×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
狭間


 上の階層では既に戦っているような音が微かに聞こえてくる。ゴルベーザとマコトとついでにルビカンテは更に下の階層へと落ちていった。ここが俺と四人衆の担当フロアってことらしい。
 去り際ゴルベーザに「寄り道はするな」と念を押されたのが少しばかり気になった。寄り道なんかするかよ。俺を何だと思ってんだあいつらは。
 まずは一つ目のクリスタルの台座を見つけて歩み寄る。バブイルに入るまでの敵は再生される前に気配を感じたが、今回の魔物はいきなり飛び出してきたんでちょっと驚いた。
「デタナ、バケモノ!」
 いや、それはお前だろ。なんともふざけた登場だったが、咄嗟に受け止めた一撃は相当な重さだ。
 薙刀をめちゃくちゃに振り回してるようにしか見えんが意外にも隙がない。何の縁かエブラーナ風の鎧を纏ったそいつは、かなりの使い手であるらしい。
「戦い甲斐のありそうな相手だ。お前ら四人でやってみるか?」
「御意に」
「お任せを!」
「期待に応えてみせます!」
 意気揚々と駆け出す四人を見送り、俺はマコトを連れて下がっていることにした。ま、危なそうなら割って入ればいいだろう。
「勝つまで回復するなよ」
「手厳しいですね。やっぱり似た者同士で気が合ってるのかな」
 ちょっと待てそりゃ俺と誰を比較してのことだ。

 あの鎧武者、マコトによるとギルガメッシュという名らしいが、やはり相当な猛者だ。四人で囲んでも巧みに抜け出して逆にあいつらを翻弄している。それに武器の扱いが凄い。
 まずはゲッコウが薙刀を叩き落とすとギルガメッシュは即座に刀へ持ち替え、それをツキノワが盗み取れば今度は小太刀を取り出して対処する。自由自在だ。
「ウリャッ!」
「うわっ」
 加えてよほどの馬鹿力らしく、小太刀でもツキノワやイザヨイなら楽にぶっ飛ばす。ザンゲツは避けているが、まともに受け止められるのはゲッコウだけだった。
 そしてヤツは軽量武器では対処できない頑丈なゲッコウに対してまた武器を持ち替え、鎖鉄球を振り回し始めた。
「一体どれだけの武器を使いこなすのだ!」
 まったくだ。まずいくつ持ってるのかを知りたい。あと、どこにどうやって仕舞ってんのかも教えてくれ。
 ゲッコウが鉄球を叩き落とした隙にイザヨイが素早く懐に入って鎖を断ち切るが、すると今度は馬鹿でかい斬鉄剣を握り締める。だからよ、どこに隠してんだ?
「四次元ポケットでしょうか」
 なんだそれ。

 四人衆は苦労して再び包囲を狭めたが、それを軽々ジャンプで抜けるとギルガメッシュは何やら呪文を唱え始めた。
「オレガワルカッタ」
「何じゃ!?」
 まずはヘイスト。体格のわりにすばしっこかった野郎が更に速くなる。
「ハラガイタクテ……」
「魔法まで使うのか!」
 そしてプロテスだ。ただでさえ頑丈なのがますますダメージを通さなくなる。
「ゼンリョクガ、ダセナイゼ……」
「まずいな、更に強化されては」
 そのうえシェルまでかけやがって忍術も効きにくくなった。器用なヤツだ。
「……テノハ、ウソダケドナ!!」
「ふ、ふざけているのか!?」
 しっかり決めポーズまでつけたギルガメッシュに生真面目なイザヨイが憤慨している。ゲッコウとツキノワは呆れ、ザンゲツは喜んでるが。
「憎めねえ野郎だな」
「それで人気のキャラですからね」
 ふざけた性格してるが、戦闘力だけは本物なのが厄介だ。負けはしなくともそう簡単に勝たせちゃくれねえな。

 さすが魔物らしく体力は底無し、そのうえプロテスでほとんどの攻撃が弾かれまちう。今のギルガメッシュに傷を負わせるだけの筋力があるのはゲッコウとザンゲツだけだ。
 しかしヘイストで加速されたに連続攻撃についていけるのは打たれ弱いツキノワとイザヨイだけときた。うまく連携がとれなけりゃ万事休すだな。
 まずはイザヨイが幻惑して翻弄したところをザンゲツが空から蜘蛛の糸を撒いて拘束、ツキノワが敵の武器を奪ってゲッコウが鎧ごと打ち砕く。
 ようやっと協力攻撃が様になってくると、弱ったギルガメッシュは豪奢な剣を取り出した。
「おいおい、聖剣まで扱えるのか? そりゃ反則だろ」
 俺が慌てて間に入ろうとしたらマコトに「あれは大丈夫です」と止められた。その隙に聖剣の柄が青く輝き、ギルガメッシュは手近にいたツキノワを真っ二つにすべく剣を振り抜いた、……が。
「お助けっ、て……い、痛くない?」
「ナヌ!? サ、サイキョウノケンジャナイノカー!」
 なんで攻撃した本人まで驚いてるんだよ。あとマコトは何を「よっ、出ました!」みたいな感じで拍手してるんだ。

「好機だ! 仕留めるぞ!」
 謎の聖剣の出現に敵味方とも戸惑っていたが、いち早く我にかえったゲッコウの一声で四人衆は止めを刺しにかかった。
 四人で来るとは卑怯なとかなんとか言いながら悪足掻きをするヤツの姿にさすがの俺も脱力してしまう。強敵には違いないのに、この締まりの悪さは何だ。
「オレサマヲタオストハ……マサカ……、バッツ……?」
 謎の言葉を残してギルガメッシュは消滅した。マコトは神妙な顔つきで俺を見上げてくる。
「間違えられたとしたらエッジさんだな」
「なんか知らんが失礼なこと考えたろ、お前」
 ヤツが使っていた武器が消えずに残されていたので拾っていくことにした。ともかく、これで一体目だ。
「敵ながら骨のある武人だった」
「惜しいですね。我が国に欲しいほどの力でした」
「しかしあのふざけた性格はどうにも……」
「なに、愉快な輩だったではないか。わしは好きじゃ!」
 四人衆にもいい経験になったようだ。俺も好きだけどな、ああいうヤツ。憎しみ合って戦うより楽しめる方がずっといいだろう。

 さて、次のクリスタルを探していたが迷子になってしまったようだ。歩き回ってるうちに妙な小部屋に出て、そこには機械仕掛けの亀みたいなものが徘徊していた。
「敵か?」
「我らが様子を見て参ります。お待ちを」
 敵意も感じないし、通りすぎちまってよさそうな気もするが、一応は確認しておくか。イザヨイとツキノワがそいつに近づき、二人をぼーっと見ていたマコトはいきなり飛び上がった。
「ヒェッ」
 顔面蒼白になったマコトがゲッコウの背後に隠れながらイザヨイたちに叫ぶ。
「すぐ戻って!!」
「え?」
 なにやら分からんがマコトがこうも焦るとは余程の相手か。イザヨイとツキノワを連れ戻して俺も刀を抜いた。同時に、あの機械が俺たちを認識する。
「御館様、一体なにが?」
「分からんが、下がれ。ヤバそうだ」
 焦りに焦ったマコトが全員に片っ端から強化魔法をかけまくるとヤツも機械の身で器用にリフレクを唱えた。

 かなり混乱しつつマコトは本体を通してゴルベーザに助言を仰いでいる。
「オメガです無理です死にますよ無理ですオメガです」
 敵はオメガというのか。よく見るとその砲口に不気味な光が集めているのが分かり、背筋が粟立った。
「ゲッコウ、マコトを抱えろ! 全員散れ!」
 その場から飛び退いた瞬間、凄まじい威力のレーザーによって俺たちのいた場所が蒸発した。おいおい冗談だろ、あんなもん掠めただけでも死んじまうぜ。
 オメガは愚鈍そうな見た目によらず忍び並みの速さで俺の方に突進してきた。間一髪で避けて、すれ違い様に斬りつけた刀が折れる。
「くそっ、硬え!」
「御館様!!」
 御返しとばかりに火炎放射が襲ってきたが、ザンゲツの凧に拾われて難を逃れた。続けざまに放射されたブラスターが地上を行き交う。
 何だあれは、ツキノワより速い、セシルより頑丈、馬鹿みたいな手数の多さで近づく隙もないときた。とんでもねえモノに出くわしちまったようだ。今更ながら“寄り道するな”の意味が分かったぜ。

「蜘蛛の巣を投げて!」
 マコトに言われて四人衆が一斉にアイテムを投げ、オメガの動きが目で追える程度に落ちる。
「手裏剣ならガード貫通できます!」
 この速度なら飛び道具も当てられるか。全員で手裏剣を投げるが、それでもまだオメガは俊敏に避ける。挙げ句に地震を起こしてこっちの手元を狂わせてきた。
 すぐにマコトのレビテトが俺たちを拾い上げる。
「雷が弱点です。ゲッコウさんはトールハンマーを」
「承知!」
「ツキノワ、雷切を使え!」
 雷撃を帯びた刀をツキノワに投げ渡し、俺とザンゲツで雷迅を唱える。手応えはあったが煙をあげつつもオメガは止まらない。
 ヤツの周囲に不気味なブラックホールが呼び出されると、全身から力が抜けて強化魔法も掻き消えた。
「うおっ!?」
「ま、魔法が吸い取られた?」
 即座にマコトが回復魔法を唱え強化をかけ直した。一瞬でも気を抜いたら即ち死だ。ギルガメッシュが優しく思えるぜ。

 あちこち蜘蛛の巣を引っかけまくっても俊敏な動きを見せるオメガに四苦八苦しながら、五人がかりで必死に削る。マコトは補助で手一杯だ。
 俺は途中で焦ってギルガメッシュが落とした剣を間違えて投げちまったが、凄い威力だったように見えたのは錯覚か?
 波動砲を食らったら一巻の終わりだ。そしてあれを完全に避けられるのはザンゲツだけだった。味方が倒れるたびイザヨイとマコトが回復に駆け回る。
 凄まじい消耗戦の最中にオメガは毒ガスを放ち、ミールストームを呼び起こし、ブラックホールで容赦なくこっちの強化を打ち消し去ってしまう。
 ツキノワとザンゲツ辺りは途中から泣いてたが、正直なところ俺も涙目だった。
 もはやどうやって倒したのかも分からねえが、気づくとオメガは動きを止め、満身創痍でへたり込みながらも辛うじて生きている俺たち六人がその場に残された。
「た、倒せたのか……?」
「手を出してはならぬモノだったか……」
「なんという恐ろしいからくり兵器じゃ!」
「あんなもの、誰が何のために……?」
 まったく酷い目に遭った。まだ二体も残ってるって、身が持たねえぞ。

 あのオメガってヤツは一体限りらしいからそこんところは安心だ。正しい道に戻るべくクリスタルを探して歩く。道中、部屋のド真ん中に意味ありげな箱が置いてあった。
「お宝か?」
「やめろおおおおお!!」
 開けようとする横からマコトの体当たりを食らって吹っ飛ばされた。お、オメガ戦の傷が……。
「てめえ、なんてことしやがる!」
「もし開けたらエッジさんが殺されてる間に私は逃げますからね」
 マコトはまたしてもゲッコウの後ろに隠れながら俺を睨んだ。殺されるの前提かよ。せめて俺も連れて逃げろ。
 どうもこの宝箱は罠らしく、マコトによると中に魔物が入っているそうだ。
「その魔物はさっきのヤツより強いのか?」
「オメガを破壊するために異世界から来た神様が入ってます」
「先へ進みましょう御館様!」
「その箱は見なかったことに」
「忍び足ですり抜ければ平気でしょう」
 真顔の四人衆に背中を押されて素通りさせられた。いやちょっと待てお前ら、そりゃ俺だってまたあんなのと戦うのは御免だがな。
「そんな物騒なヤツを放置して大丈夫なのか?」
 クリスタルが魔物を再生してるのは青き星に送り込むためかもしれないんだろう。俺がそう言うとマコトと四人衆は死んだ魚のような目をして立ち止まった。

 一応、辛うじてではあるがオメガも倒せたんだ。そいつと戦うかと俺が聞くと四人衆に緊張が走る。マコトは泣きそうな顔で「もうやだ」と呟き、徐に魔物入りの宝箱を抱きかかえた。
「お、おい……」
「開かないで開かないで開かないで開かないで開かないで」
「どこへ持ってく気だ!?」
 念仏のように「開かないで」と唱えながら箱を抱えて走り出したマコトを俺たちも慌てて追いかける。
「マコトさん! 一人では死にますよ!」
「戦うならば我らも覚悟を決めます故!」
「ま、待て、蓋から何か尻尾が出とるぞ!」
「開かないで開かないで開かないで開かないで開かないで開かないで開かないで開かないで開かないで開かないで」
 俺たちにすら追いつけないほどの全力疾走でマコトは真っ暗闇の迷路を駆け抜ける。扉を抜けた先に、ようやっとクリスタルの台座を見つけた。光の中から姿を現したのは口の中に宇宙を広げる不気味な魔物だ。というか、生き物なのかあれは?

「何だあいつは!?」
「結界を張っているようだが……!」
 魔物の口の中は異次元に通じている。強引にテレポに巻き込まれでもしたように周りの空間がねじ曲げられていく。あれに吸われたら……どうなっちまうのか考えたくもない。
「マコト、止まれ! 吸い込まれるって……!」
 なんとか追いついたマコトの襟首を掴んで踏ん張るが、二人して魔物の中に吸い寄せられそうになる。口中の宇宙が眼前に迫り、彼女は抱えていた宝箱を、
「おぉおりゃあぁあああー!!」
 魔物の口に向かって思い切りブン投げた。宇宙空間を舞いながら宝箱の蓋が開くのが見える。中から白銀の鱗を持つ巨大なドラゴンが現れて……、咆哮が弾けた。視界が真っ白に染まり、必死でマコトの襟首を握り締める。
「うおおおおおおッ!?」
「いだだだだ破片が! 破片が!!」
 あのドラゴン……、異次元に呑み込まれながらのメテオだってのに余波で俺もマコトも吹き飛ばしやがった。まともに喰らってたら今頃は……。
「お、御館様、マコト様、ご無事で何より」
「おう……ちっとばかし焦げてるがな」
 あまり無事とは言えんが、マコトの自棄っぱち作戦のお陰で宝箱に潜んでいたヤツと結界を張っていた魔物は共倒れになったようだ。
 これを二体と数えれば、このフロアは終わりか。本当にこんなやつらが二十体もいるってんなら、他の皆が心配だ。




|

back|menu|index