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会議


 ゼムスの目的が人間を滅ぼしてモンスターの楽園を築くことなら、あるいは協力したかもしれない。でもそうじゃない。ラスボスの目的は“すべてを憎む”ことだから、このままゼムスの描くシナリオに乗るわけにはいかなかった。
「ゲームの通りに進めるとゴルベーザ四天王は主人公に倒されることになります。私はそれを避けたい。一宿一飯の恩義ってわけじゃないですけど、こうして出会った人が死ぬのを分かってて放り出すのは嫌なので」
 ちらりとルビカンテさんの方を見る。感情の窺い知れない青い炎が目の中に躍る。
「……戦いから逃げましょう」
 ゼムスには従わない。だけど四天王も見捨てない。ゴルベーザさんが使命を放棄して体ごと逃げ出さなかったのは、彼らをゼムスの元に放り出したくなかったからじゃないかとも思えるんだ。
 エンディングを迎えてから呼び戻しても、ゼムスの脅威さえなければゴルベーザさんは彼らを受け入れてくれると思う。
 しかし、やはりルビカンテさんは人の話を聞いてくれなかった。
「それがお前の結論ならば、私は従わない」
 炎のマントが翻り、彼の姿はテレポートで掻き消えてしまった。

 ゲームの敵キャラが主人公との戦いに勝つのは至難の業だと思う。だって、そもそもストーリーは主人公が勝つように作られているのだから。生き延びたければ逃げるしかない。でもそれをルビカンテさんに納得させられるだろうか?
 よく知らないけどたぶん「逃げるくらいなら死んだ方がマシだ」とか言いそうな人だ。
「ま、あいつのことは後で考えようぜ」
「でも……」
「本当にマコトと相容れぬつもりならばゴルベーザ様が去られた時点で離反している」
 カイナッツォさんとスカルミリョーネさんに宥められ、バルバリシアさんも「あの男は確かに全身筋肉でできているけれど多少なりとも脳みそが残ってればどうすべきかは自分で気づくわよ」とフォロー(?)をしてくれた。
 仕方ない、ルビカンテさんの説得方法はあとで考えよう。今はとりあえず三人と今後の予定を相談することにした。

 ゴルベーザさんを呼び戻すにはゼムスの脅威を取り除くことが先決だ。最重要にして最終的な目標はゼムスの討伐。これはゲームをシナリオ通りに進めていれば主人公が勝手に果たしてくれるけれど、その主人公に四天王が殺されてしまうのを防がなくてはならない。
「先手を打ってその主人公ってやつを殺しちまうのはどうなんだよ」
 そこで「主人公を味方につけよう」とならない辺りが魔物だなあ、と思います。心なしか期待に満ちた残虐な目を向けてくるカイナッツォさんに、お気の毒ですがと首を振る。
「私はシナリオを熟知してるわけじゃないから主人公の導きがないと月に辿り着けないかもしれません。実際、いくつかのクリスタルは主人公が手に入れたものを奪う形になるはずなので」
 正直に言って私が覚えてるのはおおまかな設定くらいだ。どのクリスタルがどこで手に入るのかさえ分からない。しかもゴルベーザは確か、ラストダンジョンでゼムスに挑んで負けている。主人公がいなければゼムスを倒せないのだ。
「敵の敵は味方というわけか?」
「表立って手を組むのは無理だと思いますけど。カイナッツォさん、もうどこかの国に潜入してるんですよね?」
「おぉ。人間のふりにも慣れたんでなぁ、やっとあの胸糞悪いバロン王とかいう野郎を殺してやったぜ」
 やっぱり。国の名前を聞いてもピンとこなかったけれど、後々入手する召喚獣オーディンが格好よかったのでその辺のエピソードは朧気に覚えているんだ。
「このゲームの主人公はその国の暗黒騎士、セシルです」
「……冗談だろ?」
「あと確か彼、ゴルベーザさんの弟です」
「……」
 私の言葉を聞いてカイナッツォさんのみならず三人とも落ち込み、空気がどんよりしてしまった。

 王様が死ぬ前ならセシルと協力することもできたかもしれないけれど、今から関係を修復するのは難しいだろう。手を組むなんて更に無理だ。でもあまり恨まれるとゴルベーザさんが戻ってきた時に可哀想なので、人間を殺しすぎないように気をつけなくては。
 すでにゴルベーザの悪行は始まっている。あとは主人公と敵対しすぎないように、なおかつ彼らがクリスタルを集めゼムスに辿り着けるように導かなければならない。
 死ぬ予定の戦闘からは逃げるけれどそのためにもっと困難な道程を歩むことになるんだ。生きて戦い続ける方がずっと難しい、とかなんとか言ってルビカンテさんを説得できるかもしれない。
 心に留めておこう。「その場かぎりの力を振りかざして死ぬよりも、敗北を糧にして更なる力をつけるのが強者のやり方じゃないですか?」……こんなところかな。

 ともかく、セシルたちに殺されることなく逃げるためには四天王にシナリオの流れを知っておいてもらわなければならない。それに気づいたらしいスカルミリョーネさんがふと聞いてくる。
「我々はどこで死ぬんだ?」
 目の前にいる相手の死に様を予言者みたいに語るのって気分が悪いなと苦く思った。
「最初はスカルミリョーネさんです。セシルが聖騎士にクラスチェンジするためにどこかのダンジョン……山だったかな、そこへ向かった時に襲撃して、返り討ちに遭って殺されます」
 すかさず口を挟んできたのはさっきまで硬直していたカイナッツォさんだ。知らない間に上司の弟と確執ができてしまった衝撃からはもう立ち直ったらしい。
「お前、アンデッドのくせに暗黒騎士に返り討ちに遭ったのかよ。さすがだなぁ、ええ?」
「この不愉快な馬鹿はいつ死ぬんだ?」
 ローブの下からギラリと覗く金色の瞳からは憤怒が溢れていた。
「え、えっと、その次がカイナッツォさんです。聖騎士になったセシルがバロンに戻った時に、別のモンスターとの戦闘後、カイナッツォさんも殺されます」
 それを聞いてスカルミリョーネさんの機嫌が一気に持ち直した。反対に、カイナッツォさんから凄まじく冷たい殺気が放たれる。
「己の領域で迎え撃っておきながら敗れたのか。それも連戦で疲弊した相手に?」
「……」
「……」
 今更だけどこの二人、すごく仲が悪いみたいだ。

 怪獣大戦争が勃発しそうな傍ら、慣れっこなのか我関せずの態度でバルバリシアさんが首を傾げて何やら思案に耽っている。
「聖騎士、ね……パラディンとかいったかしら? それならルビカンテが詳しいことを知っているわよ。あいつなら戦闘になる場所も分かるでしょう」
 セシルがそのパラディンというクラスに転職するのは、べつに無理して阻止する必要もない。場所が分かっていれば逃げるのは容易になる。
 ただルビカンテさんが教えてくれるかは問題だ。自分の死に様を知ったら考え直してくれないかな? ……無理か。だって記憶が正しければあの人、戦闘前に主人公たちを全回復してくれる奇特な敵キャラなんだ。
 正々堂々を重んじるのは人間としては美徳だけれど、魔物としてはどうなんだろう。
 もしかしたら最大の敵はルビカンテさんなのでは、なんて血迷い始めた私の肩をつつき、バルバリシアさんが「私の戦闘場所はどこなの?」と聞いてきた。
 なぜか嬉しそう。魔物は基本的に戦いが好きなのかもしれない。
「えー、バルバリシアさんは塔で……、そう、この塔だったと思う。あれ? でもルビカンテさんとの戦いも塔だったかな。でもあれは違う世界での……いや、違う世界が出てくるのはこのゲームじゃないかも」
 中盤以降になると味方キャラが死んだり死んでなかったりでストーリーがごちゃごちゃしてきてあまり覚えていない。バックアタック、偽の王様、女の人、回復してくれる人……順番は正しいと思うんだけど。

 そうだ、途中でゴルベーザがヒロインを誘拐するんだ。クリスタルと引き換えだとか言って連れ去って、塔に囚われたヒロインを取り戻したセシルたちが脱出しようとするのを阻むためにバルバリシアさんが襲ってくる……。
 え、でもどうしてセシルはこの塔に入って来られたんだろう? ゴルベーザが自分から招き入れた気がするんだけど……。どうしよう、細かいところを全然思い出せない。
 頭の中がぐるぐるし始めた私を見つめ、三人は揃ってため息を吐いた。
「なるほど。その様子じゃあ確かにセシルを殺すのは不味そうだ」
「シナリオ通りにクリスタルを手に入れたくば、な」
「後手に回るふりをして、奴らに月への道を切り開かせるのが良さそうね」
「……すみません」
 ここに従姉がいれば台詞まで諳じてくれるくらいゲームをやり込んでるのに。先んじてクリスタルを集め、セシルにすべてを打ち明けて、何の犠牲もなくゼムスを倒すことさえできたかもしれないのに。
 ゴルベーザさん、なんで私だったんですか……。あまりうまくやる自信がありません。




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