×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
尻尾


 バロン城から撤退し、私とカイナッツォさんは地底にやって来ていた。セシルの代わりに幻獣の洞窟を攻略してネズミのしっぽを入手するためだ。
 このダンジョンはダメージ床もさることながら雑魚敵がコンフュを多用してきたりと嫌らしい構成になっている。
 正直あまり近づきたい場所ではないけれど、セシルの方もローザ奪還のために磁力の洞窟で頑張っているはずだから、これは一種のご褒美だ。
 魔物にとって聖剣というのは確かに脅威らしい。カイナッツォさんいわく、伝説の剣であの嫌さなのだからゼムス討伐にエクスカリバーは必須だろうとのこと。
 とはいえエクスカリバーへの道程は攻略方法を知らないセシルが自力で辿り着けるものではない。
 そこで私が代わりにアダマンタイトを入手し、カインさんに預けておいてセシルに渡してもらうことにしたのだ。

 さて、洞窟内の攻略である。
 まずは罠対策にレビテトをかけて、敵にはサイレスを唱えてから全体攻撃を……と思っていたら、カイナッツォさんがつなみを連発して一掃してしまった。
 入り口から先、見渡す限りモンスターの姿はない。あとはレビテトをかけて奥まで歩いてゆくだけだ。
「ずるくないですか」
「面倒がなくていいだろ」
「そ、そうですけど……」
 せっかく気合いを入れたのは何だったのか、かなり虚しい。
 私はRPGによくある「モンスターを狩ってレベル上げ」というのが弱い相手を虐殺して力を誇示するようで苦手なのだけれど、これはこれでどうかと思う。
 あまりにも呆気なくて達成感も何もあったもんじゃない。まあでも無用な戦いを避けられたのが嬉しいのは確かだ。
 しかしつなみの被害だけはきにかかるところだった。
「幻獣の町は大丈夫でしょうか」
「幻獣王がまともなら大丈夫だろうよ」
 リヴァイアサン……海竜の王様ならつなみくらい対処できるかな。そういえば向こうだって船上にあるセシル一行を容赦なく沈めてくださったのだし。
 ある意味、自業自得? いや因果応報というやつかもしれない。敵に放ったつなみは自分に帰ってくるのだ。
 ……ちょっと違うか。

 いったい誰が置いたのか謎だけれど、しっぽは洞窟奥の宝箱に安置されていた。
 高そうなクッションの上にちょっと干からびてミイラ化しつつある物体が乗っかっている。あまり触りたくない感じだ。
「ネズミのしっぽって、本当にネズミのしっぽなんですね」
 外見がしっぽに似ているというだけで実は鉱石や植物なのではと思っていたら、普通にしっぽで悲しかった。
「こんなもんで本当にアダマンタイトと交換できるのかよ」
「まあ世の中にはいろいろなマニアがいますから」
 このしっぽは珍味でもあるというし、コレクションアイテムとしてはまだしもマシな趣味じゃないだろうか。
 私のいた世界にはもっと意味の分からないマニアもいた。数百倍のお金を出して昔の硬貨を買い集める人とか。
 常人にはちょっと理解できないけれど、それが趣味ってものなのだ。
「じゃあカイナッツォさん、取ってください」
「いやお前が持ってくんだろ?」
「……」
 触りたくない、ネズミのしっぽ……。

 結局、宝箱ごと持っていくことにした。誰だか知らないけれど箱に入れておいてくれた人に感謝だ。
 一旦地上に戻ってからアダマン島へとテレポする。こう転移魔法を繰り返すとさすがに疲れてくるけれど、カイナッツォさんが手伝ってくれるので安心だった。
 いかに人外魔境の域に達しているとはいえゴルベーザさんも人間、無尽蔵に魔法が使えるわけじゃない。
 できればもうちょっと魔力の底上げをしておきたいとは思うのだけれど、ソーマのしずくは集めるのが大変だし。
 手間隙かけて自分で作るか、バルバリシアさん経由でトーディウィッチに分けてもらうか。
 どっちにしろあれを飲むとすぐ酔っ払ってしまうから、忙しい今は飲んでる暇がなかったりする。しばらく戦闘のない隙を見計らってがぶ飲みするしかない。
 でも魔力を上げるために酒浸りで二日酔い、というのもなんだかみっともなくて嫌な感じだし、悩ましいところだ。

 世界の辺境に位置するアダマン島では二人の小人が採掘作業に励んでいる。驚かせてはいけないのでカイナッツォさんには洞窟の外で待っていてもらう。
「こんにちは。こんなところで人を見かけるとは奇遇ですね」
「あら、こんにちは。私はお父さんと世界を冒険してるの。あなたも?」
「はい。洞窟を見かけたんで入ってみたんですが」
 小人さんの片方は女の子、いや女の人? だったようだ。見た目ではよく分からない。
 ゴルベーザさんの背が高すぎて必死に見上げているのが気の毒なので、しゃがんでみたけれどあまり変わらなかった。
「お父さんが変な鉱石を見つけたのよ。すごく頑丈で、聖なる力を秘めてるんですって。ずっとここに籠りっぱなしで嫌になっちゃうわ」
 それにしても小さい……。そういえば近くに小人の村があったっけ。いや、小人とブタとカエルの村だったかな。
「その鉱石を分けてもらうことはできますか?」
「うーん、私は構わないんだけど、うちのお父さん頑固だから……」
 彼女がちらりと目をやった方ではお父さんと思われる小人が一心不乱に鉱石を削り出している。こちらのやり取りには気づいていないようだ。
 私が不審者だったらどうするんだ。娘さんが危ないじゃないか。

 アダマンタイトはこの世界でも伝説上の石らしい。鉱山内に魔力が充満しているのが分かる。でも魔力を感じ取れなければその価値も理解できない。
 傍目には何もない小さな島だから今まで誰にも発見されなかったのだろう。
 こんな無価値(仮)な鉱山からはさっさと立ち去りたい気持ちらしい娘さんが、私にそっと耳打ちをしてくる。
「あなた、何か珍しい“しっぽ”を持ってない?」
「しっぽですか」
「そう、動物のしっぽ。お父さんはあれに目がないのよ。鉱石と交換してくれるかもしれないわ」
「交渉してみます」
 やりようによってはこの親子は大金持ちだ。いくらマニアとはいえたかがネズミのしっぽと交換してもらえるだろうかと少し不安だったのだけれど。
「あのー」
「なんだ、あっちへ行け! ワシは忙しい!」
「そうですか。しっぽを持ってきたんですが」
「何!?」
 鬼気迫る形相で振り向いた小人のお父さんの目が、私の持つ宝箱を見てキラキラと輝いた。あ、余裕で交換してもらえるっぽい。
「こ、これは探し求めていたネズミのしっぽではないか! しかも極上の熟成具合だ!!」
「その大きな塊と交換でいかがでしょう」
「よかろう、しっぽがもらえるならお前さんにワシが見つけた金属をくれてやる!」
「ありがとうございます」
 満面の笑みで鉱石を渡してくれるお父さんに、ちょっと罪悪感がわいた。

 このアダマンタイトを売り捌けばネズミのしっぽなんか山ほど買えそうな気がするのだけれど。それともしっぽはめちゃくちゃ高かったりするんだろうか?
 熟成具合とか言っていたので置かれていた環境も重要なのかもしれない。もしかして幻獣の洞窟に宝箱を置いたのもどこかのしっぽマニアなのでは。
 ……気づかなかったことにしよう。
「またしっぽを見つけてくれたら、もっといいものをやらんでもないぞ?」
「心に留めておきます」
 アダマンアーマーはどうしようかな。月に行ってからのことになるのでセシルにも私にもしっぽを探してる暇はなさそうだけれど。
 同じプリン系の誼でパープルババロアとかがピンクのしっぽを持っていないだろうか……。
 まあその辺りは後で考えるとして、上機嫌のお父さんに一礼してその場をあとにする。
 しっぽはしっぽで大切にしまっておきつつ採掘を止める様子はない父の姿に、娘さんが苦笑していた。
 それでも大好物を手に入れた父親が喜んでいるのが自分でも嬉しいのだろう、私にお礼を言って見送ってくれた。
 いい娘さんだなぁ。小人の村はきっといいところに違いない。なんといってもストーリーに関係ないところが素敵だ。
 攻撃も利用もしなくて済む。

 アダマンタイトは、鈍色の大きな石だった。名前からしてダイヤモンドの原石的なものだろうか。
 洞窟の外で待っていたカイナッツォさんがつまらなそうに愚痴る。
「最初からあのチビを殺して奪っときゃよかったんじゃねえのか」
「強盗殺人はいけません」
「今更だなァ」
「これはセシルの代理で行ってるので、悪いことはダメです」
 勇者が悪を挫くための剣を『殺してでも うばいとる』のはどうかと思うのだ。
「それじゃ、ゾットの塔に帰りましょう」
 セシルはもうクリスタルを入手しただろうか。
 塔での戦闘が始まる前にモンスターたちをバブイルに移しておくには、カイナッツォさんとスカルミリョーネさんに連続転移魔法をお願いしなくては。
 それを察してカイナッツォさんが長く大きなため息を吐いた。
 ……そういえば自由行動が全然できてない。すみません、もうちょっとだけ待ってくださいね。




|

back|menu|index