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巨人


 セシルたちは新型飛空艇を改造して封印の洞窟を探している。しかしその前に、エクスカリバーをくれる鍛冶屋の家に立ち寄っていた。
 塔での戦いでルビカンテさんが余裕を見せつつ撤退したおかげか、現在の戦闘力に不安を抱いているようだ。
 となればおそらくリディアに導かれて、幻獣王にも会いに行くはずだ。
 そんなわけで私はカイナッツォさんと一緒に幻界へとやって来ている。
 魔導船が出現したら怒濤の展開となることが予想されるので、ゼムスとの戦いに必要なことをちゃんとやっておいてもらうためだ。
 ちなみに私は甲冑を脱いで素顔を晒しているのだけれど、カイナッツォさんが「適当にしとけ」と言ってるのでたぶん大丈夫なのだろう。

 幻獣の町は洞窟から道なりに進めれば辿り着ける。と、思っていたら実は違うらしく、この町は幻界の呼び名通り違う世界に存在しているそうだ。
 リヴァイアサンの意思で迎えられた者でなければそもそも道を見つけることさえ叶わないという。なら、どうして私が入れたのか。
「幻獣王は私のことを知ってるんでしょうか?」
「だろうなァ。見せかけは地底にあるが、地上とだって離れてるわけじゃねえ。この機会にお前を殺しとこうって算段かもな?」
「ええっ!!」
「クカカカ、冗談だ」
 あり得ることだし、まったく笑えないんですが。まあカイナッツォさんもいるので仮に幻獣が襲ってきても易々と殺られはしないと思いたい。
 先のことを見越してリディアを誘拐したくらいだ。ゴルベーザの目的……“マコト”の存在を察知して、見極めたいだけかもしれないし。

 幻獣の洞窟および町の中は地底独特の暑さがまったく感じられない。時間の流れも違うようだ。本当に異世界なのだと不思議に思う。
 もっと遠い異界から来た私が言うのもなんだけれど。
 まずは王妃を倒さなければ話すこともできないという幻獣王には、なぜか普通にお目通りが叶った。
 人間の老人のように見えるけれど黒目のない瞳が人外の様相を呈している。その目が、カイナッツォさんを面白そうに見つめている。
 魔物と幻獣は紙の表裏のようにほとんど同一の存在だ。カイナッツォさんがいたから仲間扱いされて迎えられたんだろうか。
 なんにせよ、まずは挨拶を。
「初めまして幻獣王様。テラとヤンの件では、お世話になりました」
「うむ……シルフたちは気紛れゆえ、我々の仲間というわけではないのだが」
「そうなんですか? じゃあ今のお礼は撤回します」
「なぬ!?」
 コミカルなリアクションを見てると威厳もなくて偉い人には思えない。横に控える王妃様もやれやれって顔をしている。

「さて、お前さんのことは何と呼べばいいんじゃろうな、“ゴルベーザ”殿?」
 あくまでも穏和な老人の顔をしてリヴァイアサンが尋ねてくる。やっぱり私の存在に気づいているのか。
 ゴルベーザさんの半分は月の民でできているし、幻獣神バハムートは月に住んでいるから、その繋がりで知ったのかもしれない。
「私はマコトと申します」
「ふむ。異世界の存在じゃな。月の意思に惑わされてはおらぬようだが……」
 月の意思というのはゼムスの思念のことだろうか。リヴァイアサンの表情がサッと変わり、尋常ではない殺気を身に纏う。
「なぜミストの者たちを殺した?」
 一瞬、気圧されてしまった私の代わりにカイナッツォさんがそれに答えた。
「奴らが大人しくクリスタルを集めさせるわけねえだろうが。こっちを殺しに来るのが分かってて野放しにする馬鹿がいるかよ」
「ならば集めなければよかったのだ。マコトとやら、お前さんの行いが悪意によるものではないとしても、クリスタルに手を出さねば無闇と死者を生むこともなかった」
 私がクリスタルを集めなければ……争いは起こらず、青き星に届くゼムスの思念もそのままだ。
「耐えるだけでは何も解決しません。ゆっくりと殺されるだけです」

 何かを探るようにリヴァイアサンの視線が私に注がれる。
 この海竜も精神魔法を得意としているようだ。様々なことを見通す幻獣の長ともなれば当然と言えるかもしれないけれど、他にも妙な予感があった。
 不機嫌さを隠しもせず隣に立っている、カイナッツォさんの様子を窺う。
 水を司る、変身術と精神魔法に長けた、魔物。幻獣と魔物は表裏。目の前の海竜リヴァイアサンは人間の老人に変身していて……。
「えっ……?」
 まさかと目を見開くとカイナッツォさんに思い切り睨まれた。
 すみません、気づいちゃ駄目なことなんですね。分かりました。
「えー、あなたに言い訳するために来たわけじゃないし、その必要もないので、無駄話はやめましょう」
「ふむ。まあ、そうだな」
 不貞腐れているカイナッツォさんを見て幻獣王は笑っている。私は「えええー、マジかー」と叫びたい気分を必死に抑えていた。

 カイナッツォさんのことはさておき、本来の用を果たさなければ。
「セシルたちが来たら、この鎧を授けてほしいんです。あと月で幻獣神に会うように助言もお願いします」
「鎧については心得た。しかし今のリディアが幻獣神様に勝てるとは思えぬが」
「勝てます。仲間がいるので」
「……よもや他人に断言されるとはな」
「あ、魔導船が出現する頃エクスカリバーも完成するので忘れずに」
 アダマンタイト製の剣と鎧、これを揃えたセシルがパーティの盾となるのだから幻獣神にだって勝てるだろう。
 というかバハムートにくらい勝てなければラスボスなんかに敵いっこないのだ。
「これで月へ行く準備は万端ですね」
「ああ、リディアたちも洞窟を出るところのようだぞ」
「え!?」
 そうか、リディアが大人になっていたんだからこっちの時間の流れは外よりずっと早いんだ。じゃあカインさんを迎えに行かないと。
「鎧と助言、お願いしますね」
「もう帰るんかの?」
「あとリディアたちが来たら用件は手短に!」
「うむ、また来るとええ」
 急に好好爺のふりしないでほしい、面倒くさい人だな。カイナッツォさんが懐かないのも分かるよ。

 セシルたちが洞窟から出てきたところにギリギリで間に合い、クリスタルを奪ってカインさんを連れ去ることに成功した。
「大丈夫か、マコト。疲れてるみたいだな」
「ちょっと処理能力が追いつかなくて……」
 ここからセシルたちはドワーフ城に帰ってクリスタルが奪われたことを報告し、幻界に立ち寄ってから地上へ戻り魔導船を浮上させる。
 幻界にいる間はセシルたちの時間が早く進むので、ほんの少しだけ休憩できる。
 ホッと息を吐いて冷静になり、カインさんを見てふと気づいた。
「これよく考えたらカインさんにもう一回裏切らせる必要なかったですよね?」
「……ああ、お前は自力で速やかにクリスタルを奪って行ったしな」
 カインさんは咄嗟に操られている演技で合わせてくれたけど、今から思えばクリスタルだけ持っていけば済む話だった。
「ご、ごめんなさい……」
「気にするな。ゼムスと戦う前に俺も装備を新調したいと思っていたところだ」
 もしかして催促されている? セシルの武器と鎧は用意したのだし、それくらいならお安い御用ですが。
 アダマンアーマーがもうひとつあるのでカインさんにあげよう。

 あとはこのクリスタルを使って次元エレベーターを起動させるだけだ。
「じきにセシルが魔導船で月へ向かうので、クリスタルを持って私たちもエレベーターで同行します」
 巨人を呼び出さずにさっさと月へ行ってセシルと合流すれば、一度青き星に戻ってくる手間を省ける。
「いよいよゼムスとの決戦か」
「はい。頑張っていきましょう」
「逆に気が抜ける言い方をするなよ……」
「そ、そうですか? すみません」
 気を取り直してバブイルの塔に戻り、ミシディアから魔導船エビフライ号が飛び立つのを見届ける。
 そして四天王以下仲間たちとカインさんに見守られる中、次元エレベーターが起動した。
 ゾットもそうだったけれど機械仕掛けの巨大な塔だというのに月の民の遺産は静音性が素晴らしい。微かな起動音をあげて月へのワープ装置が作動する。
 塔の外で隕石が落ちたかのような爆音が轟いた。
「え?」
 慌てて窓に駆け寄って外の景色を確認する。……なんか、巨人が進撃していた。

 呆然とする私の横から同じように窓を覗き込み、バルバリシアさんが無邪気に聞いてきた。
「強いて名付けるなら“バブイルの巨人”という感じの物体ね」
「つーかどう見てもそうだろ」
 カイナッツォさんの突っ込みにスカルミリョーネさんとルビカンテさんも遠慮がちに頷いた。
「もしかして、呼ばなくてもエレベーターを起動したら現れちゃうんでしょうか」
「ゼムス様がそのように仕掛けておいたのではないか?」
 困ったな、巨人は単なる破壊兵器だから全然いらないんだけど。むしろ来ないでほしかった。これじゃあ結局セシルたちが戻ってきてしまう。
「しゃあねえ、ブッ壊しとくか」
「そうですね……魔導船が戻る前に片づけられるといいんですが」
 あの制御システムって結構な難敵だった気がする。
 それに、本来なら四天王とセシルたちが再戦する場所だ。もう敵対しないように気をつけておかないと。




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