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ドッグ・ソング


 頬に触れられたと思ったら頭を撫でられ、その手が背中にまわり、気づくと私はルビカンテさんに抱きしめられていた。
 いや、抱きしめられるというかむしろこれは抱え上げられるというか、完全に犬猫もしくは赤ちゃんを抱っこする時の感じだ。
 腰の辺りをがっちりホールドされてるから落ちる心配はないけれど、床から離れた足がぷらぷらして不安定なのでルビカンテさんの肩に掴まらせてもらう。
 するとルビカンテさんは私の肩に顔を埋めてきた。な、なんか妙に恥ずかしいんですけど。
「えっと、これ楽しいですか?」
「ああ」
「よかったら動物に変身しますよ?」
「このままでいい」
 今の私は人間姿のままだからモフモフも堪能できないし、何が楽しいのかよく分からない。
 いつもは高いところにあるはずのルビカンテさんの顔が真横にあって、耳元で聞こえる声がとてもくすぐったく感じた。

 ゴルベーザさんほどの魔法防御力を持たない私はルビカンテさんの纏う炎に耐えられない。本当なら触れただけで大ダメージ確定だ。下手したら死ぬ。
 でも今は熱さを感じないので、彼が力を抑えてくれているんだろう。そんな神経をすり減らしてまで触れなきゃいけないほどスキンシップに餓えてるのか。
 そういえば終盤は忙しくてこの恒例行事もずっとお休みしていたもんね。もしかしてルビカンテさんは深刻な動物不足に陥っているのかもしれない。
 とりあえず私はソーマのしずくを飲んで魔力の底上げと、魔法防御力を上げていくところから始めるべきだろうか。
 以前、変身術が使えればいいんだからカイナッツォさんに頼んでみてはどうかと提案したら「そんなことをするくらいなら死ぬ」と真顔で返された。
 つまりルビカンテさんに動物と触れ合う機会を与えてあげられるのは私だけなのだった。
「せめて炎に耐えられるくらいにはならないとですね」
「……何の話だ?」
「今みたいに抱かれる時に、いつも魔力を制御させるのは申し訳ないので」
 腰に回された腕がピクリと震えてルビカンテさんは顔を上げた。……顔が近い。
「それは、こうして触れても構わないということか」
「? はい、それはもちろん」
 だってこのアニマルセラピーもどきは今までにも行っていたのだし。できればいつも通り動物に変身してからにしてほしいけれど。

 ふと考えた。私はつい先日まで身長約2m、つまりルビカンテさんと同じくらい大きなゴルベーザさんの、筋肉モリモリな男性の体に入っていた。
 比べて今の私はどうだろう? 並んでもルビカンテさんの胸辺りまでしかない背丈に筋肉の欠片もないフニャッとした体だ。
 ローザみたいに美女でもリディアみたいにグラマーでもないけれど、そういうのは魔物の価値観にあまり影響を与えない。
 だからルビカンテさんから見ると私の体はわりと魅力的だと思われる。小動物的な意味で。
 ちまっこいハムスターとか手に乗せて頬擦りしたくなるよね、的な意味で。
 今までとのギャップも手伝って彼の目には変身するまでもなく私が小動物に見えているのかもしれない。
 とはいえ私の方では犬や猫ではなく人間の意識を持っているので、すごく居心地が悪いんですけど。
「あの……もう降ろしてもらっても?」
「断る」
 にべもなく断られてしまった。

 絶対に離さん! という意思の現れか、ルビカンテさんの両腕にますます力が籠った。
「ちょ、ちょっと苦しいんですが」
 実際ちゃんと加減してくれてるので苦しくはないのだけれど目の前に顔があるのがなんだか耐え難くて、ルビカンテさんの肩に手を置いて思い切り顔を背けた。
 彼は一旦私を右手だけで持ち上げ、左手を膝の裏に差し込んで抱え方を変えた。いわゆるアレだ。お姫様だっこというやつ。
「これならいいだろう?」
 まったくよろしくありません。むしろ悪化している気がします。
「マコト」
 顔が近い。息苦しい。青い炎のような瞳がだんだんと近づいてきてなにやら目が回る。
 これは一体、どういう状況なんだろう?
「あ、あ、あの、これは、さすがに、ちょっと違うんじゃないかと」
「何がだ?」
「だって、まるで……」
 まるで動物を抱くのではなく、男の人が女の人を抱き締めているような、体勢に、耐えられない。

 この体にもある程度の、変身術が使える程度の魔力が備わっていて本当によかったと思う。
 もうちょっとでキスしてしまいそうな危うい距離にあるルビカンテさんの顔が不満げに歪んだ。
「なぜ変身したんだ、マコト」
 だってだってだって、仕方ないじゃないですか。あれはなんか違うでしょう。
 こうして犬の姿にでもなっていれば身を任せて平気だけれど、人間の格好でお姫様だっことか、なんかもう、勘違いしそうになる。危険だ。
「……わん」
 犬語で誤魔化すとルビカンテさんは仕方ないなと笑う。
「これはこれで楽しくはあるのだがな」
 そう言いつつ声はとても残念そうだった。
 でも彼の指が耳の後ろのやわらかい毛並みをすいてくれると、私はとても安心するんだ。
 やっぱりスキンシップは変身中限定にしてほしい。犬の体なら顔が近くても撫でられてもただただ嬉しくて尻尾を揺らすだけだもの。




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