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焦心妬心


 今日もセリナはカインと共に、ローザを監禁している部屋に入り浸っている。ここ数日ずっと彼女はあの捕虜に御執心だった。
 目新しい存在が嬉しいのか暇さえあればあの二人にばかり構って、あまつさえ「もっとローザの扱いを良くするべきだ」などとゴルベーザ様に進言する。
 お願いだから私を苛立たせるのはもうやめなさい。そう、思いつつも口には出せない。
 まったく。カイナッツォがバロンに留まるようになったから私の取り分が増えると思っていたのに、とんだ邪魔物が現れたものだわ。
 ……気に入らない!

 内から沸き立つような怒りを抑えるのに必死でいると、いつの間にやってきたのかルビカンテが声をかけてきた。
「苛立っているようだな、バルバリシア」
「当たり前でしょう! 見なさいよ、セリナのあの笑顔。しまりのない……!」
 扉の隙間から見えるのはローザと談笑する彼女の姿。そんなに楽しい話ならば私とすればいいことでしょう。
 この間なんて、あろうことか「ローザ様って呼んでいい?」と言うのを聞いたわ。信じられない。私があの小娘ごときと同列扱いだとでも言うの?
 もちろん、捕虜に敬称をつけるという許しがたい行為は全力で阻止したけれど。
 何がおかしいのか、ルビカンテはギリギリと歯噛みする私に笑顔を向けている。この男の考えることは時々よく分からない。
 でもとりあえず欝陶しいわ。

 ローザはクリスタルと引き換えにするための取引材料。それでなくともゴルベーザ様が連れてきたのだから、私たちがどうこうする権利はない。
 それは……分かっているけれど。
 セリナと同じ人間の娘が、ゾットの塔にいる。その事実が心を乱した。
「私たちと過ごした時間の方がずっと長いわ。そうして少しずつ近づいてきたのに。ただ人間だというだけで、やつらは……」
 すぐに彼女のそばに行ける。当たり前のような顔をして隣に立てる。同じ存在になれる。
 以前ならば自尊心ゆえに認められなかったでしょうけれど、今なら分かる。私はカインとローザが羨ましくて妬ましい。
「……確かに。しかし私はそれも喜ばしいことだと思うがな」
 冷静に言ってのけたルビカンテを見上げれば、セリナを見つめる視線が遠かった。
「そう。つまりお前は本心ではセリナのことなどどうでもいいのね。彼女が私たちから心を離し、人間のもとへ行こうとも。……失望したわ!」
「落ち着け、そうではない」
 私とは正反対の落ち着いた口調が余計に苛立たせる。
 その余裕はどこからくるのよ。まるで自分だけがすべてを理解して受け入れているみたいな顔をして、本当に腹の立つ男だわ。
 これならいっそカイナッツォにでも不満をぶつけていた方がマシだった。今度バロンに八つ当たりをしに行きましょう。

 セリナはカインに話しかけ、ローザが何かを言うと、彼女は声をあげて笑った。楽しそうなセリナの声が頭の中でこだまする。
 私と同じく扉の影から彼女を見つめ、ルビカンテの瞳は驚くほどに穏やかだった。
 ……こいつは、こんな慈しむような表情を浮かべられる男だっただろうか。
「お前の言う通り、出会って間もないにもかかわらず人間であるというだけで彼らは容易に彼女と近しくなれる。だが、それでもセリナはここにいる」
「何が言いたいのよ」
「彼らは人間だから近づけた。しかし我々は人間でなくとも親しくなれた。セリナにとって価値があるのはどちらだろう?」
「……」
 同じ人間だから近づけた。ならば、それ以外に価値はないということ。近づくための理由がなくても彼女は私たちのそばにいることを選んだのだから。
 でも、そんなに簡単に割り切れないわよ。もしも今よりローザたちとの距離が縮まったら、セリナはここを出て行きたくなるかもしれない。

 吹き荒れる嵐が少しも収まらないのを見て取り、ルビカンテはセリナに向けた慈しみを苦笑に変えて私を見下ろした。
「風のバルバリシアをこうまで惚れさせるとは、セリナは恐ろしい娘だな」
「お前だって、何かあればそんな余裕は吹き飛んでしまうわよ。……そう、カインがセリナに惚れるとか」
「それはないだろう。あの男は白魔道士に心を寄せているようだ」
 そんなことで安心はできない。今はそうでもこの先どうなるかなんて分からないわ。
 セリナは求められれば応じてしまうに違いない。ゴルベーザ様に対してそうしたように、カインやローザが「一緒にいてくれ」と言ったら。彼女はきっと……。
 それでもカインが彼女に惚れるならまだいい、万が一セリナの方が惹かれてしまったら勝手に始末することもできなくなるのが怖かった。
 それにローザだって、同性だからと油断はできない。セリナは時々人間らしからぬところがあるから、性別なんてあまり問題にはならない気がする。
 ああ、想像したらまた腹が立ってきた。

 私にこんな思いをさせるなんて、セリナは酷い娘だわ。大体、いつまでそいつらと話してるつもりなの。早く戻ってきなさいよ!
「そんなに心配なら、セリナに頼めばいいだろう? 彼らよりも自分のことを大切にしてくれとお前が言えば、彼女は喜ぶと思うぞ」
「下手に出るのは嫌。言われる前に向こうから私だけを見つめているべきよ」
「我儘だな……」
 でも、セリナを奪われるくらいなら自尊心なんて捨ててしまっても構わないかしら。
 ローザのところに行かないで、私の相手をしなさいと、そう言ったら彼女は確かに喜ぶだろう。想像しただけで情けなくて恥ずかしいわ。
 ……もう、セリナの馬鹿。そんなにやつらがいいと言うなら、しばらくは私も相手してあげないんだから!




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