散歩日和
考えるまでもなく悪いのはスカルミリョーネの野郎だ。まったく余計なことしてくれやがったものだぜ。
一度それを見ちまったせいなのか、近頃セリナは外に連れて行けとうるさくて仕方がない。誰彼構わず顔を合わせりゃ、一緒にどっか行こうとせがむのだ。
諸悪の根源たるスカルミリョーネはもちろんのこと、バルバリシアやルビカンテを追いかけ回している内はいい。だが俺を巻き込むなってんだよ。
しかも放置がすぎるとゴルベーザ様まで誘って出かけようとする。身の程ってもんを知らないのか、あいつは。馬鹿なのか?
で、ゴルベーザ様の手を煩わせるくらいならばと仕方なく俺が相手するはめになる。
バロン王に成り代わるための下準備で忙しいってのに、なんで俺がガキのお守りまでやらなきゃならねえんだ。
それもこれも全部スカルミリョーネが半端に構ってやったせいだ。適当にあしらっときゃよかったんだ、阿呆め。
あーあ、めんどくせえ。人間の小娘を連れ出してお散歩とはな。平和は性に合わねえぜ。
「ぎにゃあああああああ!!」
人間もモンスターもほとんどいない静かな平原で馬鹿みてえな悲鳴が轟いた。見ればセリナが必死の形相を浮かべて疾走するのをゴブリンの集団が追い回している。
なんであんな雑魚にまで襲われてるんだ。しかもありゃ、数は多いがぜんぶ幼体じゃねえか。
全力でこっちに疾走してくるセリナの肩越しに俺と目が合った途端、ゴブリンどもは散り散りに逃げ出した。
わざわざ殺す時間が無駄になるほどのつまんねえ小物だ。しかしセリナは九死に一生を得たかのごとく疲れ果てている。
「あああ……死ぬかと思ったぁ……」
あれでどうやったら死ねるのか、俺にはサッパリ分からん。戦ってすらいねえのに何を満身創痍になってんだよ。あり得ねえ。
「ったく、何をやってんだかねぇ」
暇だ退屈だ外に出たいと喚いて我が儘を通した結果がこの有り様だ。安全な塔の中にいた方がよっぽど楽だろうに、好き好んで命を危険に晒すとはな。
「自分から危険に突っ込んでくんじゃねえよ。そこまでガキじゃねえだろ」
「う〜、だって、いきなり襲ってきたんだもん! なんで? 私なんにもしてないのに」
何にもしなくったって人間を見りゃ襲ってくるに決まってんだろ。魔物なんだぞ。しかも野生だ、当然ゴルベーザ様の「セリナを傷つけるな」という命令も意味をなさない。
外に出たいと言ったのは自分なんだから、塔の中にいるのと同じ気分で暢気にやってんじゃねえよ。
「カイナッツォもさ〜、のんびり甲羅干しなんかしてないでちゃんと助けてよ〜」
「誰がカメだ、ああ?」
俺に助ける義務はない。外に連れ出してやった時点で役目は果たしてるだろうが。
弱っちいくせに自由なんか求める方が身の程知らずなんだ。生きてるだけでとりあえず満足だろ。だったら与えられた部屋の中でじっとしてろ。
俺の見てない時になんかあったらどうする気なんだ。言っとくが、勝手に遠くへ離れたセリナが死んでも責任なんて取らねえぜ。
それとも何か、わざとか? そうやって自分の弱さを盾に、俺たちに気を揉ませるのが狙いか? ……んなわけねぇ。ゴルベーザ様に叱られようがセリナを心配なんかするかよ。
俺は認めない。絶対、自覚なんかしないからな。心配してほしいならルビカンテあたりにでも期待しろっつーんだ。
……ああまったく、救いようがねぇな。やっぱり平和ってヤツは好きになれねえぜ。余計なことばかり考えちまう。
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