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憤怒


 拾い物のモンク僧に鍵を持たせておいたんでセシルたちはすぐに城までやって来た。準備はできている。あとはさっさと終わらせるだけだ。
 ベイガンたちとの戦いを終えたセシルが俺の待つ玉座の間へと辿り着いた。
「おお、戻ったかセシルよ。逞しくなったな? 負の力を御しきれずパラディンに逃げるとは情けない限りだが」
 さすがは兄弟、闇の影響に弱いところまでそっくりってわけだ。それでいて自分を失う寸前に力を振り絞り抗ってみせるところもな。
 敬愛していた王の姿に動揺を見せつつも、セシルは剣を抜き放った。
「陛下……いや、ゴルベーザに屈した者よ。お前の暴虐もここまでだ!」
 無意味な戦いになるのが分かってるってのにわざわざ真正面から向き合って、相手の内実を探るなんぞしちめんどくせえ。
 俺はスカルミリョーネのように無様な真似はしない。引き際を見誤ってマコトに助けられるなんてことはな。

 セシルの横にはモンク僧と、試練の山で加わった賢者にミシディアの双子がついている。……ん? 飛空艇技師の爺がいねえな。
 雑魚はまとめて片づけるのもいいかと思ったんだが、仕方ない。
「試練を乗り越えた褒美に教えてやろう。俺はゴルベーザ四天王、水のカイナッツォ」
 玉座から立ち上がり、変身術を解く。見知った姿が変貌してゆくのをセシルは食い入るように見つめた。
「貴様……貴様が陛下を……!」
「そうだ。俺が成り代わっていたんだ。お前はさっぱり気づかなかったがな」
「くっ……」
 なかなかいい表情をする。コイツの中には未だ闇が燻っていた。いずれまた暗黒の道へと堕ちるかもしれん。
「あの男は最後まで『この国を渡さん』と吐かしていたぜ? よかったじゃないかセシル、お前に暴虐を振るえと命じていたのは、大事な大事な陛下じゃなかったのさ。なんせヤツはとっくの昔にくたばってたんだからなァ。クカカカカ!」
「貴様ァァッ!!」
「おっとぉ」
 やれやれ、最近の若い奴はキレやすくていけねえ。

 透明化の魔法を発動し、奴らの背後にまわる。殺気立って俺の姿を探すセシルの腕に縋り、双子の片割れと賢者が叱りつけた。
「セシルさん!」
「冷静になるんじゃ、それではパラディンの力を発揮できぬぞ!」
 そうだそうだ。落ち着いて聖剣の力をうまく引き出せれば俺の姿も見えるかもしれんがな。
 この魔法は視覚どころか聴覚や嗅覚まで欺ける。気配さえ察知できないのに、やみくもに探したって見つからんのだ。
「どこだ、カイナッツォ!」
「てめえの後ろだよ」
 慌てて振り向き様に剣を振るうが、当然そこに俺はいない。
「馬鹿か、お前は。んな正直に言うわけねえだろうが」
「ふ、ふざけるな! 出てきて僕と戦え!!」
 正々堂々とってか。生憎と俺の信条じゃねえんだよ。聖剣使いのパラディンに馬鹿力のモンク、魔道士三人も相手になんで真面目に戦う理由があるんだ。
「どうせこの国は用済みだからくれてやる。俺はさっさと土のクリスタルを奪いに行かせてもらうぜ」
 ……なんてな。どうやらシドが脱出してきたようだ。気配が近づいてきている。すぐに合流してくるだろう。
 怒り狂っているセシルを残して俺はさっさと玉座の間を後にした。

 城外へと続く廊下にデモンズウォールの呪いをかけておく。奴らが出ようとすればドアは閉まり、テレポも封じられ両側からじわじわと壁が迫ってくる手筈だ。
 さて、どうやって脱出するか見物だな。攻撃魔法は封じてないんで壁をぶち壊せば出られるが、下手すりゃ城が崩れちまうかもしれん。
 “悪逆非道のバロン王国”にはそれも相応しかろう。
 すでにマコトの説得に応じて魔物化した兵士連中はベイガンがまとめて逃がしている。
 バロンに残りたい者は好きにさせろとマコトから言われていたんだが、近衛の連中は粗方ついてくるつもりらしい。
 まあ元の王からの不遇な扱いに腹を立てて魔物になったような奴らだから、こっち側の方が性に合うんだろう。
 俺もようやく城を離れられてありがたい限りだ。二度と国王なんかには化けたくない。もう人間の政はうんざりだ。息抜きにどっかで暴れたいもんだぜ。

 しばらく塔の上から様子を見ていると城の一部が揺れ始め、僅かな間を置いておさまった。
 やはり賢者がついてたんじゃすぐに対処されちまったか。それにしては壁を壊すような音もしなかったが。
 セシルたちは数十分もしてからようやく出てきた。せっかく戦わずに済ませてやったのに何をちんたらやっていたのやら。
 消沈した様子のセシルとモンクに、賢者とシド。双子の魔道士がいない。賢者を潰しておきたかったが失敗した。ガキが二人消えても大した差はないってのに。
 爺が隠していた飛空艇を取りに行くのだろう、セシルたちは竜騎士団の本部へ向かって駆けていった。その姿が見えなくなるのを確認して先程の廊下へ転移する。
「お疲れさまです、カイナッツォさん」
「おう……」
 なぜかマコトがいた。スカルミリョーネのように途中で逃がすつもりで来たのか? 俺はまともに戦う気はないと言ってあっただろ。

 マコトの横ではあの双子が石と化して壁を食い止めていた。よく見たら自分でブレイクをかけたようだ。
 くだらん自己犠牲を発揮するくらいならあのデカブツのモンク僧でも石化させておけば、すぐに復帰できたろうに。
 この展開も承知の上だったのか、マコトに動揺は見られない。
「これ、あとで生きてることが分かるんですけど、どうやって治療するんでしょうか」
「あー。ブレイクを唱える途中で固まってる状態だから、精神支配の応用で呪文を止めさせればエスナが効くようになるんじゃねえか?」
 適当にそう言うと、マコトは早速双子の精神を探ったようだ。
「なるほど……“石化する意思”を変えてやれば治癒できるんですね」
 ミシディアの長老辺りならそのうち元に戻す方法を見つけるだろう。できなきゃコイツらは無駄死にだ。
「とはいえ生身に戻った途端にまた壁が動き出すんだけどな」
「デモンズウォールの呪いは解いておきますね」
「あ、てめぇ何すんだよ!」
「ミシディアから無用な恨みは買いたくないので」
 ……確かに奴らは執念深くて面倒だ。クリスタルの件はともかくこの魔道士どものことまで恨まれたら鬱陶しい。
「チッ。どうせコイツらには生かす価値も殺す価値もねえからいいけどよ」
「未来ある若者にそんな言い方しちゃダメですよ」
「その未来ある若者はミシディアで育ってくんだぞ?」
「……いや、ああいう大人になるとは限らないし、子供をわざわざ殺すのはちょっと」
 でも迷っただろ、今。

 マコトはセシルの様子を見ていたようだ。怒りに惑わされてパラディンの力を使いこなせていないことを心配していた。
 しかし問題はないはずだ。パラディンなんぞ力も魔力も暗黒騎士より弱いが、聖なる剣が使えるってだけで充分に利点がある。
「そのうちパラディンらしくなるだろ。何よりあの剣があるしな」
「聖剣ですもんね。しかも“伝説の剣”だし」
 正直言って聖剣を扱えるのがパラディン唯一の強味なんだよなあ。俺も苦手だが、闇に属する魔物には最強最悪の武器だ。
 伝説の剣と言えば、とマコトが手を打って尋ねてくる。
「ミシディアの伝承のことなんですが」
「ああ? 竜の口より生まれし……ってヤツか。お前の話から察するに、青き星が育ったら迎えに行って月の民を起こせって意味なんだろ?」
「……そういう意味だったんですね。天高く舞い上がり、は魔導船のこと……なるほど」
 って分かってたんじゃねえのかよ。ほんと、マコトの記憶はあてにしていいのか悪いのか微妙だな。

 伝説の剣はセシルがパラディンになった時に授けられたらしい。明らかに、この星で鍛えられたものとは異なるエネルギーを秘めていた。
「なんで試練の山にあんな剣が眠ってたんだ? 月の遺産ならバブイルかゾットにありそうなもんだろ」
「祠の光はセシルのお父さんなので、元は彼の持ち物でしょう。伝承と照らし合わせれば彼が“来るべき日”に月の民を迎えに行く役目を負ってたのかも」
「えらい爆弾発言だな、オイ」
 月の民は青き星を第二の故郷にすべくその成長を待ちながら眠りについているという。
 そうだな。考えてみればゴルベーザ様とセシルがここにいるのだから、こっちに降りてきている月の民もいるわけだ。
 で、そいつが試練の山にいてセシルの父親でパラディンの試練を授けた、と。……なんか反則くせえ話だと思ったが、マコトもちょうどそう考えていたらしい。
「パラディンになる人は今までいなかったっていうけど試験官が父親ってすごい身内人事ですよね。しかも試練を通った理由が兄であるゴルベーザを倒すためって。そもそも月の民じゃなきゃパラディンになれないだけでは?」
「あり得るな。もしそうならルビカンテはとんだ徒労だったわけだ」
「……なんでそこにルビカンテさんが出てくるんですか」
 思わず言ってしまってからマコトの怪訝そうな顔に気づく。コイツは知らないんだったか。
「そうかそうか」
「何なんですか……」
 この話はいろいろと便利に使えそうだ。まだ温めておくとしよう。

 さて、次はトロイアのクリスタルだが、磁力の洞窟は攻略が面倒なんでセシルに取りに行かせてローザと交換することになっている。
 つまりしばらく暇ができたわけだが、マコトに俺を休ませるつもりはないらしい。
「一緒に幻獣の洞窟に来てください。伝説の剣を強化するアイテムが欲しいんです」
「あれをまだ強化するってのかよ。んなこたぁセシル本人にやらせとけ」
 パラディンになる時に聖剣を授けられたなら“物語”の流れで手に入るようになってんだろう、と言うとマコトは「エクスカリバーは隠しアイテムだ」と食い下がる。
「まず幻獣の洞窟で“ネズミのしっぽ”を手に入れるとアダマンタイトと交換してもらえるのでそれを伝説の剣と一緒にドワーフの鍛冶屋に預ければ強化されて返ってくるシステムです」
「めんどくせえな!」
 ゴルベーザ様から世界を守ろうとしてるって時にセシルがわざわざそんなことを試してみるとは思えない。十中八九、気づかんだろう。
 じゃあ俺たちが補助しなきゃならんってことだ。
「その剣はどうしても必要なのか?」
「エクスカリバーの攻撃力は伝説の剣の三倍です」
「……」
 逆に言うと、それを持ってなけりゃ三分の一に落ちた攻撃力でゼムス様に立ち向かわなきゃならないってことだな。
「月ではもっと強い剣も手に入りますけど、あれはダークバハムートが守ってるし」
「そんなことはよく覚えてんだな」
「レアアイテム集めとかは私も従姉に手伝わされてたので……ピンクのしっぽとか……」
「あー、よく分からんがご苦労さん」
 最後にセシルがゼムス様に負けたら今までやってきたことが水の泡になる。すこぶる面倒だが手伝ってやるしかなさそうだ。

 とはいえ敵の手助けばかりするのも癪に障る。やりきれないので俺はマコトにささやかな復讐をしておくことにした。
「ところでな、コイツら意識はあるからこの会話も聞こえてると思うぜ」
「……え?」
 しばらく固まっていたマコトが双子の石像を慌てて見やる。
「も、もっと早く教えてくださいよ! いろいろ言っちゃったじゃないですか!」
「だって聞かれなかったしなァ」
「わざとらしいな!」
 どうせコイツらが復活するのは終盤だというし、別に構わんだろうよ。そう笑えばマコトは頭を抱えてため息を吐いた。




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