11 遅刻




「10分の遅刻です。ミス・ミョウジ、あなたは一体今まで何をしていたのですか?」

鼻の穴を目一杯膨らませ憤慨しているマクゴナガル先生の前で、私は「あー……えっと……」と言葉を詰まらせ俯いた。
今現在私が怒られている教壇からちらりと後ろを見れば、リリーが心配そうな表情でこちらを見つめているのがちょうど見える。
その少し後ろの席では、ルーピンが血色の悪い顔でリリーと同じように心配そうな表情をしていた。彼は具合が悪くて医務室にいた為お咎め無しだったのだ。


「……えー、その、迷子になってしまって、ミスター・ルーピンに助けてもらいました……」
小さく呟いた時、教室が僅かに笑いに包まれた。しかしマクゴナガル先生は咳払いでそれを一蹴し、依然しかめっ面で続ける。
「成る程。あなたは4年間もここに通っていながら変身術の教室の場所が急に分からなくなってしまったと言うのですね。分かりました。あなたの言い訳にはほとほと呆れます。ミス・ミョウジ、残念ですがあなたには居残りしてもらう必要があるようです。」
「そんな!」

思わず声を張り上げると、またしても僅かな笑いが起こった。
恥ずかしさで顔が火照るのを感じながら、私の心は諸悪の根源に対する怒りでいっぱいだった。それもこれも全部あいつ……シリウス・ブラックのせいだ。あんなことがなければ遅刻なんてしなくてすんだのに。(そして同時にそれは皮肉にもルーピンと仲良くなれたきっかけでもあるのだが。)
私は教室を見回し、一番後ろの席でニヤニヤしながらポッターと共に高みの見物をするブラックを全身全霊、これ程までにない恨みを込めて睨み付けた。

「おやポッター、ブラック。笑っている場合ではありません。授業が始まって10分も経っているというのにあなた方は教科書すら開いていない。よってあなた方も居残りです。いいですね?」
「そんな!」

今度はポッターとブラックが声を揃えて大声を出す番だった。
教室が我慢していた物を一気に吹き出すかのように、どっと笑いの渦に包まれる。
マクゴナガル先生は先程のように咳払いで一蹴しようとしたがこれがなかなか収まらず、終いにはマクゴナガル先生が大きな声で「静かに!授業を続けます!」と言わなければならなかった。
私はざまぁ見ろとポッターとブラックに向かって内心悪態を付き、俯いたままリリーの隣に腰を下ろして鞄から羊皮紙や教科書を取り出した。

「ルーピンと一緒に教室に来るなんて珍しいわね、本当は何があったの?」

席に着くなり、リリーは声を潜めて問いただしてきた。その目は好奇心でキラキラと輝いている。

「何にもないよ。強いて言うなら本当はだまし階段にはまっちゃったところをルーピンに助けてもらったって感じかな。」
「なーんだ、でも確かにだまし階段にはまったって言うのは迷子になるより恥ずかしいかもしれないわ。あそこで嘘をついたのは賢明な判断だったみたいね!」

私が肩を竦めておどけてそう言えば、リリーはクスクス笑いを堪えながら授業に戻るために前を向いた。良かった、リリーは私の嘘を信じているようだ。
それから私もマクゴナガル先生の話に集中する為、前に向き直る。
しかし段々と私の意識は今日の居残りのことに向いていた。居残りなんて初めてだ。一体何をするんだろう?トイレ掃除?トロフィー磨き?それとも……

そこまで考えた時、私は重大なことに気が付いた。何故すぐに気が付かなかったのか不思議なくらい気付いてしまった今では私の中でその重大な、とても言葉では言い表せない不安が渦巻いている。
居残りは私一人じゃない、やつらもいるんだと。




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