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共存共亡


 人間とは弱いものだ。しかし儚い命だからこそ生き足掻くのが人の面白さなのだろう。魔物と違って人間は成長する。
 絶望に沈み、そこからどんな強さを得て這い上がるのか。この先どれほどの強者となれるのか、楽しみでならないんだ。
 エブラーナの王子は最後の力を振り絞って立ち上がろうとしていた。一時の苦痛を忘れてでも強引に前へ進もうとするその姿。傷つき倒れながら、心の底に燃やした炎は消えない。
 まだ挑む気力があるか。ならば私も、全力で応えよう……。

 そうして手を翳した刹那のことだった。
「だるまさんがころんだあああああああああああああっ!!」
 不意に間の抜けた叫びが響いて青年の動きが止まる。互いの戦意が途切れた隙間に飛び込んできたのは、ゾットの崩壊以来セシルと行動を共にしていたセリナだった。
 両手を広げて庇うように私の前に立つ。その小さな体で遮れるものなど何もないだろうに。人間が割って入ったことでエブラーナの王子は困惑していた。
「セリナ……おかえりと言うべきかな?」
「ねえルビカンテ、言うだけ言ってみるけど私と一緒に今すぐ逃げるのはだめ?」
「それはできない」
「……だよね」
 本当はとうに予感していたのだろう? その手から零れ落ちたものがあると気づいた時、訪れる未来を……今この瞬間をも承知していたんだろう。
 もしかしたらセリナは出会った時から知っていたのかもしれないな。だから、触れるほど近くにいたのにその存在は稀薄だった。

 闇と光が相反するものなら、彼らと対峙することが始めから決まっていたのなら、おそらく私もスカルミリョーネたちのように敗れるのだろう。
 それほどの強者に出会えるなどとは思ってもみなかった。その時がとても楽しみだ。
 今ようやくセリナの言葉を理解しつつある。ゴルベーザ様のおそばにいるためにこそ力など要らぬと言った理由が。
 いずれ我々を凌駕する光が現れると、彼女は知っていたのだな。彼らの仲間に加わるほどの強さを持たぬがゆえに、セリナはゴルベーザ様のしもべでいられたのだ。
 ならばセリナには弱いままでいてもらわなければなるまい。まさか私が弱さを求める日が来るとは。

 我にかえった王子が再びクナイを構えた。
「てめえ、そいつの仲間か!?」
「そうだよ!」
「セリナ!」
 激昂した青年が火を放つ。微動だにしないセリナ。彼女を追って駆けつけたセシルたちが制止の声を叫ぶ。戦線が複雑に交錯した一瞬、セリナの眼前で炎が踊った。
 セリナごと私を刺し貫こうとしていた忍者が焼け焦げながら倒れ伏した。
 なるほど。セリナは見た目通りに私を庇っていたわけではないらしい。逃げることはできないと言ったから、自分が人質になる形で私に退かせようというのだ。このまま戦っては彼女を巻き込んでしまう。
 まったく、憎らしいほどに小賢しいな。そんな性質でさえ今や愛しく思うのだから始末に負えない。

 これ以上は戦わせまいとセリナが腕にしがみつく。一体どちらを助けようとしているのやら。尤も、私は彼女に守ってもらうつもりなどない。セリナはただゴルベーザ様のことだけ想っていればいい。
「死に急ぐことはない。腕を磨くのだ。私はいつでも相手になろう!」
「ま……待ち、やが……れ……ッ」
 バブイルに転移する寸前に、セシルのそばにいた誰かがセリナに向かって手を伸ばすのが見えた。
 やはり人は人と共にあるべきではないかと私は思う。そのためにこそゴルベーザ様のもとに現れたのだろう? 我々だけでは配下となれても“家族”にはなれなかった。
 弱さにも意味がある。この出会い、そして別れにも意味がある。別離が苦いだけのものだとは思わない。……今はただ願おう。いつか再び、会えることを。




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