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相談


 居並ぶ面々を見てファンタジーに出てくるモンスターっぽいなと思う。従姉がよくやるゲームにもこういう敵キャラクターがいた。
 始めに口を開いたのはローブを被った人だった。老人のようなしゃがれ声で、たぶん男性……だと思う。なんかすごく腐ったみたいな匂いがするのが気になるけれど指摘するのも申し訳ないので口をつぐむ。
「ゴルベーザ様は精神支配の術に長けている。そう簡単に乗っ取られるとは思えん」
 その発言を受けて燃えている彼が睨みつけるものの、ローブの男性は見事に無視していた。甲羅を背負った青い亀人間がダメ押しのように続ける。
「認めろよ。どう考えてもこれをやったのはゴルベーザ様自身だろ」
 ……ん? ここへ来て新事実が発覚。この事態を引き起こしたのはゴルベーザ様だった?

 とりあえず、現状あまりにもこんがらがっているので分かるところから一つずつ紐解いていくことにしよう。
「はい」
 挙手すると全員が一斉に私を見た。居心地が悪い。
「まず自己紹介をしませんか。私はマコトと言います。体はゴルベーザ様みたいですけど、中身はゴルベーザ様ではありません」
 見た目は子供、頭脳は大人、みたいな自己紹介をして様子を窺う。無視されると辛いところだけど。
「風のバルバリシアよ」
 今まで黙っていた超長髪の美女が名乗ってくれた。よかった。みんなあの燃えている彼みたいにまともな会話をしてくれなかったらどうしようかと思った。
 それにしても“かぜの”って苗字だろうか? 風野さん? いや、たぶん違うとは思う。違和感がありすぎる。
 真っ先に答えたバルバリシアを煩わしげに睨みつつローブの男性も後に続く。
「スカルミリョーネだ」
 バルバリシア、スカルミリョーネ。よし、覚えにくいぞ。ちょっと冷や汗が出てきた。聞き返したら悪いから一度で記憶しないと。続いて青い人面亀に視線を移すと彼も躊躇なく口を開いた。
「カイナッツォ。そこで不貞腐れてるのがルビカンテだ」
「誰が不貞腐れている」
 明らかに不貞腐れてるルビカンテは置いといて四人の名前を確認する。向かって左から順番にスカルミリョーネ、カイナッツォ、かぜのバルバリシア、ルビカンテ。
 ああ、“かぜの”って“風”か。風のバルバリシア。他の三人を見た感じおそらくそれぞれに属性があるんだろう。ルビカンテは分かりやすく火、カイナッツォは水だろうか。となるとスカルミリョーネが土かな。
 ますますもってゲームじみてきた。ゴルベーザ様は何なんだろう? 残ってそうな属性でいくと雷、金、木、毒辺りだろうか。光か闇という線もあるけれど光ではないな、絶対。
 だってここにいる人たち、明らかに悪役ポジションだもの。

 ひとまず彼らに私の状況を説明する。といっても「朝起きたらゴルベーザになってた。なぜかは分からない」と極々簡素な事実のみ。ルビカンテさん以外の皆はこれが不測の事態だと信じてくれたようだ。
 人外の力なのか、ゴルベーザ様の肉体の中にいる私がまったくの別人だというのは見れば分かるらしい。そしてスカルミリョーネさんが言うには精神支配の術に長けたゴルベーザ様が誰かに体を乗っ取られるなんてあり得ない、と。
 精神支配が得意ってすごく突っ込みたいけれどそこは後回しだ。さっき話してたのはカイナッツォさんだったかな。
「カイナッツォさんは、そのゴルベーザ様が私の精神を自分の体に入れたと思うんですか?」
「あ、ああ……」
 さん付けで呼んだのがまずかったのか妙な顔をしつつ、カイナッツォさんが続ける。
「相手の精神に接触して言動を支配し、意のままに操る。ゴルベーザ様の得意な術だ。お前みたいなやつが体を乗っ取ろうとしても返り討ちにされるに決まってる」
「それが成功してるんだからゴルベーザ様自身の意思で私を招いたとしか考えられないってわけですね」
 なんて迷惑な。というか、何のためにそんなことを?
「たぶんですけど、ここは私にとって異世界です。皆さんはモンスター……ですよね? 私のいたところにはそんなのいないし、さっきルビカンテさんが使ってた魔法みたいなのも存在しないし、お伽噺の中にでも迷い込んだ気分です。わざわざ異世界から無力な私を引っ張り出した理由、何なんでしょうか」
 魔法がないと言った辺りでルビカンテさんが意外そうな顔をする。私が意図してゴルベーザ様を害したわけじゃないとようやく信じる気になってくれたようだ。

 精神支配の術と召喚魔法を組み合わせれば自分の体に他人を憑依させることも不可能ではないという。これがゴルベーザ様の意思で為されたと思うなら、カイナッツォさんたちには彼がそれを行う理由に心当たりがあるということだ。
 四人は顔を見合わせ、しばらく考え込む。やや敵意の薄れたルビカンテさんが私に問いかけた。
「お前……マコトだったか。ゴルベーザ様の記憶を覗くことはできないのか?」
 記憶を覗くとは一体。ゴルベーザ様は魔法が使えたかもしれないけれど私は魔法の存在しない世界の生き物だ。他人の記憶を覗く方法なんて見当もつかない。
 首を傾げる私にスカルミリョーネさんのフォローが入る。
「その体は間違いなくゴルベーザ様のものだ。もちろん脳もな。自分の記憶を思い出すようにゴルベーザ様の脳を使えば、お前を呼んだ理由も分かるかもしれん」
「なるほど」
 確かに、脳みそだけを入れ換えたのではなくこの体の内部までひとつ残らずゴルベーザ様のものだから、彼の記憶だって読み取れるかもしれない。だとすれば彼の脳で別の人格を作り出している“マコト”という存在の根拠はどこにあるのか謎だけれど。
 とりあえず、昨日なにがあったのか記憶を手探りしてみる。
 昨夜は特番があったので従姉と一緒に夜の11時過ぎまでテレビを見ていた。その後お茶を飲んで歯を磨いて冷蔵庫の中を確認し、卵と醤油がなくなりそうだったので明日買いに行こうねと言い合ってから就寝した。
 ……この脳に蓄えられているはずのゴルベーザ様の記憶に届かない。
「ダメです、私自身の記憶しか見えません」
 ただしまったく見つからないわけじゃない。自分の記憶を手繰る時、デジャヴュのように過る微かな記憶がある。それを思い出そうとしても何かに阻まれてしまうのだけれど。
 ゴルベーザ様は自分の心に防壁を築いていたのかもしれない。誰かが乗っ取りを仕掛けても返り討ちに遭うというほどだから、きっとそうやって記憶を封じて対策していたんじゃないかな。

 この事態がなぜ起こったのかは依然として分からず、解決法も思いつかない。四人、というかルビカンテさんはかなり苛立っていた。それを嗜めるでもなくむしろ煽るようにカイナッツォさんが呟く。
「だからよぉ、やっぱり人間を滅ぼすのが嫌になって身代わりを立てたってこったろ?」
「ゴルベーザ様が逃走などするものか!」
「じゃあ他にどんな理由があるってんだ。見たところ中にいるのは魔力もないただの小娘だぜ。で、俺たちはゴルベーザ様を呼び戻す方法も分からねえときた。使命を果たしようがないだろ」
「それがあの方の意思だとでも? 侮辱が過ぎるぞ、カイナッツォ」
 言い争いを始めてしまった二人からちょっと距離をとる。ルビカンテさんの火がまたまた勢いを強めていて怖い。それを鬱陶しそうに見やりながら、スカルミリョーネさんも渋々とカイナッツォさんの言葉を肯定した。
「……バロン侵略をずっと躊躇っておられた。使命のためとはいえ、同族に仇なすのに嫌気がさしたというのはあり得る話だ」
 なんだかいろいろ複雑な事情があるようだ。ゴルベーザ様は人間でありながら人間を滅ぼそうとしていたらしい。つまり魔物の味方ということだろうか?
 やる気のなさそうなカイナッツォさんとあまり喋らないバルバリシアさんはよく分からないけれど、激昂しているルビカンテさんと消沈してるスカルミリョーネさんからはいなくなったゴルベーザ様への強い敬意が感じられる。
 いきなり知らない人の体に入ってしまった私と同じくらい、いきなり知ってる人が他人と入れ替わってしまった彼らも困惑しているんだ。

 ひとまず一番冷静さを保っているバルバリシアさんに確認をする。
「ゴルベーザ様は皆さんの上司で、人間を滅ぼそうとしていたんですね?」
「そうよ。でもあの方が使命から逃げるはずがないというルビカンテの意見には、私も同感だわ」
「その使命について教えてもらえますか」
 言葉のやりとりを止めて炎と水で戦い始めたルビカンテさんとカイナッツォさんから離れ、こちらに避難してきたスカルミリョーネさんが代わりに答えてくれる。
「ゴルベーザ様は青き星と月の民の間に生まれた方だ。この地上を席巻する人間を滅ぼし、月の民を迎え入れるために戦っている」
 いきなり宇宙規模の話になってしまった。月の民が文字通り月に住んでいる人のことを指すなら青き星は地球のようなものか。ゴルベーザ様は宇宙人とのハーフだったんだ。
「それでも半分は青き星の人間だから使命を嫌がっていたんですね。ちなみに、ゴルベーザ様はここに閉じ込められてたんでしょうか?」
 強制的に使命を課せられていたのかどうかを確かめる。まあ、この四人の反応からして答えは分かりきっているけれど。案の定バルバリシアさんは否定した。
「ゴルベーザ様は我々の誰よりも強いのよ。使命を果たしたくなかったなら、仮に引き留めようとしたって不可能だわ」
「昨日までは、あの方自身の意思で人間どもを侵略していた」
 無理矢理やらされていたわけじゃないとスカルミリョーネさんが念を押す。そもそも彼ら四人を集めて配下にし、人類滅亡を企んだのはゴルベーザ様の方だという。
「じゃあ、使命が嫌になったなら出て行くだけでよかったんだ。でもそうはしなかった。体だけここに残ってるのはおかしい……」

 ……単なる事故ってことはあり得るだろうか? 偶然ゴルベーザ様と私の精神が、入れ替わってしまったとか。
 まだ喧嘩を続けている二人の注意を引くため両手を叩いて音を立てる。野良猫の喧嘩を仲裁してる気分だ。それにしてもゴルベーザ様、手が大きいな。
「私の方では、昨夜は何の異変もなかったんです。普通にいつも通り眠って目が覚めたら、この世界でゴルベーザ様の体に入っていた。ってことは、もしかして私の体に」
「ゴルベーザ様がいらっしゃる? その可能性は高いな」
 四人の瞳が希望に輝いた。やっぱり、無事でいてほしいという気持ちが一番大きいみたいだ。
 意図して私を呼んだのなら迷惑だから元に戻してもらわなければ。もし意図せず起こった事故ならば、やはりゴルベーザ様に帰って来てもらわなければならない。
「この体が魔法を使えるなら私にも同じことができるはず。ゴルベーザ様を呼び戻すのを手伝ってください」




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