09 エクスペリアームス




「おやおやこれは珍しい」

ポッターがわざとらしく驚いた風に言うと、ブラックが「逢い引きでもしてるのか?」とニヤニヤしながら言い、隣にいたペティグリューはクスクスと笑った。ルーピンの顔は影になって見えない。

なんてこいつらはいつもタイミングが悪い……いや、なんて私はいつもタイミングが悪いのだろう。
よりにもよって(失礼ではあるが)このセブルス・スネイプといるところに出会してしまうなんて。

「大好きな幼なじみのエバンズはどうしたんだ?さっきまで一緒だっただろう?」
「……黙れ」

突然スネイプが唸るように噛み付いたので、私は驚いて彼を見た。彼らが対立しているのを知ってはいたが、スネイプは一見静かそうなためやられっぱなしなのだと勝手に思っていたのだ。しかし意外とそうでもないらしい。
そんな彼の態度に腹を立てたブラックが「なんだよその言い方!」と素早く杖を取り出し口を開きかけた。それを見た私も反射的に杖を取り出し構え、そして、次の瞬間にその場にいた誰もが驚くような行動に出ていた。


「エクスペリアームス!」


勢いよく吹き飛んだ杖が床に転がる音が廊下に響き渡り、私達の間に暫し沈黙が走る。

……今、私は何をしたのだろう?

ブラックがスネイプに不意討ちで呪いをかけようとしたのに気が付いて、そして私は咄嗟に呪文を……そこまで考えて、私は自分がしたことが信じられずに思わずブラックを見た。ブラックもまた同様に信じられないという表情を浮かべて立ちすくんでいる。
誰もが気まずそうに口を閉ざし黙っていた。しかしそんな重い沈黙は、ポッターの大きな声で破られたのだった。

「いや〜、これは凄い!君なかなかやるね!」

彼は呆然とする私達を余所に笑いを堪えながらそう言い近付くと、「なんかもうスニベリー苛める気分じゃないから帰ろうか」とブラックの腕を無理矢理引きながら歩き始めた。先程まで口を開いて驚いた顔をしていたペティグリューはポッターの後ろ姿、それから私とスネイプの顔を交互に見た後、戸惑いながらルーピンと共にその場を駆け足で後にした。

立ち去る四人の背中を見つめ、残された私とスネイプの間にはまたもや気まずい沈黙が流れる。それから暫くしてどちらからともなくゆっくりと歩き出していた。

「……さっきのこと、リリーには絶対に言わないでね。」
「……だから何のことだ。」

小さく呟いたスネイプの横顔を盗み見ると、やはり眉間に皺を寄せ不機嫌な表情をしていた。しかし何故だか私は以前より嫌な気分はしなかった。これはきっと同じ境遇に陥った場合にだけ起こる、所謂仲間意識のようなものが芽生えていたからなのかもしれない。

「なんでもない、ありがとう。」

そう聞こえるか聞こえないかの声で呟けば、スネイプは「ふん」と鼻をならしてそれっきり黙り込んだ。数歩先を歩く猫背を見つめながら僅かに緩む口元は、どうしようにも抑えることは出来ない。
それから私達はリリーに会うまで一言も会話をしなかった。




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -