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一番明るく輝く星




親との別れの挨拶もそこそこに、俺は人の波を掻き分けてホグワーツ特急に向かった。右も左も暫しの別れを惜しむ親子ばかりだ。フン、と思わず鼻を鳴らす。感動的な別れなんて、俺とは無縁の世界だ。惜しむどころか、さっさと離れたくて仕方がないのだから。

適当に空いていそうなコンパートメントを見つけて乗り込もうとしたら、乗り込み口で同じ一年生と思われる女の子が汽車に一生懸命荷物を持ち上げようとしているところだった。
このチビがトロいのなんのって、何度もトランクを落としては持ち上げてを繰り返して中々乗り込まないものだから、苛立った俺は思わず一緒にトランクを持ち上げてやっていた。

「ありがとう!」

何とか汽車に荷物を乗せて俺を振り向いたチビは、屈託の無い笑顔でそう言った。文句の一つでも言ってやろうと思っていたが、ここで泣かれては困ると思って言うのをやめた。だってこいつ、悪口とか言われたこと無さそうな顔してるし。

「私、ナマエ・ミョウジっていうの。よろしくね」
「俺は……」

そこまで言いかけた時、汽車の外から「ナマエー!忘れ物してるわ!」という声が聞こえた。おそらくこのチビの母親であろう人が、血相変えてこちらへ近付いてくる。その手には制服のローブが握られていた。このチビ、あろう事か制服を忘れていくところだったらしい。

「あれっ、私行かないと!また後でね。同じ寮になれると良いね!」

チビは母親の元へ駆け寄って行った。あーあ、怒られてやんの。同じ寮になんて言ってたけど、あんな鈍臭いのと一緒の寮になるのはごめんだね。

「そんなところに突っ立って、君は一体何を見てるの?」

ボーッと外を見ていたら、黒髪の男の子に話し掛けられた。俺が見ていたものを自分も見ようと、一生懸命窓の外を覗き込んでいる。後頭部の髪の毛が、所々ぴょんぴょんはねているのが気になった。

「別に。なーんにも」
「ふーん。ねえ、ここのコンパートメントに一緒に座っても良いかい?」
「良いよ」

俺達は、赤毛の女の子がいるコンパートメントに乗り込んだ。







***







俺は宣言通り、ブラック家の伝統を破った。スリザリンでは無く、グリフィンドールになったのだ。
きっと、汽車で仲良くなったジェームズも、同じグリフィンドールになるだろう。あいつの名字は"Potterポッター"だから、呼ばれるのは俺よりずっと後だ。
その時スリザリンの何人かが、何やらコソコソ話をしながら俺の方を盗み見ていたので、俺はそいつらを睨み付けた。

「ミョウジ・ナマエ!」

呼ばれたその名前に聞き覚えがあった。上座の方に視線を向けると、汽車で少しだけ喋ったあの鈍臭いチビが椅子に腰掛けて帽子を被るところだった。
あいつは頭が悪そうだからレイブンクローは無いだろう。スリザリンになんか入ったら虐められるだろうなぁ。グリフィンドールだったら皆歓迎するだろうけど、俺が嫌だ。うん、あいつにはハッフルパフが丁度良い。


「グリフィンドール!」

そう叫んだボロ帽子の下から、ひょっこりミョウジが顔を出した。
俺はあのチビがまさか本当にグリフィンドールになるとは思わなかったので、帽子が判断を間違えたのだろうと思った。

「同じ寮だったね!」

斜め前に座ったミョウジは、出会った時と同じ屈託の無い笑顔でまた俺に笑いかけた。







***








「リリー・エバンズってかわいいよなぁ」

ジェームズが寝室で唐突にそう言った。

「確かに、あいつは美人だ」
「それに変身術の授業での彼女、見たかい?マッチ棒を針に変えられたのは、女の子では彼女ただ一人だ!――まぁ、彼女少し怒りん坊だけど」

そう言えば初めて会った時、プンプン怒りながらコンパートメントをスニベルスと一緒に出ていったっけなぁ。
ジェームズは暫くエバンズの事を考えていたのかふやけた顔をしていたが、「シリウスは?」と聞いていきた。

「シリウスは、気になる子いる?」
「……俺?俺は――」

そんな入学早々誰が気になるかなんて分かるわけないだろ。
でもその時何故だか、頭にパッとミョウジの顔が浮かんだ。

「強いて言うなら――……ミョウジとか」
「えーっ!」

ジェームズはわざとらしく驚いてみせた。

「ナマエ・ミョウジ?本気かい?あいつとっても鈍臭いよ!そうだろう?今日の箒の授業で落っこちてたの、君も見てたでしょ?」
「強いて言えばって言っただろ。俺、そもそも誰にも興味ねーし。もうこの話終わり!」

俺はジェームズのしつこい追求を無視するように布団に潜り込んだ。
布団に潜って冷静になってみればみる程、さっきの自分の発言が信じられなかった。あーあ、なんであいつの名前出しちまったんだろう。ジェームズ、この話忘れてくんねぇかな。







***






「気安くリリーなんて呼ばないで!私あなた達、大嫌い!」


ジェームズが、エバンズに見事に振られてしまった。こいつにはジェームズの魅力を理解するにはちょっと早すぎた、それだけのことさ。
顔を真っ赤にして怒っているエバンズの横で、ミョウジがポカンとした顔でその状況を傍観していた。それから泳がせていたミョウジの視線が、俺の視線とかち合う。
しかしすぐさまその横でエバンズが「ナマエ、こんな奴らほっといて行きましょう」とミョウジの腕を引いたので、あいつは振り向きざまに冷たい一瞥をくれると、エバンズと一緒にさっさとこの場から立ち去ってしまった。

……なんだあいつのあの態度は?俺達、別にお前に酷い事なんかしてないだろ。(ジェームズはエバンズの逆鱗に触れるような事を確かに言ったかもしれないが、俺は無関係だ。)同じ寮になれると良いなんて調子の良いこと言っておきながら、手のひら返しか。女ってのはおっかねぇな。
俺はいつまでもショックを受けているジェームズの頭を教科書でぶっ叩いて、次の教室へ引っ張って行った。








***






ミョウジはそれからエバンズと一緒になって俺達を避けるようになっていた。初めて会ったあの時と比べて分かりやすいくらいに態度を変えやがったので、苛々した俺は遂にあいつに言ってやった。

「おいそこ退けよ、ブス」

ミョウジは目を見開いて俺を見た。おー泣け、泣け、泣きやがれ。しかしミョウジは俯いて横に退けたので、泣いているのかどうかまでは確認出来なかった。フン、と思わず鼻を鳴らす。お前がそういう態度なら、俺だってお前なんか大嫌いだっての。一瞬でもあいつが気になるだなんて――いいや、あの時の俺はどうかしてたんだ。
教室に入る前にもう一度ミョウジを振り返った。あいつは頑なに頭を上げず、そのまま授業が始まるまでずっと下を向いたままだった。

「あーあ、あんな事言って良かったの?君、彼女が気になるって言ってたじゃないか」
「良いんだよ。俺はあんなブス、好きじゃないね」




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