魔法薬学の先生



 宴が終わると、私達は監督生の後に続いて地下の談話室まで着いて行った。中はさながら水族館のようだった。どうやらスリザリンの寮は、来る時に渡ったあの湖の底にあるらしい。窓のすぐ外に暗い湖が広がっている。窓が割れたら溺れ死んでしまうのではないかと少し不安を感じた。

「さあ、寝室は女の子はそっち、男の子はそっちだ」

 監督生の案内のもと、私達は石壁のトンネルを抜けて寝室に向かった。寝室の家具は、ドラコの家の物と似ていた。緑とシルバーを基調としたベッド、銀色のランタン。窓に打ち寄せる湖の水音が妙に心地が良い。

「私パンジー・パーキンソンよ。よろしく」

 意地悪そうな顔をした女の子が手を差し出してそう言った。私もおずおずと手を差し出して「私、ナマエ・ミョウジ。よろしくね……」と言うと、彼女はその手をギュッと握り返した。
 それから一通り自己紹介し合った。と言うより、私以外の子達は既に仲良くなっていたようだったので、私に対して皆が自己紹介をしていく形だ。ドラコ達といたせいで、少し出遅れてしまったらしい。パンジーの他に、ミリセントとダフネ、フローラという子と同室になった。

 パンジーは少し仕切りたがりな子のようで、いつまでもお喋りしているダフネ達に「明日から授業が始まるんだから、喋っていないでもう寝るわよ」と言って彼女達を黙らせた。既にベッドに潜り込んでいた私は、寝室が静まり返った途端に眠気が襲いかかり、湖のさざ波の音に包まれながらゆっくりと夢の微睡みの中に落ちていった。





***






 ホグワーツで数日過ごしてみて、自分がかなりスリザリンでは浮いているということに気が付いた。ドラコみたいにマグル生まれを嫌っているのは一部だけだと思っていたのに、皆が皆口を揃えてマグル生まれを非難していたので、私のようにマグルやマグル生まれに友好的な友達をスリザリンで探すのは非常に困難だということが分かったのだ。
 皆がマグル生まれの子を悪く言う時、大抵私は反論せずに黙った。この寮で7年間上手くやっていく上ではそれが一番良いのだと学んだのだ。基本的に皆は同じスリザリン寮生に対してはとても親切なのだから、変に波風立てることもないだろう。
 私の父もこういう声の大きな人達に同調せず、だけども反発することもなく、それこそ蛇のようにスルスルとその間を上手く掻い潜りながら人間関係を築いていたのだろうか?だとしたら私は父親似なのだろう。それと同時に、そういう世渡り上手な所はまさにスリザリン気質なのではないだろうか。


「次の魔法薬学の授業、グリフィンドールと一緒よ。最悪」

 パンジーが、吐く真似をしたので近くにいた子達が笑った。その時ドラコも同意するように笑ったので、パンジーの顔が分かりやすく赤くなった。どうやらパンジーはドラコに気があるらしい。面倒臭いことにならなきゃいいけど、と思った時に魔法薬学の教室のドアがゆっくりと開いた。それから中から音も立てずにコウモリのような出で立ちのスネイプ先生が現れた。相変わらず辛気臭い顔をしている。スリザリンの寮監だけど、私はどうも好きになれなさそうだ。

 スネイプ先生の「入りなさい」と言う静かな声を合図に、スリザリン生がひと足先にゾロゾロと教室に入った。教室に入る前に一瞬、ドラコがスネイプ先生に向かって良い子ぶりっ子する時の顔をした。ドラコがおべっかしたい大人にするあの腹の立つ顔だ。

「ドラコ、先生と知り合いなの?」
「まぁね。彼は父上の古い知り合いだ」

 ドラコは得意気にそう言った。おべっか顔をした時点で何となく気が付いていたけど、やっぱりマルフォイさんの知り合いだったようだ。相変わらず知人の多いお父様ですこと。
 私は途端に興味を失って、「ふーん。じゃあね」とその場を立ち去ろうとしたが、すぐさまドラコに腕を掴まれた。

「おい、何処行くんだ?一緒に授業受ける為にこっちに来たんだろう?」
「違うよ。だって男の子の中に私が一人で混ざってたら可笑しいでしょ?それに――あんまり親しげにしてるとこ見られたくないもん」

「何故だ?」とキョトンとしているドラコを無視して、私は空いていたミリセントの隣にさり気なく座った。その後はグリフィンドール生もやってきて、スネイプ先生が出席を取り始めた。先生が一瞬、私の名前を呼ぶ時に此方を見た気がするけど、きっと気のせいだろう。

 授業が終わるまでの間、スネイプ先生はやたらハリーに冷たく当たっていた気がするし、私とドラコはやたら褒められた気がした。あからさまに依怙贔屓されているようで、何だかとても居心地の悪さを感じた。

「スネイプ先生、ドラコはまだしも何で私のことまであんなに褒めたんだろう?」
「ああ、ナマエの父上はイギリスを離れていたから知らないのか。スネイプ先生は学生時代、スリザリン生だったんだ――つまり君の父上の後輩ってわけさ」
「それはつまり完全なる依怙贔屓ってことだね」

呆れながらそう言うと、ドラコはこともなげに「でも実際ナマエの薬の調合は完璧だっただろう?――勿論、僕のも」と言った。ドラコはそんな理由で依怙贔屓されることを恥ずかしいとも思わないらしい。寧ろ誇らしげですらある。

「じゃあ、せいぜい私達は依怙贔屓に値する生徒でいないとね」

ピシャリとドラコにそう言うと、私は寝室に戻った。
 私は基本的に寝室に籠ることに決めていた。談話室にいると嫌でも穢れた血がどうたらとか、ハリー・ポッターがどうたらと聞こえてくるので、寝室で湖の音を聞きながら静かに勉強する方が何倍も良いのだ。
 それでも、寝室にパンジー達がいるといつも悪口大会になるので、出来れば図書室で勉強出来れば一番良いのだけど、私はお城の中のことをまだ良く分かっていなかった。なんてったってこのお城、動く階段やフェイクの扉、立ち入り禁止の廊下まであるのだ。迷子になる可能性もあるし、一人で図書室に行くのももう少しホグワーツに慣れてからにしようと考えていた。

 案の定、パンジーは寝室でミリセント達と馬鹿笑いしながら魔法薬学でのハーマイオニーの物真似をしていた。しかし私が寝室に入ると、散々笑っていた4人が一瞬にして静まり返った。

「ナマエ、スネイプ先生とお知り合いだったの?ドラコは先生とお知り合いだって、この間こっそり私に教えてくれたんだけど」
「私は知り合いじゃないよ。お父さんの知り合いだったみたい」
「ふーん」

パンジーは何やら言いたげな視線を私に投げかけた。私はそんな刺さるような4人の視線を無視して、「薬草ときのこ千種」の教科書を開いた。
 お父さんの為にも、スネイプ先生の期待を裏切るようなことがあってはならない。とりあえず、私に出来ることは勉強を頑張ることだ――

 パンジー達がまた騒ぎ始めて、それからいつの間にか寝室から出て行っていた。気が付けば、夕食の時間になっていたのだ。声くらい、かけてくれれば良かったのに。
 大広間に行くと、私に気付いたパンジーが「気が付いたの?あなた声掛けてもうんともすんとも言わないんだもの」と言ってのけた。
私、声をかけられたんだっけ。覚えてない。
 何だかモヤモヤした気持ちのまま、口の周りをミートソースで汚しているビンセントの隣に座ってキドニーパイに手を伸ばした。



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