×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
死火


 群がる敵を調子よく焼き払って来たのだが、マコトの魔力が本格的に足りなくなってきたので道中の敵については白魔道士たちに任せることにした。
 リフレシュなる魔法で魔力を回復させてはいるが、私を封印の外に維持しているだけでも消費が回復を上回っている。このままではスカルミリョーネとの戦いが終わり次第あちらへ還らねばならない。
「マコト、今のうちに眠って回復するといい。クリスタルを見つけたら起こしてやろう」
「えっ? いや、さすがにこの状況で眠れ、にゃい……ぐぅ」
 問答無用でスリプルをかけ、倒れ込みそうになったマコトの体を抱き上げる。
 彼女の精神は安定し、回復量の方が僅かに上回った。私が戦闘に力を使わなければ、消費した魔力は取り戻せるだろう。安らかな寝顔を見ていると私の魔力も回復される気がするしな。

 すやすやと寝息を立てている彼女を抱いたまま、行く手を阻むアンデッドを屠っていたゴルベーザ様のもとへと歩み寄る。
 このフロアではアスピルで敵の魔力を奪うこともできないため、ゴルベーザ様にも力を温存していただかねば。
「少しよろしいでしょうか」
「ルビカンテか。……マコトはどうした?」
「持ち運びやすいよう眠らせました」
「そ、そうか」
 なにやら物言いたげな様子ではあるがマコトに関することで聞き入れるつもりはないのであえて無視をする。
「ベイガンたちから聞いたところによると、敵は複製された人形ではなく我々本人なのだとか?」
 その時は意味が分からなかったが、カイナッツォが「封印内で寝てるマコトと外のマコトが同時に起きて戦うみたいなもの」と喩えてくれたのでようやく理解できた。
「そうだ。私がマコトを召喚することなく進んだ世界で、シナリオ通りに死んでしまったはずのお前たち……“ゲームに沿ったキャラクター”が再生されているようだ」
 前回のゼムスとの戦いではゴルベーザ様とマコトによってシナリオが一部分のみではあるが書き換えられた。
 この“続編”は、書き換えられなかった正規のシナリオから続く物語。だから我々は死んでいることになっている。それはなんとなく理解できた。しかし気になることもある。
「マコトが再生されることはないのでしょうか」

 私の問いにゴルベーザ様はしばし眉をひそめて考え込んでいたが、やがて「分からない」と首を振った。
 ここのクリスタルが記録している“過去”の中にマコトは存在しない。我々とは違って彼女には“本来のシナリオ”がないのだ。だからこそ、マコトが存在している時点でこの世界はシナリオの枠組みから外れているとも言える。
 物語の筋書きまでは変わらないはずだがマコトに関することだけは予測のしようがないのだとゴルベーザ様は仰った。
「深部では異世界の敵も再生されるのだ。尤も、それもシナリオの一部なので純然たるイレギュラーであるマコトを再生するのとは勝手が違うだろうが」
「敵にその気があればシナリオから逸れてマコトを再生することは可能だと」
「おそらくは、な」
 自然と口角が上がる。そんな私を見てゴルベーザ様は苦笑を溢した。
「嬉しいか?」
「ええ。自分と戦うのも楽しみですが、マコトと命を賭けて戦うことが叶うならこれ以上の喜びはありますまい」
「お前は本当に戦闘狂だな。それで良心がなければ最悪の敵になっているところだ」
「ご安心ください。私が私でなくなることなどあり得ません」
 彼女は守らねばならない。守りたいと思う。如何に闘争を求める欲が強くともマコトを傷つけるような真似はしない。少なくとも“ここにいる彼女”のことは。
 だが、もしクリスタルがマコトを再生し、敵として相対することが叶ったとすれば……。
 マコトの本体は敵にも突破できぬ結界に守られた異次元の中にある。再生された彼女と戦って、仮に倒したとしても彼女自身に危険はないのだ。ならば、このような好機を逃せはすまいよ。
 願わくは、最奥にて待ち構えている者がクリスタルの力で最も偉大なる敵を作り上げてくれるように。

 台座の中で輝くクリスタルに近づくと、邪悪な気配が辺りを満たし始めた。起こすまでもなくマコトが目を覚ます。
 未だ熟さぬ若き戦士たちもそれぞれに武器をとる。スカルミリョーネの相手をするには力が足りぬ気もするが、若者を育てる思惑もあるのだろう。
「禍々しい気配が……」
「これは、試練の山で出会ったのと同じ?」
 セオドアとミシディアの魔道士、そして神官見習いのレオノーラが白魔法による結界を重ねた。
 苦悶の表情を浮かべたスカルミリョーネが姿を現すと、マコトは私の手を握り懇願の目で見上げてくる。
「ルビカンテさん、早く、終わらせてあげてくださいね」
「分かっているとも」
 別の未来へと歩んだ仲間だ。無闇と苦しめるような真似はするまい。全力をもって焼き尽くしてやろう。
 ゴルベーザ様が呪文を紡ぐのに合わせて火焔を練り上げる。ようやく回復したばかりのマコトの魔力がごっそり奪われた。崩れ落ちかけた彼女が気になるが、それでも魔力を高めるのは止めない。
「許せ、スカルミリョーネ」

 弔いの炎火がスカルミリョーネの体を焼き祓う。肉体は崩れ去ったが、まだ気配は消えていない。
「ウウ……タノ……ム……タマシイ……マデ……クチ、ル……マエニ……」
「後ろだ!」
「ポロムさん!」
 追撃を察知したゴルベーザ様が振り返ると同時に、白魔道士へと仕掛けられた一撃を寸でのところでセオドアが防ぐ。
 レオノーラの結んだ聖印がスカルミリョーネの動きを縫い止めた隙に私とゴルベーザ様で再び炎を呼び出し、今度はそこに白魔法が重ねられた。
「眠らせて差し上げますわ……今度こそ!」
 聖なる魔力を纏った炎が敵の手に堕ちたスカルミリョーネの魂を浄めてゆく。
「ゴルベーザ、サマ……ミニクイ、ワタシヲ……ミトメテ……クダサッタノハ……アナタ……ダケ……」
「もう誰にも邪魔立てはさせぬ。安らかに眠るがいい」
「ア……アリガ……タク……」
 膝をつき、崩れ去る姿をゴルベーザ様は最後まで見守っていた。
 運命に出会うことができず朽ちたもう一人の自分。ゴルベーザ様がマコトを呼ばなければ、私たちもこうなっていたのだな。

 力を使い果たしてクリスタルが砕け散ると、それを見下ろしながらセオドアと少女たちが無念そうに呟いた。
「今のも四天王の一人……、何かが違っていれば、仲間だったかもしれないのに」
「なぜ……何のために、静かに眠っている生命を、こんな……」
「かつての敵とはいえ、同じ大地を生きる命に……こんなことは許せません」
 マコトは……凍りつくような瞳でクリスタルの破片を見つめていた。背筋を悪寒が走る。私が恐怖しているのか? 面白い。
「……これを企んだ敵が何者でも、何を思っていて、何を言っても、私は必ずそいつを跡形もなく消します」
 かなり消耗させてしまったが、マコトの蒼白な顔色は魔力切れのせいだけでもなさそうだ。彼女の怒りは一体どれほどの力を生むのだろうな。楽しみだ。




|

back|menu|index