた。
「本は僕がしまっておくからお前は先に帰れ。」
「え?でも……」
「……お前ロコモーターの呪文も録に使えないだろう。」
まさかこんな展開になろうとは。
勉強を教えてもらって、さらに後片付けまでしてくれるなんて。彼が闇にどっぷり使った人間だと誰が言えるのだろうか。彼はれっきとしたブリティッシュ紳士だ。
私が「ありがとう」と言うと、スネイプは相変わらず不機嫌そうな声で「ああ。」と呟いた。
「今度また機会があったら、勉強教えてもらってもいいかな?」
「……あったら、な。」
その返答に私はにんまりと笑顔を浮かべると、図書室を後にした。談話室まで向かうその足取りは軽く、私は自然と鼻歌を歌っていたのだった。