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拒絶


 バロン城の上空に差し掛かってみると、ゴルベーザさんの言う通り例の結界は消えていた。幻獣を集めることになったので彼らの力を借りて結界を破るものと思ってたけど、その必要はなかったみたいだ。
 クリスタルに代わるエネルギーの供給源として幻獣を利用していたのだろうか。そうして彼らを失った敵が結界を維持できなくなったのかもしれない。
 ……いや、違う。城内にあの召喚士もどきの気配が感じられる。
 アガルトであいつは「この星に用はない」とか言っていた。バロンもまた用済みになって、もはや結界を張る必要も無くなったんだ。
 着陸準備をするルカたちを尻目にテレポを唱える。
「えっ、マコト!?」
 他にも大勢乗ってるんだから、船は彼らに任せて主力はさっさと降りてしまいましょう。

 昔ポロムとパロムが石化した廊下に降り立った。すぐに駆け出したゴルベーザさんが王の間の扉を蹴り開ける。
 いきなり転移に巻き込むんじゃねえとか悪態ついてるエッジさんを無視して、私も彼の後を追った。
「セシル!」
 虚ろな目をしたセシルの隣に謎の少女、対峙するのはセオドアとローザにシド、そしてカインさん……カインさん? うん? 変身した?
 ゴルベーザさんが近寄ろうとすると、セシルの体がぐらりと傾いた。
「兄……さ、ん……」
 そのまま倒れ込みそうになったセシルを抱き留め、ゴルベーザさんが謎の少女を睨む。
 あいつらもクリスタルを集めるにはバロンを利用するのが効率的と踏んだのだろう、そのためにバロン王であるセシルを操り、セオドアたちと戦わせていたようだ。
 兄弟を憎み合い争うように仕向けたゼムスもそうだけれど、今回の敵もまた悪趣味で性格のねじ曲がったやつらしい。
 居合わせた皆はゴルベーザさんに注目している。
「あなたは……」
「ゴルベーザ!?」
 いつのまにかエッジさんたちも追いついていた。……それ、皆まだ気づいてなかったのか。

 そろそろ名前を知りたい謎の少女はゴルベーザさんを見遣り、不愉快そうにも見える形に顔を歪めた。
「生きていたか」
「ああ。貴様のように体はいくつもないがな」
「目障りな」
「それはお互い様であろう。我が同胞にやられて逃げてきたのか?」
「……お前の帰る場所はないぞ」
 どうやらゴルベーザさんは月でも彼女と戦ったようだ。フースーヤさんの安否が気にかかるところだけれど、ゴルベーザさんが彼女の不穏な言葉にも大した反応を見せないので大丈夫なのだろう。
 臨戦態勢に入る少女を前にして、気を失ったセシルが私の腕に預けられる。
 ゴルベーザさんに加えてローザにセオドア、カインさん(?)、リディアとエッジさんまで揃っていたら戦闘は任せてもいいだろう。
 私はルカに手伝ってもらってセシルを抱えながら彼らと距離をとった。
「お前たちはもう用済みだ」
 無感情にそう告げると少女は戦闘を開始した。「用済み」と「消えろ」が流行語大賞を授賞しそう。

 ローザとセオドアの強固な防御魔法に守られてゴルベーザさんが攻撃魔法を放ち、目視が辛いほどのスピードでエッジさんとカインさんが斬りつける。
 応戦はしているけれど多勢に無勢、見た目リディア似の少女なのでフルボッコにされてると可哀想になってしまう。
「ちょっと同情したくなるほど謎の少女が不利ですね」
「言ってる場合じゃないって、セシルは大丈夫なの?」
 ルカに催促されてセシルに回復魔法をかけた。といっても肉体的な傷はさほどでもない。問題なのは精神だ。
 セシルは敵に操られてクリスタルを集めていた。かつて自分が守ったはずの世界を破滅させるために、意思に反する行動を強制されていたんだ。
 少し触れただけでもセシルの絶望は深く、私の拙い呼びかけでは声が届かなかった。
 精神魔法の基本は相手の心に入り込むこと……、支配したければ一番柔らかいところを見つけて傷を負わせるんだ。その傷のある場所を見つけて癒さなくては彼を目覚めさせることはできない。私の技量では無理だ。
 もっとカイナッツォさんくらい精神魔法に長けてないと……いや、カイナッツォさんにセシルの精神を探らせるのは絶対ダメだけど。

「幻獣王さま!」
 リディアの悲鳴に思わず振り返る。形勢不利と見た少女がリヴァイアサンを召喚したのだ。
 屋内に幻獣は持ち込み禁止です。慌てて皆の周囲に結界を張り巡らせた。
 幻界から“こっち”に連れてこられて実体を持っていたイフリートたちと違い、リヴァイアサンは今も幻界にいるらしい。正規の召喚なので、タイダルウェーブを一発放つとその姿を消した。
 でもさすがに幻獣の王、私の強化魔法はその一発ですっかり消されてしまった。
 少女は顔色ひとつ変えずに次の召喚を唱える。
「そんな……」
 現れた竜神を見上げてリディアが力なく崩れ落ちた。
「くそっ、次はバハムートかよ!」
「マコト、結界は張れるか」
「無理じゃないけど厳しいです」
 強化魔法は苦手なんですってば。もう、攻撃は最大の防御作戦でいこう。
「今なら倒しても死なないはず。リディア、取り戻したければ戦って!」
「マコト……!」
 既にメガフレアのカウントに入っている。ゴルベーザさんとリディアにヘイストをかけ、三人で同時にフレアを唱えた。
 灼熱の咆哮がバロン城を揺るがし、その場にいた全員が吹っ飛ばされた。

 今のはどっちのフレアだったのか……。衝撃はあったけれどダメージは少ないので、どうやらうまく相殺できたみたいだ。
 よろめきながらも私たちが立ち上がるとバハムートの姿は消えていた。
「や、やった……か……!?」
「油断するな」
 ゴルベーザさんの忠告に応じるように、新たな謎の少女が次々と姿を現した。何なんだ、一人では不利だから数で張り合おうっていうのか。
「ご苦労だった」
「クリスタルは回収していく」
「この星の役目は終わった」
「消えるがいい」
 少女たちが一斉に手を振り上げると、皆が襲いかかる間もなく彼女らはテレポで消え去った。……消えるがいいって自分が逃げるんだ。

 ファルコンで休んでいた人たちと共に、どこへ隠れていたのかギルバートも現れ、皆が見守る中でローザがセシルを介抱している。
 父親のそばにしゃがみ込んだままセオドアが私を見上げてきた。
「マコトさん……父さんは」
「意識はあるみたいですけど、心が戻ってこないですね」
「ど、どうすれば……?」
「今のところは、目覚めるよう祈り続けてあげてください」
 密かにゴルベーザさんも精神魔法で弟に語りかけている。
 敵がセシルに何をしたのかは分からないけれど、絶望を振り払うにはとにかく他者の声が必要だ。一人だけでは孤独と共に闇の底へと沈んでしまう。
 ローザに倣い、セオドアも静かに祈りを捧げ始めた。

 親子の姿に穏やかな目を向けつつ、カインさんがゴルベーザさんに問いかける。
「奴らの正体を知っているのか?」
「……お前たちよりはな」
 その言葉に全員の視線が集まる。まさかとは思うけど、あの月を近づけたこと、ゴルベーザさんのせいだと思われてたりしないよね。
「彼女たちは、この星の役目は終わりだと言っていたな」
「あの月で大地を破壊するつもりか?」
「そ、そんな!」
「だが現に月は近づいて来ている」
「おい! お前の力で止められねえのかよ!?」
「またあの時のような争いが……」
 あーうるさい、人数が多い!
 案の定誤解でゴルベーザさんを責める人もいる中、タムシアンの二人が戸惑っているのは意外だ。彼らはあれが以前とは別の月だと気づいている様子。偉い。
「あれは前とは違う月です。ゴルベーザさんとは関係ありません。ていうかさっきゴルベーザさんも人形娘に襲われてたんだから察しましょうよ、バカなんですか?」
 とりあえず手近にいたエッジさんを蹴っ飛ばして八つ当たりしようとしたらゴルベーザさんに羽交い締めにされて止められた。
「落ち着けマコト。……まったく、だからさっさと召喚をしろと言っているのに」
 べつに淋しさで気が立ってるとかじゃないです。私はただ、気心知れた人と今すぐあの月へ行って速やかに敵を倒して終わらせてしまいたいだけだ。
 あれが空にある限り安心して家族と過ごせない。大事な人がそばにいないのに、よく知りもしない人に囲まれているのがストレスになってるだけだ。
 ……ということは、要するに皆が恋しいのか。

「敵の目的はクリスタルの回収だ。それが終わったの手、察しの通りあの月をぶつけて青き星を破壊しようとしている」
「なんてことを……」
 飛空艇では月まで行けないと呟いたルカが期待を籠めてシドを振り返る。
「あたしと師匠で飛空艇を改造したら……!」
 シドは苦い表情を浮かべてルカを見つめ、無念そうに項垂れた。
「残念じゃが、この大地の引力から逃れるほどの技術はワシにも……」
 さすがの私も見知らぬ月までテレポはできない。もちろん次元エレベーターを起動するつもりもない。それでも月へ行くのは簡単だ。前と同じようにやればいい。
 未だ私を羽交い締めにしているゴルベーザさんを見上げて尋ねた。
「ゴルベーザさん、魔導船に乗って来たんですよね?」
「ああ。もう城の前に呼び寄せてある」
「じゃあ無駄話はやめて出発しましょう」
 脱け殻状態のセシルとゴルベーザさんたちは念を入れて丁寧に、未だ戸惑っている他の人は適当にテレポで放り込んでから、私も魔導船へ向かった。
 クリスタルを運び終えてバブイルの塔の封印はなくなっている。私が鍵を開ければ皆も外に出られるのだろう。
 でも……まだ、駄目なんだ。敵に支配される可能性がなくなるまで、皆には封印の中にいてもらう。




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