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反発


 ミシディアではラムウ、そしてアガルトでタイタンを取り戻すことができ、トロイアでシヴァを仲間にしたら幻獣奪還作業は終わりらしい。
 敵もリヴァイアサンやアスラにバハムートは最後まで手放す気がないようだ。
 ゴルベーザさんから話を聞いて早速ミシディアに飛ぼうとしたのだけれど、ふと思う。
「イフリートが手に入ったんだし、先にトロイアの方が良くないですか?」
 私の質問にゴルベーザさんは「どちらが先でも構わぬ」と答えた。
「飛空艇で回るのならば近場から順番に、と思っていたが、マコトのテレポがあれば位置は無関係だ」
 どうせ、ファブールから世界地図を時計回りに巡る予定が先にエブラーナへ行ってしまったのだ。今後も順番は気にしなくていいとのこと。
 イベント内容をざっくり聞くとトロイアの方が長くて面倒くさ……いや手こずりそうなので、先に済ませてしまいたい。

 水の都トロイアは城も町もまるごと氷漬けになっていた。言ってる場合じゃないけど正直とても美しい光景だ。
 土じゃなくて水のクリスタルを奉って、こういう氷の祭典を慣習化すればいいのにと思ったりする。
 ミシディアだって土のクリスタルを安置すれば試練の山のアンデッドたちも少しは落ち着くだろうに、奉るクリスタルを間違えてるのでは?
 それはともかく、今まさにイフリートに襲われてる真っ最中だったエブラーナと違ってトロイアの町にはシヴァの気配が感じられない。
 城に侵入すべきかと迷っていたら、寒さに震えながらルカが「そういえば」と口を開いた。
「パロムが黒チョコボで町の北東に向かってるのを見たんだ」
 なんでも新米の神官に魔法を教えるためにミシディアから家庭教師として派遣されていたらしい。あのパロムが教師ねえ……。
 偉そうな扱いをしてもらって少しは長老への反抗心も萎えたのだろうか。
 ルカの言葉を聞いて思い出したとリディアも頷く。
「もしかしたら磁力の洞窟に逃げたのかもしれない」
「あー……」
 魔道士ならあの洞窟も平気だろうし、クリスタルを狙ってきた追手の兵士を撒くつもりでそちらに向かった可能性は高い。
 でもルカとリディアが目撃したのは何日か前の話だろう。無事なのかな。

 念のためエッジさんにも武器を外してもらってから磁力の洞窟へとテレポする。
 かつてダークエルフが作ったクリスタルの台座がまだ残っていたようで、気配を辿って一気に最深部まで飛ぶことができた。
「これは……」
 磁力の洞窟内部もトロイア以上に強固な氷で閉ざされていた。これはもう氷の洞窟に改名すべきだ。
 そしてクリスタルルームには二つの氷像が飾られている。見事なまでにリアルな二人の男女。
「パロム!」
 真っ青になってルカが駆け寄ろうとするのを引き留めた。パロム自身も氷漬けになっているのだ。下手に触れば中身ごと砕け散ってしまいかねない。
「まず氷をなんとかしないと」
 あとパロムの隣にいる女性が誰なのかも気になるのだけれど、彼女がパロムの生徒なのだろうか。
 氷漬けの二人を前にエッジさんが火遁を呼び出して尋ねる。
「火で溶かして助けられないか?」
「凍ったまま焼け死にますよ」
「これはただの氷じゃない……シヴァのダイヤモンドダストだわ!」
 凍りつかせている術の根源を断たなくては。シヴァを取り戻せばパロムも洞窟もトロイアも元通りだ。

 張り詰めるような冷気が辺りを満たしていく。ゴルベーザさんの服を買っておいてよかったと心底思う。
 そして猛吹雪を纏った氷の女王が私たちの前に姿を現した。
「シヴァ! 私よ、リディアよ……!」
「よせ、危ねえ!」
 彼女もイフリートと同じくがっつり操られてる系らしい。親玉のリヴァイアサンが敵の手に落ちているのだから幻界にいたものは全員アウトだと考えるべきか。
 そう考えるとシルフたちが自分の意思を保っててよかった。あの数を相手にして全員の洗脳を解くのはきっと骨が折れただろう。
 なんて言ってる場合じゃない。ダイヤモンドダストに体を覆われそうになって慌てて飛び退いた。でも足元が凍ってて滑る滑る。
 とりあえず全員にレビテトをかけておこう。磁力の影響はないけど、その代わりダメージ床状態だ。
 ゴルベーザさんとリディアがファイガを、エッジさんは火遁を、そしてルカには私が武器に炎をエンチャントしてシヴァに挑む。
 私が攻撃に参加しないのはべつにサボってるわけじゃない。
「パロムを……パロムを元に戻してよ!」
「大丈夫だから、落ち着いて」
 ちょっとした混乱状態に陥って暴走しがちなルカをサポートするためだ。

 吹雪に相殺されながらも根気よく炎を叩き込んでいくと、一瞬シヴァの動きが止まった。その隙をついてエッジさんがとどめを刺そうと火遁を唱える。
「待ってエッジ! シヴァ、お願い目を覚まして!」
 再びシヴァが動き出す。庇おうとするエッジさんを制してリディアはイフリートを召喚した。
 地獄の火炎とダイヤモンドダストがぶつかり合って凄まじい蒸気が発生する。私は慌ててパロムたちの氷像を守る結界を張った。
 同胞の炎がシヴァの冷気を突き破って彼女に届く。
「リ……ディ……ア……?」
「シヴァ!」
「私は……何を……、ああ、リディア、すまない……」
「いいの。戻ってきてくれて、ありがとう」
 そうして氷の女王は愛する姫君の御前に跪き、イフリートと共に幻界へと帰っていった。
 ……戦ってないのに疲れた。やっぱり私は強化魔法が苦手だ。よく考えたらこのパーティ、アタッカーばっかりだよ。
 補助魔法を使える人が仲間になってほしい。

 シヴァが自分を取り戻したことで、トロイア全域を覆っていた氷が溶けていく。崩れ落ちるように解放されたパロムが杖を構えて飛び起きた。
「誰が諦めるかよ! さ、クリスタルを返しやが……れ?」
「パロム!」
「えっ? ルカ、なんでここに?」
 氷漬けになる直前から記憶が止まっているのだろう、パロムは目を見開いて辺りをキョロキョロしている。
 そして同じく氷から解放されて倒れ込む女性を見つけ、駆け寄った。
「レオノーラ!」
「パロ……ム……」
「まったく、心配させんなよ……」
 そう言うや否や、安心して力が抜けたのかパロムも倒れてしまった。慌てたリディアが私に向き直る。
「マコト、二人をトロイアに運んであげて!」
「ええー、……はい」
 どうせ仲間になるんだからファルコンに運んで、看病してる間に私とリディアでミシディアへ向かいたかったのだけれど、ゴルベーザさんが無言で首を振るので仕方なく城へ飛ぶ。
 まあ、神官たちに挨拶くらいしないといけないよね。

 氷が溶け、城内は慌ただしい。ベッドに寝かされたパロムをルカは心配そうに見守っていた。彼女がこんなしおらしい表情をするとは。
 薄々そうなのかなー、とは思っていたけれど、もしかしてもしかしたらルカはパロムのことが好きなのだろうか。
 そして彼女は皆が気になっていたことを遂に尋ねた。
「パロム、その人は……?」
「こいつは……俺の相棒だよ」
 その言葉に、隣のベッドで寝かされていた女性が慌てて起き上がろうとして神官に「安静にしなさい」と怒られる。
「あ、あの、初めまして。私はレオノーラと申します。みなさんにお会いできて、光栄です……。よろっ、よろしく、お願いします!」
 ……よろしくするんですか? とゴルベーザさんに聞いたら彼は小声で「レオノーラは私に並ぶ強キャラだ」と教えてくれた。
 気弱そうな外見からは信じられないけれど、確かになかなかの魔力を秘めているようではある。
 でもそれより自分で自分を強キャラと言い切ってしまうゴルベーザさんにどうかと思った。

 シヴァを取り戻したので次はミシディアだ。さっさとファルコンに戻ろうと私が言うと、パロムはベッドから起き上がった。
「俺も行くぜ……」
 よろめきながらも虚勢をはるパロムをルカが慌てて押し止めた。
「あんたはまだ動いちゃダメ!」
「うるせえな。俺が戻らなくてどうすんだよ? あいつらだけでミシディアを守れるか!」
「そういうパロムもトロイアを守れてなかったですけどね」
「なっ、マコト! お前……っ!」
 顔を真っ赤にして私に掴みかかろうとするものの、さっきまで凍っていた体は思うように動かないらしく無様に床を這っている。
 見兼ねたエッジさんがパロムの腕を掴んで立ち上がらせると、彼はお礼も言わずにエッジさんを睨んだ。
「ちっとは落ち着け。あと女の子には素直になれ。ミシディアのことは俺たちでなんとかするから、お前はファルコンで待ってろ」
「へっ! あんたに指図される謂われはないね」
「その体で何の役に立つ? 指図されるのが嫌ならさっさと快復するんだな」
「……言われなくてもそのつもりさ」
 一ミリも可愛いげがないパロムに呆れたのか、エッジさんはやれやれとため息を吐いた。

 非戦闘員ばっかり増えていくのは気のせいだろうか。
 一人一人回復するのは面倒だし、おそらく全員集合すると思われるバロンに着いてからいっぺんに回復魔法をかけることにしよう。それまでパロムは放置。
 なんてことを内心で決めていたら、おろおろと成り行きを見守っていたレオノーラさんが神官の手を退けて飛び起きた。
「わっ、私も行きます! ……ついて行かせて、ください」
 自分の大声にビックリして涙目になりすみませんすみませんと謝り倒す。なんか小動物っぽくて可愛い人だな。
 ……小動物っぽくて、ゴルベーザさん並みの強キャラ? そう思い至った途端に血の気が引いた。彼女はルビカンテさんに会わせないでおこう。
 これはべつに嫉妬とかそういうのではなくてレオノーラさんのためを思ってのことだ。もちろん。
 神官やパロムが驚いて見守る中、レオノーラさんは吃りながらも必死で訴える。
「ま、魔法の指導は、まだ、終わっていませんよ。パロム」
「……そうだったな」
 嫌味と皮肉の塊になりかかっていたパロムが素直な微笑を浮かべてレオノーラさんと見つめ合っていた。長い反抗期が終わろうとしてるのかもしれない。
 でも、複雑な表情でパロムを見守るルカのことも気がかりだ。




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