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破壊


 五人ずつのパーティが各々ボスに対処している間に、我々は強引に床をぶち破り進み続けた。同時にすべての敵を倒せるならば攻略時間をかなり短縮できるだろう。さほどかからずクリエイターのもとへ辿り着けるはずだ。

 敵の特性を仲間に知らせるためマコトは攻略指南役として自分のコピーを各階層へ残してきた。しかしここにいるマコト自身が異次元にいる本体の複製であるうえに、更なる分裂を行ったため能力は弱体化されることとなった。
「己の複製を作り出せるのはいいが、こんなに脆弱になってしまうとはな」
「一時的なものなので許してください」
「ううむ……」
 それでも四天王を同時召喚して維持できるのだから充分だとは思うが、ルビカンテは満足できないらしくマコトの弱体化を嘆いている。
「お前、弱いマコトには無関心なの?」
 そんなルビカンテにバルバリシアがさらりと尋ねた。私も気になっていたことだが、マコトの手前聞くに聞けなかったことを……。
 魔物に転生した当時のマコトは単なる雑魚モンスターに過ぎなかった。それでもルビカンテは彼女を守ろうとした。だから大丈夫だとは思う。彼らの絆は能力だけで繋がっているものではないはずだ。
 しかし果たして弱い彼女に、戦闘狂たる男がいつもと同じだけの執着を抱くだろうかと恐る恐る様子を窺えば。
「これはこれでいいかもしれないとは思っている」
「そうなんですか?」
「弱くともお前はお前だ。いろいろな意味でな」
「いろいろな意味でって……」
 どういう意味だ。ルビカンテの関心がマコトの強さだけではなく人格にも向けられていたのはいいが、どうも喜ぶ気になれない。
 やはりマコトはもっと他の男を探すべきではないのか。彼女がずっと前からルビカンテに惹かれていたのは身を以て知っているが、やはり納得がいかない。

 さて、最初のフロアではルカたちが一戦目を始めているようだ。あそこは敵の弱点属性や対処法がはっきりしている。魔道士が三人もいるので問題ないだろう。一応マコトを通じて攻略法を伝え、目の前のクリスタルに向き直る。
 このフロアで始めに戦うのは魔列車だ。現実に列車と戦う光景は想像ができないが、一体どう登場するのかと思いながらクリスタルに触れた。
「ワタシノ……ユクテヲ……ハバムノハ……、オマエカ……」
 底冷えのするような声と共に我々の足元に線路が伸びた。この世界で鉄道は普及しなかったため列車の知識を持つ者も少ない。それが何かも分からず四天王が戸惑い立ち止まる。
「これは……?」
「避けろ!」
 皆が飛び退くと同時に、後ろから音さえ立てず魔列車が突っ込んできた。
「はあ!?」
「な、何だありゃ」
「鉄の塊……?」
 そのまま消え去ったかに見えたが、足元には再び線路が敷かれ今度は真正面から現れる。線路から離れても転移してくるか。さすがは幽霊列車。
「逃がしてはくれぬようだな」
「あれは、霊……ですか?」
「霊界の存在ではあるが、おそらく轢かれれば死ぬぞ」
 実体があるのかどうかを命懸けで試してみる勇気はない。

 ゲームプレイ時は私にリフレクをかけて引き受けるで対処したものだ。しかし現実にあらゆる攻撃を集中させるのは厳しい。まず魔列車の精神を掌握できないため、うまくこちらに注意を引けない。
 そして、単なるバックアタックならまだしも、線路上を通り過ぎては消えまた別の場所から出現するという行動も想定外だ。走りながら戦うのは論外とする。どう戦うべきか。
「スカルミリョーネ、説得してお引き取り願えぬか」
「申し訳ございません。無機物を説得するのは私にも……」
「分かっている。冗談だ」
 生真面目に落ち込むのに苦笑しつつ策を考える。とにかく動きを止めねばならんな。
「カイナッツォ、凍り漬けにしてくれ」
「りょーかい」
 間延びした返事をしつつカイナッツォは大津波を放ち、魔列車を凍らせた。走行は止まったが、すぐにも氷を砕いてしまいそうだ。
「車輪を破壊したいな。……ルビカンテ」
「ならば我が炎で溶かしましょう」
 氷の隙間を這うようにルビカンテが火燕流を放ち、的確に車輪のみを溶かしてゆく。魔列車は我々を轢き殺すのを諦め魔法による攻撃に移った。よし、これなら簡単だ。
 ダイヤモンドダストはバルバリシアの竜巻によって霧散し、私にリフレクをかけてルビカンテとマコトがホーリーで瞬く間にHPを削る。闇の気が強いスカルミリョーネとカイナッツォには聖属性が飛び交う戦場は辛いらしく、魔列車が崩れ去る頃には草臥れていた。

 ボスラッシュと聞いて身構えていたマコトだが、魔列車を倒して安堵の表情を見せる。
「ここの敵は楽勝ですね」
「本当。手応えがなくてつまらないわ」
「……貴様、飛べるからといって気楽なことを言うな」
「まったくだぜ。轢き殺されそうになる方の身にもなれよ」
「己の無能さに嫌気がさしたなら私のように飛んでみてはどう?」
「ほんっとブッ殺したくなる性格だなァ、てめえ」
「はいはい仲間割れしないでくださいねー」
 列車の脅威を意に介さず上空からのんびりと戦っていたバルバリシアに、珍しくスカルミリョーネとカイナッツォが声を揃えて抗議している。
 聖と火を得意とするルビカンテもアンデッド系の敵は物足りないようだ。このフロアは楽か。まあエッジのところに比べればそうだろうな。しかしオルトロスは見た目によらずなかなかの強敵だし、アルテマウェポンもいる。気を抜きすぎぬようにせねばなるまい。

 オルトロスのクリスタルを探し歩いていると突然悪寒を感じた。早々に来たか。四天王は元々即死魔法の効果が薄いので平気だろうが、私とマコトは不安だ。
「スカルミリョーネ、デスに備えてくれ。私とマコトは死ぬやもしれぬ」
「えっ、何が来るんですか!?」
「承知しました。ゴルベーザ様はお守りいたします。……ああ、マコトも」
「私はついでですか!」
 開幕全体化デスを放ちながら登場したのはデスゲイズだ。一瞬で意識が闇へと引きずり込まれるが、死を統べるスカルミリョーネによって掬い上げられた。
 できればスルーしたかったのだが、放置してこれが青き星の空を飛び回るようになっても困るので倒すしかない。
「あ、これって飛空艇に乗ってるときにぶつかる敵ですね」
「おお、出番じゃねえか、空中戦が得意なバルバリシア」
「そうだな。貴様の力を見せてくれ、空中戦が得意なバルバリシア」
「お前たち……調子づくのもいい加減にしなさいよ」
「戦闘中に仲間割れしないでください〜!」
 こちらは魔物ばかりなので弓矢が使えず、飛行特攻がないのが難点だ。さて、一戦でどこまで削りきれるだろうか。長引いてフロア中を探し回るのは面倒だな。

 ……と思ったのだが、結論から言うと、まったく問題なかった。まさかデスゲイズ戦まで一度で終わるとは予想だにしなかったぞ。
 私がルビカンテの回復支援を受けつつ攻撃を引きつける隙に、バルバリシアがデスゲイズを石化させたうえで風の塊をぶつけて粉々に砕いたのだ。もちろんあちらもボス格なのでブレイクが完全に決まることはない。故に体の端から少しずつ石に変えては砕きを繰り返してゆっくり殺したのだ。
 スカルミリョーネやカイナッツォでさえドン引きの惨たらしい殺し方だった。
 もうアルテマウェポンにも苦戦しない気がする。こいつらが味方でよかったと思うと同時に、彼らの上司でい続けるのが恐ろしい。
 ともあれ、せっかく倒したので南東にあるクリスタルのもとに向かった。デスゲイズよ、成仏してくれ。
「このクリスタルは魔物を再生しないんですか?」
「ああ」
 とはいえ連続魔など現実にはあまり有用でない。自力で素早く魔法を唱えればそれで済むのだからな。
「エネルギーだけもらっておけ」
 このフロアは楽勝だが他でも同時戦闘を行っているマコトは精神をひどく消耗することになる。疲れたらクリスタルの魔力を吸い取って回復すればいいだろう。

 次のクリスタルに触れると足元に水の気配が満ちてきた。
「ウヒョヒョ! ココハトオセンボ! トオサナイヨー、イジワル? イジワル?」
 果たしてバルバリシアは女の子という扱いなのだろうかと悩む私の傍ら、オルトロスは早速マコトに触手を伸ばしてくる。
「カワイイオンナノコ……ワイノ、コノミヤ……ポッ」
「え、私?」
 ああ、やはりこっちか。そして触手がマコトの足に触れた瞬間、ルビカンテが無言でキレた。
「焼け焦げよ」
「アッチッチー!! ユデダコ!? ユデダコ!?」
 まあ、炎弱点のうちは彼に任せておけばいいだろう。大津波はカイナッツォが、ミールストームはバルバリシアが吸収し、臭い息によるステータス異常はルビカンテが回復できる。
 オルトロスが属性を吸収するようになったらスカルミリョーネが喚び出したアンデッドで取り囲み、文字通りのタコ殴りにすれば完勝だった。
「グェグェ……タコデスミマセン……ガボガボガボ……」
 ううむ、楽勝すぎるぞ。そもそもマコトは四天王のレベルを上げすぎなのだ。もはや前作のラスメンにも倒せるかどうか……。他のフロアで苦戦しているであろう仲間たちに申し訳ないくらいだな。

 遠足気分でのんびりと先を目指す。戦いが終わったらこんな風に皆で出かける機会もあるだろうかと死亡フラグのようなことを考える。
 そんな私の後について歩きながらマコトは微妙な顔でオルトロスの言葉を思い返していた。
「可愛いって、タコに言われてもそんなに嬉しくないですよね」
 それはそうだろうが、彼女が普段他人から改まって可愛いと言われないのはなにも彼女が可愛くないというわけではない。単に隣で熱心に見つめている男の圧力があるせいだ。
「マコトは可愛い。タコになど言わせなくても私が言ってやる。マコトは可愛い」
「えっ」
「可愛い。とても可愛い。どんな魔物や人間よりも可愛い。お前は可愛い」
「も、もういいです!!」
 どこかに殴りやすい壁でもないだろうかと呪わしく思う私の背後から、ゼムスも真っ青なドス黒い気配も漂ってくる。
「ああまったく、なんて鬱陶しいの」
「腐って死んでもげろ……」
「ゴルベーザ様、あいつらブッ飛ばしていいですかね」
「ルビカンテだけなら構わんぞ」
 しまった、つい本音が……と思った時にはルビカンテは腐って凍って砕けて死んでいた。しかし慌てたマコトが召喚し直し、無傷で戻ってきたので問題ない。

 どうか少しは苦戦させてくれと願いながらのアルテマウェポン戦。
 物理攻撃はバルバリシアの竜巻とカイナッツォの水のバリアで耐え、問答無用のクラッシュダウンはスカルミリョーネが引き受ける。魔法攻撃にはルビカンテの回復力で対処し、問題なのはメテオだけだが……。
 それなりに苦戦しつつも順調に戦っていると、他のフロアで異変が起きたようでマコトが軽いパニックに陥った。
「ああああオメガです無理ですオメガです!!」
 エッジめ、寄り道をするなと言ったのに迷子にでもなったのか。
「雷属性で攻めろ。カウンターが厳しいので回復を急げよ。ゲッコウにトールハンマーを使わせ、あとは手裏剣を投げておけ。蜘蛛の糸で動きを鈍らせるのも忘れるな」
 できれば増援を送ってやりたいが我々の方もそれどころではない。
 HPが減ったアルテマウェポンは即死級のレーザーを乱発し始めた。これはリフレクで対処できるが、問題なのはマジックバスターだ。もしマコトが食らえば四天王の召喚が切れる。そうなっては私とマコトだけで立て直すのも難しい。
 まして総崩れになったところへメテオを食らっては、死を免れない。
「わああん! もう嫌だよぉ!」
「落ち着けマコト!」
 精神的にはオメガとアルテマウェポンを含む五体の敵と同時戦闘を行っている彼女は、完全に取り乱していた。
「流用モンスターで時間稼ぎばっかりして嫌な敵! だったらこっちだって同じことしてやる!!」
「な、何……?」

 自棄を起こしたマコトは連続魔のクリスタルを叩き割る。解放されたエネルギーが、彼女の記憶にある他のゲームの敵を再生した。
 美しき女神、猛々しき鬼神、雄々しき魔神。三柱の神がアルテマウェポンの周囲に顕現する……おい待て、あれは味方も巻き込む魔法ではなかったか。
「ルビカンテ、炎で防げ!」
「は……」
「ジハード!」
 間一髪で炎を無効化する壁が広がり、その外側では世界の終焉が演じられる。アルテマウェポンを含め、あらゆるものが一瞬にして焼け落ち、消滅した。
 特に炎を苦手としないバルバリシアとカイナッツォも顔を引き攣らせ、スカルミリョーネなどは失神しそうになっている。ルビカンテだけは期待に目を輝かせて聖戦の炎を見守っていたが。
 神を再生したマコトは大量の魔力を失って倒れ込んだ。やはりこの中で一番恐ろしいのは、この娘かもしれぬ。




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