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オカシな救済


 今日、セシルとローザが結婚式を挙げる。そしてゴルベーザさんの眠る月が遠くへ去って行こうとしていた。
 やはり月の民は、この青き星を諦めてどこか他に第二の故郷を探すことにしたのだろうか。
 それともゼムスのような者が再び出てくるのを避けるため、何百年か経つまで宇宙の果てで待つことにしたのだろうか。
 ……青き星が月の文明を受け入れられるくらいに成長するまで?
 私からするともう早く起きて文明捨ててここに降りてきてしまえばいいのにと思うのだけれど。馴染もうとしないから馴染めないのだ。待ってても仕方ない。
 どうせデビルロードやら何やら残してしまってるんだし今更だ。生身の月の民が何百人か現れたって星を変えるほどの影響があるとは思えなかった。
 月の文明と接触して青き星の人類が変化するなんて精々“キリンの首が一斉に伸びた”程度の話でしかないんじゃないのかな?
 青き星の人類が別の人類に出会って進化する。ただそれだけのこと。
 未熟な星を食い荒らしてはいけない、なんてのが傲慢な考えに思えるのは、まだ私が異世界人気分でこの星のことを他人事に感じるせいだろうか。
 進化が早まれば種の寿命が尽きるのも何万年か早くなるかもしれない。でも、それの何がいけないのだろう。

 結局、次元エレベーターを利用して直接会いに来ることはなかったのだけれど、彼なりのケジメかもしれないので私も我慢して月へ行くことはなかった。
 顔を見たらたぶんまた「ゴルベーザさんだけでも地上に残りましょう!」と説得してしまう自信がある。
 月が遠ざかれば、次元エレベーターでも電波(?)は届かなくなるようだ。ゴルベーザさんからは最後の手紙が届いていた。
 そこには十数年後の“月の帰還”についての忠告がいくつか書かれていた。
 まず第一に、セオドアが赤い翼の隊員になる前にバブイルの塔を引き払え、とある。
 ……え、セオドアって誰? と思ったけれどもしかしたらセシルとローザの息子だろうか。王子様なのに一般兵士から始まるなんて大変だな。
 というか、バブイルの塔を出ろってことはつまりやっぱりこの塔にも危機が訪れるんだ。
 これはかなりショックだった。せっかく住み心地のいい空間に改造しているところなのに。でもまあ、あと十年くらいはこのまま住むつもりだけど。

 ゴルベーザさんの大雑把なネタバレによると、宇宙から現れた新しい敵にクリスタルを奪われるのでそれを倒してめでたしめでたし、という話らしい。
 続編の主人公は便宜上セシルの息子だけれど月の帰還は複数の章からなる群像劇だという。
 言われてみれば従姉もナントカ編、カントカ編、と小分けにダウンロードしてプレイしていたような。
 前作の仲間たちによる青き星でのシナリオを終えたあと、また月での戦いになる。私にとって重要なのはその章だ。
 敵の本拠に向かう際、四天王はもちろんのことベイガンさんやメーガス姉妹、ルゲイエさんにエブラーナ夫妻までも再び戦うことになるという。
 ただしそれは“かつて戦った敵が再生されるイベント”であり、彼らが生きていることでシナリオがどう変わるのかはゴルベーザさんにも分からないそうだ。
 順当に考えてそのボスラッシュがまるごとスキップされるのではないだろうか?
 でも楽観視はできない。万が一、皆が敵の手に渡ってしまった場合のことを考え、すぐに復活させられるだけの魔力を溜めておくべきだろう。

 終盤に訪れることになる月はゴルベーザさんのいる月とは別物らしい。
 そしてそれが接近してくることにより青き星では大災害が発生する。具体的に言うと魔物が暴走して隕石が降り注いだりするのだとか。
 つまり次の敵もゼムスと同じく“腹いせにあの星を滅ぼしちゃえ系”なのだろう。困ったものだ。
 RPGのラスボスってヤツはどうしてこう自分のフラストレーションを世界規模で八つ当たりしたがるのでしょう。もっと自分の人生に集中してほしいです。
 それはさておき、ゴルベーザさんはその別の月ってヤツを探してみるつもりでいるようだ。
 オープニングが始まる前にラスボスを倒してしまえば誰も被害に遭わずに済む。
 ただし、月は異世界から現れる可能性も高いので現時点では発見できないだろう、とも書かれていた。
 ゼムスを倒したくても月へ行く手段がなかった私と同じ状況だ。順当に、シナリオ通りに進めることになると思われる。
 ということは私がやっておくべきは起こる災害への対処かな?
 でも魔物はともかく隕石を防ぐのはちょっと荷が重い。精々、十数年かけて主要な町に結界でも作っておくのが限界だろうか。
 バリア系はカイナッツォさんやバルバリシアさん、ドグさん辺りが得意なので協力してもらおう。

 以前、月の帰還について詳しくネタバレをしてほしいとお願いしたのだけれど、ゴルベーザさんは教えてくれなかった。
 一応、最後の最後にこうして重要な忠告だけは残してくれた。でもそれだけだ。
 手紙の締め括りには「マコトには先入観を持たず、ありのままの気持ちで行動してほしい」とある。
 私もゴルベーザさんの体と脳を使った経験があるので、彼の思考回路はなんとなく理解できる。
 なぜ詳しいストーリーを言いたがらないのか。たぶん、彼は続編で死亡する可能性があるのだと思う。
 それだけなら打ち明けて二人で対策を練ればいい。そうしないのは、死亡フラグを粉砕するのが困難だからではないか?
 たとえばゴルベーザさんがセシルを庇って死ぬとする。その場合、迂闊にゴルベーザさんを助けるとセシルが代わりに死んでしまう。
 ゴルベーザさんの優先順位はセシル>自分だから、私が彼を守るためにセシルを犠牲にすることを恐れているんだ。
 ちょっと腹を立てている。だったら全部話したうえで「私もセシルも助かるよう協力してくれ」と言ってほしい。言われなくたってそうするつもりだけれど。
 兄弟が一緒に暮らすこと、それが私の目的なんだから。




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