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交錯回帰


 私に見届けられるのはここまでらしい。ちょっと安心してるのはなんでかな。全部が終わってしまえば、もうどうしようもないって諦められるから?
 なんか感情が麻痺してるみたい。やたらと穏やかな気持ちで、そこには罪悪感のカケラもない。
 最後にゴルベーザに言ったことがちゃんと伝わったのかどうかだけがすごく気がかりだった。

 泰然自若っていうのかな、ゼムスは相変わらず人形みたいに動かない。人間らしい心がなさそうに見えるのは元々そういう性格なのか、それとも月の民による封印が彼の人格まで圧し殺しちゃったのか。
「ゼムスって今まで誰かに受け入れてもらったことあるの?」
 返事はないけどその表情。顎をくっと上げて目を細めて「あったらこんな場所にいるものか、愚か者が」とでも言いたそうな感じ。
 わー、私ってば年中甲冑のゴルベーザと表情不変なスカルミリョーネのお陰で声にならない言葉を読み取る経験値、上がってる。うれしくなーい。
「……性格悪いもんね、ゼムス。友達いなくても無理ないね」
「貴様とて他人のことは言えまい」
「私はとってもいい子だと思います!」
「召喚術で異世界より波長の合う魂を手繰り寄せ、始めに触れたのはセリナだった」
「……えっ?」
 なにそれ、まるで私がゼムスと同じくらい腹黒いって言ってるみたいに聞こえる。うぅっ、怖いから詳しくは聞かないでおこう。

 せっかくルビカンテがゴルベーザのところに連れていってくれたのに、ろくに話もできない内にゼムスに召喚されてしまった私は月の地下渓谷に立って青き星を見上げている。
 この世界に呼び出されて一番最初に見た景色だ。
 何かを変えられたらいい、少しでも支えになれたらいいって思ってた。それでも最初から終わりは見えてて、結局のところ私はゴルベーザを置いて元の世界に帰るんだ。
 本音を隠し続けてたのはお互い様。辛くて苦しくて面倒なこともたくさんあった。だけど振り返ってみればやっぱり、一緒にいるのが楽しかったよ。

 難しいこと抜きにしてもゴルベーザのそばにいたかったんだ。……守ってあげたくて、支えてあげたくて、何より、いずれあの人が抱くであろう後悔を和らげたかった。
 あなたの人生は嘘ばっかりじゃないんだよ。罪を犯した記憶だけじゃなくて、笑って過ごした日常も忘れないで。
 わけも分からないまま異世界なんかに来ちゃって、でも思ったより楽しく、おかしいくらい普通の生活を送ってた。その内に避けられない物語が迫って来て、目を逸らせずに巻き込まれて流されて。
 苦しくて辛くて、元の世界に戻るまでちょっと楽しむつもりだったのに、思った以上に私、ここで“生きてた”んだ。
 それはゴルベーザがくれた日常なんだよ。

 最初に私を受け止めてくれたのはゼムスだった。だからゼムスのために義理も果たしたかった。でも私が一緒にいたのはゴルベーザだからさ。
 ……会わずに消えようかな。エンディングを待って顔合わせちゃったらきっと言い訳せずにいられないもん。
 私は裏切ってないよ、逃げてない、私が悪いんじゃないって。そんなのみっともないよね。
 好きに判断してくれればいいんだ。私がここに確かに存在したってこと。自分の意思で誰のそばにいることを選んだのか、ゴルベーザがちゃんと分かってくれてたら、大丈夫だよね。

「あ、一つ聞きたかったんだけどさ」
 ゆっくりとゼムスがこっちを向いた。
「私がこの展開を知ってるって、ゼムスには分かってたんでしょ? うまいこと使って自分が勝っちゃおうとか思わなかったの?」
 ゴルベーザに愛情を与えて奪い取るなんて、消極的かつ悪質な嫌がらせするんじゃなくてさ。もっと単純に「悪役だって報われたい!!」って感じで行動することもできたんじゃないの。
 だけどゼムスは私の問いかけを鼻で笑った。
「勝利など無意味。これは始めから戦いではない。求めるのは死してなお続く負の連鎖だ。俺を殺すことはできても、消し去ることは誰にもできぬ」

 真実を知らされたらゴルベーザは諸悪の根源であるゼムスを殺そうとするだろう。場合によってはそれ以上に私を憎む可能性もある。
 ゼムスが私を送り込んだのはゴルベーザの憎悪をもっと根深いものにするためだった。そして最終的な目的は、ゼロムスとして永遠を手に入れるため。
 憎む心がある限り、肉体は滅しても魂は不滅、か。そういえばそんな感じのストーリーだったよね。もちろんゲームで描かれてたのは光の側面なんだけど、裏返してみれば同じことだ。
 強く正しく生きようとする人がいるように、そうはできずに闇の中へ逃げ出す弱い人もいる。でも……弱さは罪じゃない。
 弱くても悪くても、誰かを憎んでもいいんだ。その裏側にはべつの何かがあるんだから。

 地下渓谷が騒がしくなってきた。どうやらゴルベーザとフースーヤがこっちに向かってきてるみたいだ。この期に及んでまだ迷う。……やっぱり最後に一目でも会っておきたいなって。
 でもゼムスが、そんな私を見てまた楽しそうに笑うんだ。
「憎悪と苦悩にまみれ、迷い続けるがいい。それがお前の道だ」
 そうだね。私はそういうものだから諦めるしかない。それでも迷い続けているうちは、いくらでも変われるってことだから。
 会いたい、会うのが怖い、勇気ある決断なんてせずに開き直って待ってるよ。きっといつかまた、私たちの道が交わる時が来るって信じてね。




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